宮澤崇史「世界一の勝ちに繋がるために」

Posted on: 2019.08.27

僕には世界を目指す日本人を応援したいという気持ちが、とても強くある。

そして、その選手たちがいつの日か世界最高峰のレースで活躍し、途中で挫折していった選手たちを乗り越えていくこと、多くの選手達が世界に挑戦することが当たり前になっている自転車界を夢見ている。

僕はサッカーはあまり普段見ることはないのだけど、W杯の予選や本戦になると結果が気になるし、観戦することも勿論ある。

普段はあまり興味がないことでも、試合の内容が変わると見たくなるというのは面白いと思う。

僕が居るロードレース業界、残念ながら日本の中で自転車の競技はマイナースポーツだ。

一昔前は見向きもされなかった自転車だが、ここ十年の自転車ブームもあって、街には自転車に乗る人を、それもロードレーサーに乗る人を多く見かけるようになった。

とても嬉しいことだし、多くの人に競技にも興味を持ってもらえるんじゃないか?とも初めは思った。

しかし、自転車に乗ることは気持ちがいいけど、レースをするわけではないし、それほど興味がないという人が多い。

いても、「ツール・ド・フランスは見たことがあるかな〜」という人たちが殆どだ。

これはまさに、「公園で子ども達がサッカーをしているのを見るとワクワクして一緒にやってみたくなるけれど、Jリーグの試合を観に行くわけではないんだよね。ワールドカップは見るけど」

という、僕のサッカーに対するスタンスと同じ心理状態に似ている。

Jリーグは観ないけど、海外に出て行った日本人がイタリアやフランスで活躍すると観ていた自分を思い出す。

この二つの試合は何が違うのだろうか?

日本で活躍するJリーグとW杯の予選では何が違うのか?

それは、世界一になる試合か、日本一になる試合か。

という大きな違いがあることに気がつく。

ロードレースを知らない人から、「沖縄の選手(新城幸也)有名ですよね、なんかツール・ド・フランスとか聞いたことがある」

と言われることがある。

今年の全日本選手権で勝った入部選手は日本を中心に活躍している選手だが、ロードレースを知らない人には全く無名の存在だろう。

この二人の違いは、世界一位になるレースに参加したか、していないか。でしかない。

日本では、世界レベルのレースが一つだけ行われている。

「Jプロツアー」(以下 JPT)という実業団レースだ。

4年前、選手を引退して日本のレース界に戻った時、日本のレース界をなんとか世界に繋げることができないかと考えた。

そして、日本で世界のレベルで走れるレースは、JPTの、しかもそれを走るジュニア(17才〜18才)のレースだということに気がついた。

それは、僕がジュニアだった時代の境遇と重なっているからだった。

初めのうち、関係者は皆「何言ってるんだ?」という反応だったが、2019年からジュニアの日本代表チームがJPTを走り始めて、状況は一変した。

ジュニア選手が、日本のトップ選手と肩を並べて勝負をしている。

一つの問題として、いくつかのチームがフランスやイタリア、スペイン、ベルギーで別々に走っているが、次のステージ(世界のチームとの契約)に上りつめた選手は少なく、個人で世界のアマチュアチームと契約を結べている選手は数名しかいない、という現状がある。

こういったバラバラになっている世界を、一つにできないだろうか。

日本にも将来芽が出そうな選手はいるが、残念ながら絶対数が少ない。

正直、ヨーロッパのアマチュアチームで戦える戦力を持つ選手ですら数名だろう。

そんな中、今年は日本のジュニア選手がJPTのレースに出始めた。

日本トップの選手に混じり、ギア制限(ジュニアは軽いギアしか使えないので不利)がある中で、見事に結果を出し始めている。

東京オリンピックが決まった2013年、「今すぐ東京オリンピックに向けて動き始めないと間に合わない!」とブログで書いていたことをついこの前のように思い出す。

僕が言い続けてきたことが今、良い方向に向かっている状況になってきた。

オリンピック直前の2019年まで動けなかったのには理由があるだろうが、ようやくここまで来れたと感慨深い気持ちになった。

「今すぐ東京オリンピックに向けて動き始めないと間に合わない!」

の内容は、日本のチームが一つになる必要があるということだ。

世界一になるためには、自分たちが出るレースが世界一に繋がっているか?という問いかけを常にする必要がある。

ジャパンカップに優勝しても、ツアー・オブ・ジャパンに優勝しても、世界一には繋がっていない(誤解を生まないために…ジャパンカップやツアー・オブ・ジャパンは意味がないという意味では決してない)。

ヨーロッパで活躍しているチームはあるし、そこをステップに世界に飛び出すことはできる。

日本のチームが一つになる構図には、3つのカテゴリーがある:

⑴頂点は一つのチームで、日本のトップ選手が世界で戦う精鋭揃いのチーム。しかし、結果を出せない選手はセカンドチームへの降格もありえる。

⑵中間のチームも1つのチームで、アジアを中心に日本のレースも走る。アジアでUCIポイントをとり、オリンピックや世界選手権に繋げるチーム。結果次第ではトップチームに入り、世界で戦える。

⑶一番下のカテゴリーは、日本で今まで通り10数チームがしのぎを削り、有能な選手はセカンドチーム、飛び級でファーストチームにもジャンプアップできる選手たちがしのぎを削る。

この構図が描けると、今までドメスティックな、世界には到底繋がってない一番下のカテゴリーである日本のJPTが、世界一に繋がるレースに豹変する。

ファーストチームから先は選手個々が契約を取り、世界トップチームと契約ができるよう結果を出す。

ワクワクしないだろうか。

人はワクワクしたり、鳥肌が立つ瞬間の気持ちがとても大切だと僕は思っている。それは、世界一に繋がっている、という興奮だ。

僕が常に上に上がるために、こうなりたい!世界につながりたい!と願って行動してきたことが、ここに繋がっている。

なかなか伝えられなかったことだが、これからは言葉にしてこうして伝えていきたいと思っている。

長い長いブログを読んでいただき、ありがとう!

必ず、日本から世界一を目指す選手が溢れ出るような自転車界を作ります。

AUTHOR PROFILE

宮澤 崇史 みやざわ たかし/1978年生まれ。イタリア在住自転車プロロードレーサー。高校生でシクロクロス世界選手権に出場、卒業後イタリアのチームに所属。しかし2001年、母に肝臓の一部を生体移植で提供し手術のハンディもあり戦力外通告を受ける。再びアマチュア選手としてフランスで活動し実績を重ね 2007年アジアチャンピオン、2008年北京オリンピック出場、2010年全日本チャンピオンになる。2012・2013年はカテゴリの最も高いUCIプロチームに所属。2014年のジャパンカップで現役を引退。 筆者の公式ブログはこちら

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