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宮澤崇史「全日本選手権ロードレース2019」

Posted on: 2019.07.03
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6月30日、全日本選手権ロードレースが富士スピードウェイで行われた。1周10.8kmのコースを21周する227kmで争うレースだ。

天候は雨。

時折ゲリラ豪雨になるという予報もあり、レースが中断される心配もあったが、最後まで熱い熱いバトルが繰り広げられ、2019年の勝者は入部正太朗(シマノレーシング)となった。

スタート前、直前まで体を冷やしたくない選手のジャケットを取りに集団に入っていくと、普段のレースとは全く違う、懐かしい雰囲気を感じた。

そう、この日は誰が一番になるか、それだけを目的とした戦いの場だ。

選手を送り出すスタッフは、ここまでが仕事。

そして補給を渡しながら、ただただ自分の送り出した選手の走りに祈ることしかできない。

それをわかっている選手は、自身の最高のパフォーマンスを出すために、確認作業を繰り返し繰り返し、修正を入れ、ライバル選手たちの動きに目を光らせレースを進める。

新城幸也、別府史之の二名はソロ参加のため、チーム参加している日本チームの動きに合わせて動かなければならない。

今回のコースは位置取りが上手くいけば、コーナー後の加速やアタックで集団を苦しませることができるが、その動きにも限界はある。

主力チームの逃げができたときに乗り遅れているチームがなければ、積極的に揺さぶり追走で前に追いつく展開が続くと予想していた。

僕は補給地点で見ていたので、レース全体を見れていなかった者としてのレースを話してみたい。

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5周目前に逃げていた9名に、追撃で9名が合流した中に幸也がいた。この時、フミが少し苦しそうな表情に見えた。

8周目に徳田が一人逃げを作り、集団はようやく落ち着くこととなる。ここから12周目までは補給祭りだった。

集団は前半の動きでだいぶ消耗しているように見え、レースが半分も終わっていないのに、半数以上の選手の顔がすでに歪み始めていた。そんな選手たちが十分に補給をし、後半に備える時間帯だ。リオモ・ベルマーレからは米谷が残っている。

選手逹への補給をしていると、幸也にボトルの水をピュっとかけられた。ああ、冷静に周りが見えてるなあ、と素直に思った。

多くの選手が補給を受け取る時さえも目が血走っているくらいの雰囲気だったから、幸也の冷静さが際立って目に止まる。

後半15周目、徳田が吸収されると集団の動きが活発になる。フミが思ったように走れていないことにはすぐに気が付いた。

幸也も時折きつそうな上半身の動きを見せるが、復帰戦ということを考えると苦しいながらもよくここまで持ってきたと感心さえした。

18周目。小石、幸也、海の3名が飛び出し、決定的か?と思われたが、集団が迫ってくる。必死に逃げを成功させようとしていただけに、吸収されてからの動きにはかなり厳しいこの後半の動き。

しかし幸也が吸収されてからもまたもやアタックし、入部、横塚の3名で補給地点にまたも現れた。

思わず二度見した。

横塚が入っている。

横塚はリオモ・ベルマーレで走っていた時、人一倍パワーがあるのに使い方が下手なのと、走りの雑さが足を引っ張っていた。

UKYOに移籍が決まり、快く送り出した後も、スペインでの走りではまだまだ雑さがあることを聞いていたが、今のこの瞬間ここに残ってきたか!!!と。

思わず「慌てるなよ」と声をかけてしまった。

本当に親が子を見るかのような心境とはこんな感じなのだろうか。

横塚はスプリントになると、今までのきつさはどこに行った?かと思うようなスプリントを見せる。

疲労していてもマックスパワーに近いスプリントができる選手なのだ。

2年前の矢板ロードでは、入部を抑えて大差でスプリントを制した。

タイ合宿では、幸也の後ろを追いかけてトレーニングをさせてもらい、幸也は横塚の弱い部分を多分熟知しているだろう。

残り1周、その予想が的中した。

上りで幸也がペースアップすると、横塚が少しずつ少しずつ離されていく。

「ギアを落とすな!」と心の中で叫んだ瞬間、横塚のチェーンはインナーに落ちていた。

OMG!!!!

入部はなんとか追いつき、横塚を置いていきたい幸也は一人、黙々と前を引き続ける。

幸也と入部のマッチスプリントなら、もしかしたら幸也が勝つかもしれないな、と予想した。それは、入部には昔のようなスプリント力が今は無いからだ。

トラックをやっていた入部は、シマノに入った時こそスプリント力があったが、ここ数年は逃げや上りもこなせる選手になり、かなりスプリント力は低下していた。

しかし幸也は逃げ切りをはかり、スプリントに持ち込ませない作戦に出た。

入部は、ここまできたらスプリント勝負しか勝てる方法が見出せなかったのではないだろうか。

なぜなら横塚は見える位置にきていることはわかっているが、引き離すために幸也とローテーションするほどの力はすでに無い。

後ろとは1分以上の差があることを考えると、3名でのスプリントにするのが入部にとって今できる「最大限自分が勝てる方法」のように見えた。

最悪、横塚を引き離そうと2名でローテーションした先で、幸也にアタックされたらついていける自信がなかったのではないだろうか。

逆に幸也は3名のスプリントではなく、入部とのマッチスプリントでもなく、アタックで引き離して単独でゴールする作戦に出た。

結果的に入部を引き離すことができずスプリントへ。

そして入部が2019年の全日本選手権を制した。

前半から積極的に動いたフミは残念ながら途中で集団から遅れてしまったが、あれだけキツイ展開を作り、尚勝負をしようとしたという精神力はものすごく強い信念を感じた。

今回はどの選手もどのチームも日本一になるために準備し、何が何でも勝ちたいと強い思いの中でスタートした。日本で一番になることは本当に難しく、今回のような体力、精神力、自転車を扱う丁寧さ、先を読む力、相手の考えを読む力、たくさんの要素が合わさらないと勝つことはできない。

最後まで熱い想いをペダルにぶつけている選手たちの生き様がかっこよく、現地にいて楽しく見させてもらった。

来年は2020年、東京オリンピック。

今度は幸也が(行くかは別として)世界のトップ選手に今回の入部のように一泡ふかせるような走りを見せてくれたら嬉しいな。

そんなことを思いながら、富士スピードウェイを後にした。

AUTHOR PROFILE

宮澤 崇史 みやざわ たかし/1978年生まれ。イタリア在住自転車プロロードレーサー。高校生でシクロクロス世界選手権に出場、卒業後イタリアのチームに所属。しかし2001年、母に肝臓の一部を生体移植で提供し手術のハンディもあり戦力外通告を受ける。再びアマチュア選手としてフランスで活動し実績を重ね 2007年アジアチャンピオン、2008年北京オリンピック出場、2010年全日本チャンピオンになる。2012・2013年はカテゴリの最も高いUCIプロチームに所属。2014年のジャパンカップで現役を引退。 筆者の公式ブログはこちら

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