佐藤一朗「トレーニングプログラムを考える」
前回までお話ししていたトレーニングの基礎知識編はやはり難しかったでしょうか?普段トレーニング指導やコーチ講習をしていても1度で理解して貰えることはなかなか無いので、文章だけで理解して貰うには少し無理があったかもしれませんね。今後書き進めていく中で、気になったところで読み返して頂ければ、また違った視点で感じ取って頂けるかもしれません。
ダッシュ・スピード・持久力、全ての要素が詰まった1kmTTのスタート
さて、今回はトレーニングプログラムについて少しお話ししたいと思います。
トラックトレーニングでは、ロードのトレーニングと違って同じ場所を走り続けるのでトレーニングの内容が単調になってしまいがちです。それを克服するためにギアを変えたり、ダッシュやスピードの変化を付けたトレーニングを行います。それぞれのトレーニングに目的があり、期待する生理的効果があります。
以前もお話ししたと思いますが、トレーニングとは身体に対して刺激を入れ変化を促すことです。筋線維を太くしてトルクアップをしたり、有酸素能力を高め持久力の向上をはかったりと、競技力を高めるために必要なフィジカルを高める事を目的に行います。もちろんフィジカルだけではなく、自転車を走らせる技術やレースで勝つためのテクニックの向上も。
しかし、こういったトレーニングを行う際注意しなくてはならない事があります。それはトレーニングプログラムの組立順です。
トレーニングが身体に対して刺激を入れるために行うものでだとすると、効率的な刺激の入れ方があるからです。例えば最大筋力を発揮するダッシュトレーニングを、疲労が蓄積しているトレーニングの一番最後に行ったとすればどうでしょう?
多くの選手やコーチの方々が勘違いしてしまうのが「トレーニングとは苦しいもの」「きついほど効果がある」という根性論的なトレーニングに対する考え方です。
トレーニングをする際もっとも大切なのは、トレーニングの目的と効果を理解した上で、効率的なプログラムを作る事です。
ロードのゴールスプリントを思わせるスクラッチ(16km)
<トレーニングプログラムの構築>
今回は流れを理解して貰う為に、大雑把にポイントだけお話ししたいと思います。
○ウォーミングアップ
トラックトレーニングを行う場合、競技場に自走で向かった場合で無ければウォーミングアップは必ず行ってください。高強度の負荷を与えるトラックトレーニングでは、身体に刺激を入れるための準備をする必要があります。トルクを必要としない軽めのギアで、しっかり心拍が上げるケイデンスまで廻して行ってください。
○トルクアップ/ダッシュトレーニング
瞬発力や最大トルクを必要とするトレーニングは、疲労の最も少ないこのタイミングで行ってください。ペダルに最大限の加重が行えるポジションを崩さない程度の負荷(ギア)をかけて行います。
○スピード・トレーニング
いわゆる「もがき」と呼ばれる全力で走るトレーニングや、チームパーシュートの様にトップスピードを必要とするトレーニングは、ダッシュトレーニングで高出力する事に身体が慣れた後行う事で効果を高める事が出来ます。
○持久系/技術系トレーニング
インターバルトレーニングやゲーム系(試合形式)のトレーニングは、限界まで追い込む事が可能なので、逆に言えばそれ以外の刺激を入れた後、それ以降にトレーニングメニューを入れないことを前提に行う事が最も効果的と言うことが出来ます。
○リカバリートレーニング
高出力のトレーニングを行う事で筋肉は酸性傾いています。その状態でトレーニングを終了した場合、筋肉は硬結(硬くなる・コリの状態)を起こし、血液循環も低下するため、トレーニング効果が減少してしまいます。トレーニング効果を最大にし、故障を防ぐためにも必ず行ってください。
パワーと持久力の高い次元での調和が求められる3km個人パーシュート
全てのメニューを行わなければならない訳ではありませんが、身体に入れる刺激を考えた場合、以上の順番で行うと効果的に行えると言うことです。
もちろんフィジカル的な要因以外の目的を持って行う場合にはこの限りではありません。次回は、それぞれのメニューについてもう少し詳しくお話ししたいと思います。
photo:Trainer’s House
(7月3〜4日に伊豆ベロドロームで行われた全日本学生選手権より)