宮澤崇史「イタリアの自転車選手の今」

Posted on: 2018.01.23

ヨーロッパの現在を再認識したく、NIPPO VINI FANTINIに所属している若手の2名の選手にインタビューした。

◇フィリッポ・ザッカンティ(22歳)
タイプ:クライマー
https://www.procyclingstats.com/rider/filippo-zaccanti

◇イメリオ・チーマ(20歳)
ツールドラブニールでステージ2位、3位、スプリント賞3位
タイプ:スプリンター
https://www.procyclingstats.com/en/rider/imerio-cima

ザッカンティはクライムが強いアンダー4年目の選手、イメリオはスプリンターで20歳ながらアンダー23のツールドフランスと呼ばれるツールドラブニールでステージ2位、3位と世界のトップレベルのU23選手で、イタリアを代表するスプリンターになるだろう選手。

今回インタビューしようと思ったきっかけは、私がLEOMO Bellmareで若手育成をしている上で、自分が若かった頃と今とのギャップや、今だからこそ選手が強くなるために必要な事を実際に話をして知ることが必要だと思ったからだ。


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宮澤「2名はいつから自転車を始めてる?」

フィリッポ「12歳から友達に誘われてなんとなく始めて見たのがきっかけ」

イメリオ「8歳の時両親から進められて自転車に乗り始めて、他にもサッカーをやって見たけど自分にあっているのは自転車で、自転車が好きだからサッカーは辞めてしまった」

宮澤「レースとトレーニングはそんなに若くから初めてどんな感じでしていたの?」

フィリッポ「週に1度自分が住んでいる街のクラブチームのトレーニング会があって、そこで練習していて、レースは週に1度近所で行われるレースに参加するくらいかな〜」

イメリオ「そうだね、自分もそうだった。基本的には自転車に常に乗ることはなくて、遊びの延長で自転車があるくらいだね」

宮澤「何歳から何歳まで〇〇なトレーニングやってて、○歳からトレーニグに変化がでたってことはあった?」

イメリオ「そうだね、15歳くらいまでは週に1度のトレーニングと週に1度のレースは変わらずやっていたし、トレーニングといっても、今日は〇〇ジェラテリアにアイスを食べに行こう!といった感じで、ただの遊びの延長でやってた。それが16歳,17歳くらいから集団で先頭交代するようないわゆるレースの為のトレーニングが入ってきたね。週に1回のトレーニングも週に2回〜3回に増えたし」

フィリッポ「そうだね、俺も17歳までは遊びでしか自転車に乗っていなかった。でも、アンダー1年目で勝てなくてすごく苦しい思いをしたんだけど、2年目になってトレーニングの距離や、インターバルの量を増やし始めたら、一気に勝てるようになったんだ。」

宮澤「日本では月に2500kmとか3000kmもトレーニングするジュニア選手がいるんだけどどう思う?」

イメリオ「マジで?それはやりすぎだね。そんなことしたら将来強くならなくなっちゃうじゃない。なんでそんなことするの?」

宮澤「日本にはメンタル的な満足を教える人が多くて、とにかく長い距離を乗らせようとする人が多いんだよね。

フィリッポ「日本にはちゃんと教える人が必要だね。選手がどんどん潰れていっちゃう」

宮澤「へ〜、トレーニングを始めるのも遅かったんだね。でもさ、ジュニアの時とか例えばナショナルチームに入る選手とかは、すごく練習してるでしょ?世界選手権とかでも良い順位に入るし」

イメリオ「そうだね、彼らはトレーナーがついて距離やインターバルの量も多くて、すごく強いよ。でも、自分が世話になっていたトレーナーは、今結果を出すことに急いで将来強くなれなかったらどうだい?そこで強さが止まってしまったら終わってしまうよね。そう話してくれたから、それを信じてトレーニングを急がなかったし、本当に自転車に乗って遊んでただけなんだ」

