佐藤一朗「Trainer’s Houseのトレーニング理論 ④」

Posted on: 2022.08.17

前回に引き続きポジション別の評価方法についてお話しします。

Ⅱ.中速域ダンシングポジションの評価
中速域ダンシングポジションでのポイントは、ケイデンスの上昇と共に速くなっていく左右の重心移動をコントロールし、下死点での抜重の遅れによる加速の低下を防ぐことです。

そこで左右の重心移動の幅やその動きの評価を行い易くするために軽めのギアを用いた中間速度域からのダッシュをインターバル形式で行います。

⦿フライングダッシュインターバル 100m
・ギア設定 : ケイデンスが上がりやすいように通常のトレーニングギアよりも後ろ1枚〜2枚程度軽めに設定。
・距離 : 100m
・インターバル : 3分程度
※低負荷スキル系のトレーニングの為あまり長いインターバルを取らない。
・準備 : 低速域ダンシングポジションのスタート合図としたマーカーを残し、そこから100m地点にゴールの合図となるマーカーを設置する。

・トレーニング方法 :
バンク上段をゆっとりと周回し、4コーナーからシッティングのまま惰性でバンクを降りペースを上げる。なるべく早いタイミングでスプリンターレーンに入り、スタートのマーカーから100m地点にあるゴールマーカーまでダッシュする。

・撮影方法 :
ペダリングによる左右の重心移動の様子を選手正面から撮影するため、ホームストレッチのスプリンターレーンの延長線上、1コーナーのステアーライン付近で撮影する。

撮影に当たってはなるべく選手を正面から捉え、ダッシュ開始から1コーナーに入るまで連続して撮影し、左右それぞれの踏み込み側のペダルが下死点に到達した付近の画像をそれぞれ選択する。撮影した画像は評価しやすいようにトリミングを行った後、自転車の中心を通る線を入れる。 (ヘッドパイプを目安にすると引きやすい)

評価ポイント① : 左右の重心移動の幅
中速域ダンシングポジションではペダル加重時の反作用はそれほど大きくない為、上半身全体を使ってハンドルを引きつける必要は無くなり、踏み込む側だけで自転車のバランスを取りながら必要に応じてハンドルを引きつける程度となります。

またそれと共にペダル加重を行わない側(引き上げている脚)の上半身は脱力に近い状態になるため自然と重心は踏み込む側に移動します。この時、引きつけの幅が大きくなると重心の移動も大きくなり、下死点を通過しても踏み切った側のペダルに体重が残ってしまいます。

ペダル加重のロス(加速の低下)を防ぐ為、踏み込み側が下死点に達したポイントで反対側のペダルに重心を移動出来る状態(踏み込みを開始出来る状態)に保つ為には左右の重心移動の幅をなるべく小さくする必要があります。

自転車の中心に引いた線がヘルメットの幅よりも外側に出ている様であれば改善が必要です。

評価ポイント② : 体幹部の捻れ・移動の遅れ
このポイントは評価するのが非常に難しいポイントです。前方から撮影していると重心の移動はさほど遅れていない様に見えて、体幹部から骨盤にかけての移動が追いついていないケースがあります。説明が難しいので下の参考画像をご覧下さい。

画像をご覧頂くと一目で分かると思いますが、顔やヘルメットの位置を見る限り重心移動はスムーズに行えているように見えます。しかし体幹部、特に骨盤付近を見ると重心は完全に踏み込んだ側(左脚)のペダルに載ったままです。

この状態では反対側の右ペダルに体重を乗せることが出来ないだけで無く、左ペダルの上昇にバックをかけてしまい加速を鈍らせる事に繋がります。ヘルメットの位置だけで無く、体幹部から骨盤が同時に重心移動出来ているかどうかを確認し、出来ていない場合改善が必要です。

評価ポイント③ : 腕の引きつけによる重心の前方加重・左右の重心移動の遅れ
中速域ダンシングポジションの状態で加速する際、低速域からの流れで上半身特に上腕二頭筋・三角筋・僧帽筋上部繊維に過度の力みが入ってしまっている場合、ケイデンスの上昇と共に体重を支えるためハンドルに重心を乗せ必要以上に前方移動してしまうケースがあります。(評価ポイント②のSample画像が該当)

これ以外のケースでも上半身に力みが入りすぎて、体幹部から骨盤のスタビリティー(安定性)や移動の俊敏性を損ねてしまい、加速の妨げになる事があります。

こういった状況が見られる場合には、グリップから背部、体幹部、骨盤までのキネティックチェーン(運動の連鎖)を再確認し改善が必要です。

中速域ダンシングポジションでは、低速域のように身体全体で出力をするというのではなく、出力する所と緩める所のメリハリが重要になります。

しかし一方で緩める部位があると言うことはバランスを崩しやすく、動きをコントロールするための技術やそれを支えるスタビリティー系の筋群の強化が重要になってきます。

それを言い換えれば、背部や体幹部の強化がおろそかになっていると中間速度域での加速が鈍化しスタンディングスタートでの後半(返し)部分や、フライングダッシュ(ハロン)などのタイムに大きく影響を与えることになります。

また、ロードのアタック時に遅れる、シッティングからダンシングに移行するかしないか迷うようなスピード域での登坂などで遅れる選手の方は、この中速域ダンシングポジションを見直してみてください。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

佐藤一朗の新着コラム

NEW ENTRY