佐藤一朗「トレーニングの選択 前篇」

Posted on: 2015.10.03

これまで約半年間かけて運動生理学に基づくトレーニング理論についてお話ししました。良く理解された方もいれば、残念ながら理解しづらかった方もいらっしゃったと思います。今回は少し視点を変えて身近な所からトレーニングの考え方について少しお話ししたいと思います。

普段皆さんは料理を作ったりする事はあるでしょうか。最近は男性でも料理が得意な人がいたりして侮れないのですが、僕も不器用ながらたまに自炊生活をしています。

と言っても”料理”と言える様なちゃんとした物では無く、煮たり焼いたり、たまには揚げ物も作ったりしますが、基本的には手のかからない簡単な物ばかりです。
 
料理を作るときにはこれと言ってレシピを参考にするわけでもなく何気なくイメージだけで作ってしまう事が多いのですが、良く考えたらこれって不思議なことですよね。ひょっとしたら才能があるのかと思ったりしますがそんなわけはありません。
 
普段作る料理は、殆どの場合初めて食べる物では無く、同じ物や似たような物を食べたことがあり、その時のイメージを辿りながら試行錯誤して作っています。もちろんいきなり上手に出来ることは稀で、殆どの場合味付けに失敗したり、火を通しすぎて硬くなってしまう事が大半です。
 
「佐藤一朗が今度は料理教室を始めた。」と思った方はもう少しご辛抱ください。ちゃんとトレーニングの話に繋がって行きますので。(たぶん)
 
料理を作るときの感覚は、先ほども話したように「過去に食べたもの」のイメージを参考にしています。料理味付けの基本である砂糖・塩・酢・醤油・味噌だけに留まらず、油はサラダ油にオリーブオイル、ごま油。煮物を作るときには日本酒やみりんなども使うようになりました。最近はカレーに。。。この辺で止めておきましょう。

過去に口にしたことのある料理を作るとき、ある程度味を覚えていれば味見をしながら微調整が出来ます。もちろんイメージ通りに行かなくても我慢して食べれば良いだけなので、ちょっとした冒険は日常茶飯事です。でも、口にしたことのない料理や、食べたことがあったとしても複雑な味、手間の混んだ料理は作る事が出来ません。
 
さて話を自転車に戻しましょう。
 

実はトレーニングに付いてもこれと同じ様な事が言えるのでは無いかと考えています。経験のある選手であれば、自分にとってどんなトレーニングが合っているかある程度判断が出来ると思いますが、これから経験を積んで成長していく選手にとってその選択はとても難しい物です。そして経験がある選手であっても、経験した事のない新しい領域に入るときにはトレーニングの選択は容易では無いはずです。
 
ちょっと言っていることが抽象的でわかりずらいですね。すみません。いつもの癖です。
 
これまでお話ししてきたトレーニング各論は、指導している選手もしくは自分自身の脚質、長所・短所が分かっている人にとっては参考になったかもしれませんが、「いま何をすれば速く・強くなれるのか」を把握できていない選手にとっては、「何から初めて良いのか?」その段階で行き詰まってしまっているのでは無いでしょうか?
 
身近に国際レベル、もしくは全国レベルの練習仲間がいれば、比較して何をトレーニングすれば良いかある程度判断出来るかもしれません。しかし身近にいる練習仲間の目標が自分とは違う、もしくは練習仲間があまりいない場合には比較することも出来ません。
 
つまり「食べたことのある料理ならイメージ出来ても、食べたことのない料理を作るのは至難の業」と言う事ですね。自分の練習に塩味が足らないのか、コクが足らないのか。。。それが分からなくてはいつまで経っても”目標”にはたどり着けないと言う事です。
 
前回もお話ししたように、エンデュランス系のトレーニングをする為にはとても有効な「パワーメーター」という機材があるので、それを活用すれば1人でもある程度のトレーニングは出来ます。でも、ダッシュ力やスピードと言った他の競技力要素に関しては、なかなか有効なトレーニング指標を得る手段がありません。
 
これまでトラックトレーニングで一般的に行われて来たのはタイム計測による評価です。フライングの200m、スタンディングの1000mは競輪学校の受験でも使われている競技力を評価する最も一般的な指標です。

中長距離系の指標で言うなら3000mや4000mのインディヴィデュアルパーシュート(個人追抜)も参考になります。競技経験のある方なら、高校生の頃から嫌と言うほど測っているので思い出したくないかもしれませんね。


 
これらのタイム計測から選手個々の競技力を比較することは容易いことです。しかし問題はここからです。タイムを測って得られた結果から、どうやって選手の強化ポイントを導き出せば良いのでしょう。

ダッシュ力がある選手・無い選手、トップスピードが高い選手・低い選手、持久力がある選手・無い選手。そして選手個々が目指す種目・目標に如何に近づけて行くか。コーチングをしていて1番難しいのはこの部分では無いでしょうか。

正直に言うと、ここから先の部分は個々のケースで全く違う対応が求められるのでなかなか話しづらい所でもあります。もちろん僕の営業にも関わりますので。(笑)  

そこで次回は選手の強化ポイントを判断する1つの指標の中から、誰でも簡単に行う事が出来る方法についてお話ししたいと思います。ちょっと長くなるので珍しく分割しますが、早めにアップしますのでしばらくお待ちください。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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