佐藤一朗「速く走るために必要なこと」

Posted on: 2022.05.01

自転車に限らずどんな競技でも競技力を上げようとする場合様々な要素が絡み合っています。本気で競技力を上げようと思ったときにはその絡み合った要素を冷静に判断して取り組む課題の優先順位を決定する事が必要です。

またいきなりわかりにくいことを言い始めましたね。これまで佐藤一朗の雑誌の記事やネットのコラムをご覧頂いた方には「またか」と言われてしまいそうですが、わかりにくくて申し訳ありません。本人はいたって真面目に”わかりやすく”説明しているつもりですが、熱くなると直ぐに深掘りしてしまうために、結果としてわかりにくい文章になってしまいます。根気強くお付き合い頂ければと思います。

話を戻しましょう。

例えばもし今あなたが怪我や故障をしていたとします。もちろん程度にはよりますが、怪我や故障が酷い状態であればトレーニングをしようとは思わないでしょう。

その場合、怪我や故障の治療・回復はトレーニングよりも優先されるはずです。

トレーニングを休むことで一時的に競技力は落ちてしまいますが、無理をして悪化させてしまったり、患部を庇って代償動作の様な変な癖を付けてしまっては結果的に本来の調子を取り戻すまでの時間が長引いてしまうからです。

それと同じように、自分が目標としている競技力に達する為には、今の自分が持っている競技力を冷静に判断して何が不足しているのか、何を改善すれば良いのか、結果として最短で目標を達成する為の優先順位を考える事が必要です。

少し古い話になります。

私が競技を始めた今から40年程前は、自転車競技のトレーニングと言えば”とにかく自転車に乗れ”といった風潮があり、競技を始めて2年目の16才の頃には長いときで1日300km近く乗ったこともありました。当然ですが1日かけてその距離を走るのでペースはほぼサイクリング状態。

その結果身についたのは長く乗る事が出来る体力と、苦しいことに耐え抜く根性でした。そんな状態でトラックのレースに出場するのですから、ダッシュ力はおろかトップスピードも低く、高校1年の新人戦(11月)で走った1kmタイムトライアルはたしか1分13秒くらいだったと思います。当然勝てる訳はありません。

高校2年になる頃にはウェイトトレーニングを取り入れたり、もがき練習、坂道でダッシュする練習などを取り入れ、徐々にスピードもついてきた様に思います。

もしあの時、あのまま長い距離だけ走っていたらその後の競技成績は散々で、今頃違う職業に就いていたのは間違いないでしょう。

その当時から将来は競輪選手になりたいという目標があり、競輪好きの父のアドバイスもあって、どこからか「競輪選手がやっている」と聞きかじってきては色々な練習を取り入れて行きました。

おかげで高校卒業する頃には本格的な短距離選手には敵わないまでも、そこそこのダッシュ力とスプリント力を身につけていました。

競技を続けて行く上で最も大切な事は「明確な目標」を持つことだと思います。週末にふらっとサイクリングを楽しむくらいなら特別な目標は必要ないかもしれませんが、たとえホビーだとしても競技としてやっていくのであれば夢や目標を持つことは何よりも大切だと考えています。

例えば「ヨーロッパのプロロードチームで走りたい」とか「競輪選手になってGPに出場したい」と言った職業に繋がる夢でも良いでしょう。「富士ヒルでシルバーを獲得したい」などという趣味の目標でも良いと思います。

大切な事はしっかりと夢を描き、目標を立てて、それを達成する為のプロセスを考えることです。そして出来る事であれば、目標達成までの期間(時間)を決め、そこから逆算していついつまでに○○を実行する、○○に到達すると言ったような通過地点「ランドマーク」を作りましょう。ただ闇雲に目標に向かって行ってもそれで夢が叶う程人はそんなに強くありません。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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