フィリッポ「そうだね、自分たちよりも先の選手を見ても、ジュニアが終わって成長できない選手はとても多かったし、そういった選手のことを知ってるトレーナーは多いから、自分たちはまだまだ先を目指して頑張れてるんだ」

宮澤「イメリオはプロツールに声をかけられてもおかしくない成績を出しているけど、実際のところ声かけられなかったの?」

イメリオ「そうだね、プロツールからは声はかからなかったけど、もし声がかかっていても自分の意思はそっちに向いてなかっただろうね」

宮澤「なぜプロツールを見てなかったの?」

イメリオ「20歳の僕にとってプロツールはとてもじゃないけどステージが高すぎる。それに経験も少なくてそんな高いところに入ったとしても、毎レース苦しくて思った通りに走れないことは明白でしょ。」

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なかなかしっかりしてる。

普通はプロツールに声をかけられれば、すぐにでもサインしたいと思うのが選手の欲だろう。しかし、自分の年齢やこれからの階段をしっかりと自分自身が描いている。

フィリッポは上りが得意で、普段のトレーニングでは12km~15kmの上りのトレーニングを好んで行なっている。

イメリオはスポリンタートして集団に残らなければならないし、上りが当面の課題だが焦ってはいない。自分のトレーニングはトレーナーと話し合って、自分がやりたいことを伝えて自由にやらせてもらっている。

アマチュアの時は全てを監督が「コレをやれ!アレをやれ!と言われていて、とてもやりにくかったけど、プロになってそれがなっくなった。自分が納得する方法や間違ったことを何が間違っているかしっかり説明してくれるこのチームNIPPO VINI FANTINIに入れてよかった。」と言っている。
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宮澤「今年2018年の目標は?」

フィリッポ「とにかくいろいろ経験して、アシストとしてしっかり働くことだね。強くなるためにはそれが近道だし、選手としてもっと成長しないといけないと思ってる」

イメリオ「今年は自分の特徴を生かして、日本人に対して、イタリア人に対してみんなに対してしっかりとアシストしていきたい。もし自分が勝てるチャンスがあったとしても、監督がアシストをすることを自分に指示したのならば、喜んで勝つ事ではなくてアシストに徹するよ。」

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NIPPOに入ったらもしかしたらジロにでも出れて、有名になれるんじゃないかも〜。という気持ちで考えている日本人がいたとしたら、それは大きな間違いだろう。イタリア人にとってジロは自転車人生においてどこまでも続く大きな夢だが、そんな夢を持っている若者でさえも、ここまで考えて選手として自身の成長に真剣に向き合っている。

今回のインタビューで、あまり知らなかったこれからの若手の気持ちをストレートに聞けてとてもよかった。これからのこの2名の選手の活躍を期待したい。

facebookページで、中学生(2000年生まれ)~高校生(2004年生まれ)を対象に限定公開のグループを作っている。主にトレーニングの報告や、内容のアドバイスをしているので、興味のある選手は申請いただければ承認いたします。
https://www.facebook.com/groups/309600989556873/

かつてのチームメイト、クリスアンケル・ソレンセンに会った。彼もまた若い選手を育成しようとまだ走っている。今年で引退するようだが、素晴らしいファイターだ。

AUTHOR PROFILE

宮澤 崇史 みやざわ たかし/1978年生まれ。イタリア在住自転車プロロードレーサー。高校生でシクロクロス世界選手権に出場、卒業後イタリアのチームに所属。しかし2001年、母に肝臓の一部を生体移植で提供し手術のハンディもあり戦力外通告を受ける。再びアマチュア選手としてフランスで活動し実績を重ね 2007年アジアチャンピオン、2008年北京オリンピック出場、2010年全日本チャンピオンになる。2012・2013年はカテゴリの最も高いUCIプロチームに所属。2014年のジャパンカップで現役を引退。 筆者の公式ブログはこちら

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