佐藤一朗「トレーニングの目的と効果」

Posted on: 2022.09.24

トレーナーズハウスでは指導依頼を受ける際に必ず行う2つの質問について以前お話ししました。

Trainer’s Houseのトレーニング理論①
1つは対象選手の競技力を知るための情報、そしてもう1つは対象選手の目標もしくはランドマークを共有するための情報です。

それを踏まえてまず最初に行うのが動作解析による競技力の推察で、そこから目標に向けて必要なトレーニングプログラムを考えて行きます。

こういう形で書くとなにか仰々しいですが、簡単に言うと「指導する選手の競技力を把握し、何のために指導を受けたいか理由を聞いてそれに併せたトレーニングプログラムを組み立てる」と言うことです。

言ってしまえばそれだけの事なのですが、指導の現場にいらっしゃる方ならそれがどの位大変な事か想像つくと思います。なにせ初めて会った選手の現在の能力を把握し、目標に向けて何をすれば良いか僅か半日で判断するのですから。

もちろん完璧なプログラムを構築する事は出来ませんが、少なくとも限られた時間内でできる限りの情報を提供するように心がけています。

実際の現場ではトレーニング指導すると同時にもう力を入れている事があります。

それは組み立てたトレーニングプログラム、あるいはトレーニングメニュー1つ1つの“目的”“実施方法”を正確に伝えることです。何のためにこのメニューを行うか、どの位の負荷(ギアレシオ等)、セット数、インターバルが効果的で、何故その選択をする必要があるのか?と言うところまでできるだけ詳しく説明します。

理由はもちろん日頃のトレーニングの際にそれを活用して貰うためです。

チームの専属コーチとして常日頃帯同しているのであればその都度指導すれば良いのですが、私のようにスポットで指導に行く形を取っている場合、帯同していない時にこそ効果的にトレーニングを行う必要があるため、選手自身、あるいは所属先の指導者(コーチ)の方に理解して貰う必要があるからです。

人から見聞きしたトレーニングメニューをこなす事は少し競技を知っている人であれば難しい事では無いと思います。しかし同じメニューであったとしても意識するポイントが違ったり、負荷やセット数が違えば目的や効果は全く別のものになってしまいます。

その選手にとって効果的なトレーニングプログラムにする為には、しっかりと目的と実施方法を理解して貰う必要があります。

👉トレーニングの目的を理解する
Program1:ウォーミングアップ
競技をされている方であれば誰もがウォーミングアップを行った経験はあると思います。言葉通りで解釈すれば身体あるいは筋肉を温めることと考える事ができます。

一方で最近の夏期の気温を考えると温めすぎによる弊害も少なくありません。

また競技によってはウォーミングアップを行わずにストレッチ程度の方が良いという競技があったり、逆に静的なストレッチで筋肉を伸ばすのでは無くアクティブストレッチ(ダイナミックストレッチ)の様に身体を動かし積極的に筋肉に刺激をいれるタイプのウォーミングアップ(この場合は運動の準備?)を行う競技もあります。

では自転車競技ではどんなウォーミングアップが良いのでしょうか?

私が指導している現場では二通りのウォーミングアップの方法を取り入れています。

1つは競技場(バンク)を周回する事で行うウォーミングアップ、もう1つはローラー台(固定もしくは3本)を利用して行う方法です。

トラックであれば競技場で周回することが一般的だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、試合当日にウォーミングアップが必要な時間帯に競技場を使用出来ない事も少なくないため、トレーニングの段階からローラーでのウォーミングアップも定期的に取り入れて慣れて貰うようにしています。(ウォーミングアップの練習とも言えます。)

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自転車競技におけるウォーミングアップの必要性を理解する
自転車競技は他の多くの競技と違い自重を下肢の筋力で支えることのない競技です。その為着地による筋肉や関節に負担はありません。一方でエネルギー代謝による急激な負荷かかかりやすい競技でもあります。(少し表現が難しかったですね。)
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多くの競技で当たり前のように使われる脚力ですが、飛んだり走ったりする際筋力を使って地面を踏み込んで出力する時よりも、着地する際にクッションの様に使う時の方が筋肉や関節に大きな負担をかけています。

筋トレをする時にコンセントリックよりもエキセントリックの方が負荷が高いことと同じ原理です。

自転車競技では筋肉に対してエキセントリック的負荷(筋肉に力を入れながら伸展する状態)がかかる事は無いため、そういった刺激に対応するために筋肉や関節を温める必要は他の競技に比べて少ないと考えています。

一方で自転車競技は走る際にギアレシオという目的に応じて変化する負荷をかけられる競技でもあります。簡単に言えば平地でジョギングする程度の負荷からスタートする事も出来るし、登山の様な傾斜の坂道で走り出すような負荷をかける事も出来ます。

また種別によっては効果的なトレーニングをする為に疲労度の少ないトレーニング開始直後に高強度の負荷(高いギアレシオ)をかけなくてはならない場合もあります。

これらの事を踏まえて考えると、自転車競技に取って必要なウォーミングアップとは、スムーズなエネルギー代謝が行える準備をする事が最優先になります。下記は実際にトレーニング指導にあたる際指導者(コーチ)に配布する資料「トレーニングの目的及び実施方法」からの抜粋です。

○周回練習(ウォーミングアップ)
目的:ウォーミングアップ周回は心拍数を上げ運動を行う筋肉に対して十分な血流(酸素供給)を促す為に行う。

出力の大きい速筋繊維はエネルギーを作る際、ピルビン酸や乳酸などの酸性物質を産生する。

それらの酸性物質は持久系の遅筋線維でエネルギー源として代謝されるが、血流が上がっていない状態(酸素の供給が少ない状態)で高い出力を行うと遅筋線維での代謝が追いつかず、筋肉は酸性物質の増加により酸性へと傾き出力の低下などその後のトレーニング効果に悪影響を与える。そこでトレーニングの始めに一旦心拍を上げ遅筋線維に対する酸素の供給量を上げておく必要がある。

方法:速筋繊維を優先して使わないよう軽いギア(低負荷)を使用し、比較的ゆっくりとしたペースから開始する。運動をしていない状態で開始する場合には400mバンクで30周(20分)程度、ロードバイクでの移動やそれ以前にトレーニングを行っていた場合には20周(15分)程度行う。

始めの10周はリラックスした状態で走行し、次の10周で徐々にペースを上げ、ラスト10周は心拍が上がるペースまで上げて行く。

競技力が劣る選手や体調不良が原因で周回から遅れた選手がいた場合、無理に踏ませず心拍が下がるまで軽く周回をさせ降車させる。また心拍が上がりきらなかった選手は周回終了後100m程度のダッシュを行い筋神経の促通を行うと同時に少し強めの刺激をいれ心拍を上げる。

※心拍を上げる目安は最初の10周HR Max50~60%、次の10周60~70%、最後の8~9周70~80%、最後の1~2周80~90%のイメージ。(選手体感に個人差あり)

このように選手が効果的なトレーニングを行うためには、そのトレーニングの目的を理解し最優先の課題を意識しながら行う必要があります。

そして指導者(コーチ)がトレーニングプログラムを作成する際には選手個々、あるいはチームの現状を把握した上で目的に沿って最大の効果を発揮する為に必要なプログラムを構築するスキルが求められると言うことです。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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