佐藤一朗「BMXトレーニングから掴む新たなヒント」

Posted on: 2015.06.01

自転車競技に限らずコーチという仕事(職業コーチに限らず)には幾つかの役割分担があります。中学や高校の部活であれば顧問の先生が1人で切り盛りする事も多いと思いますが、大学や実業団、プロチームや代表チームなどレベルが上がれば上がるほど専門分野を持ったコーチの重要性が増してきます。
 
僕自身競技経験者なので最初のうちは普通にコーチとして普段のトレーニング指導から、戦術やコンディションの作り方まで経験を基に選手の指導にあたっていました。

その当時はそれでも十分何とかなっていたのですが、競技レベルの高い選手、自分の経験を越える才能を持った選手が現れたとき「経験論」だけでは情報も知識も追いつかない事に気がつきました。それまで当たり前だと思っていたことも、1つ1つ考えて見ると知らないことばかりで、むしろ”考えた事もない”と言うのが正直な所でした。
 
選手を指導する仕事として代表的なのは監督とコーチです。監督はチーム全体の指揮をとったり、対外的な仕事も多いので選手を直接指導するのはコーチの役目になってくると思います。

コーチの仕事も実は多岐にわたり、レースそのもののテクニックや対戦相手を想定した戦術的なトレーニングを指導する競技コーチ/戦術コーチ、競技を行う上で基本的な身体的パフォーマンスを高める為の指導をするフィジカルコーチ、基礎体力や筋力を高めるための指導をするストレングスコーチなど、呼称は様々ですがそれぞれの分野に専門性が確立されています。

それ以外にも、運動生理学やバイオメカニクス、医科学的な見地からサポートするメディカルスタッフもいれば、選手のコンディションを管理する栄養士やマッサーなど選手をバックアップするために多くの人が関わっています。
 
では、なぜコーチの仕事がこんなに複雑になってしまったかと言うと、競技のレベルが「頑張ってトレーニングをすれば勝てる時代」では無くなってしまったからです。

僕が競技を始めた頃は素質を持った選手か努力した選手が活躍できる時代でした。素質のない僕は人より多く努力しなければならなかったので、良く無理をし過ぎて身体を壊したものです。(余談)

しかし1984年のロサンゼルスオリンピックを機に、オリンピックは商業的に儲かるイベントになり、その結果多くのスポンサーから大量の資金が導入され、「勝たなくてはいけないイベント」へと変化していったのです。

当然、素質のある選手に最大限の努力をさせるのはもちろん、医科学の粋を集めたより効果的なトレーニングを始め、栄養(食事管理)、ケア(マッサー)に至るまで選手の競技力を高める全ての事が求められるようになってきたのです。
 
さて、随分ややこしくなってきたので話を表題に戻しましょう。
 

日本代表の松下巽選手(photo:Trainer’s House)

先週、日本を代表するBMXの選手からメッセージを頂き、トレーニングに付いて少し意見交換をさせて頂きました。BMXには全く見識のない僕としては「自転車競技の基本」とも言われるBMXについて少なからず興味を持っていたので、楽しい時間を過ごす事が出来ました。

しかし、話を聞けば当然のように見てみたくなるもの。先日、スタートのトレーニングをするというので、治療院を半日で閉め見学に行って来ました。
 
トレーニングを見ていて率直に感じたのは、日頃トラックやロードのトレーニングで重要視している重心ポジションとスタビリティーが、BMXでも同じ様にトレーニングポイントになってくるのでは無いかと言うこと。

もちろんたった1日、それも数時間程度しか見ていないので、確信めいたものは何一つありませんが、大きく間違っているようにも思えません。
 
まずは今回撮影した画像データを基に仮説を立て、それを実現するためのトレーニングプランを幾つか考えて見たいと思います。もちろんそのプログラムを実行してくれるかどうかは解りませんが、提案することで選手の意見を聞き、よりBMXを理解する近道を見つけたいと思います。
 
僕の夢は、日本の選手がオリンピックの舞台でメインポールに日の丸を揚げてくれる事です。その為には自転車競技が今以上にメジャーなスポーツになり、多くの競技者の間で厳しい競争が行われる環境を作らなくてはなりません。

こうして日頃トレーニング理論を公開しているのも、同じ目標を抱いている人たちに少しでも役立つのならという気持ちで書いています。
 
今回BMXのトレーニングに付いて考え始めたのも、これまでのトレーニング理論を補完するため、そして新しいヒントを掴むためです。日本には競技を教えるコーチは沢山いますが、筋バランスや身体の使い方などフィジカル面を指導するコーチはあまり多くはありません。

そのため皆さんもそう言った情報に接する機会も少ないのではと思います。新しい情報を提供できるよう頑張って勉強してみたいと思います。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

佐藤一朗の新着コラム

NEW ENTRY