佐藤一朗「画像から導き出す選手個々の改善点」

Posted on: 2015.03.31

■動作解析[低速域ダンシングポジション] 

先日行った鹿屋体育大学春期合宿の動作解析レポートがようやく終わりました。枚数にして10,000枚、容量にして55GBのデータを全てチェックし、18名分の解析をレポートにまとめました。

毎年こうして解析をしていると選手の成長が見れるのでとても楽しいのですが、1人1人全ての改善点についてアドバイスを書かなくてはならないので大変です。その選手の個性や理解力、画像だけでは判断出来ない動きや、今後の目標に向けての整合性など選手個々を理解していないと上手く書けないからです。

そのため初めて走る姿を見る新入生の解析は繰り返し画像をチェックして、表れる改善点に「なぜそういう走り方になってしまうのか?」を理解するために先輩達の三倍の時間を費やしてしまいます。
 
何時もは抽象的な話が多いので、たまには実際にどんな事をやっているのか紹介しましょう。
 
まず1番最初に行うのが「低速域ダンシングポジション」での動作解析です。ウォークアップと呼ばれる歩く程度のスピードから腰を上げてダッシュする時の身体の動きを横から見て解析します。
  
ここでちょっと基本的な事をお話しします。
 
僕はペダルを踏む力を「ペダル加重」と表現していますが、このペダル加重はペダルを踏み込む脚力と体重を併せた力から、加えた力に反発する力「反作用」を引いた力の事を表しています。簡単な計算式で表すと次のようになります。

[脚力 + 体重 − 反作用 = ペダル加重]

低速域のダッシュでは最大トルクを必要とするので、ペダル加重に対する反作用も最大になります。つまり優れたダッシュ力を発揮する為には、如何にしてこの反作用を押さえ込んでペダル加重を大きくするかがポイントになります。
 
画像の左(2014年3月1年次)を見てください。

チームに新加入したばかりに行われた昨年の春期合宿での解析画像です。高校生にありがちなダンシングポジションです。ペダルに対して少しでも大きな加重をしようとハンドルを引き付けるた為に身体が前に移動しています。

この状態では体重はペダルだけでなくハンドルにも分散して加重しています。さらにペダルを踏み込んだ時の反作用を押さえ込む力を発揮しにくい状態になってしまっているため、ペダル加重は本来持っている力に比べかなりかなりロスしてしまっています。
 
次に画像の右(2015年3月2年次)を見てください。

1年間課題を克服するためにトレーニングを積み重ねてきた現在の状態です。ペダルシャフトを通る垂線に対して身体の重心がほぼ一致し、ペダルに対して体重を最大限加重出来るポジションにあります。

またペダルを踏み込んだ時の反作用もハンドルを引き付ける力、背部の筋力、体幹部の筋力を上手く使いしっかり押さえ込めています。この状態であれば現在持っている力を最大限にペダルに対して加重出来ると思います。
 
こうして画像を見れば解りやすいのですが、最初の画像を見て何処の筋力を高め、どういった筋力の使い方を意識すれば良いのか、選手個々の改善点を導き出すのがコーチとして重要な仕事になってきます。

1人でも多くの選手を見て、1つでも多くの情報を得てなにがベストなのかを導き出す。その為にはまだまだコーチとしての勉強が必要です。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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