佐藤一朗「自転車のトレーニング効率を考える」
自転車のトレーニングを行う時「何をどの位トレーニングすれば良いのか?」非常に悩むと思います。トレーニング出来る時間には限りがあり、そもそもトレーニング出来る体力にも限界があります。
若い頃はどれだけ乗り込んでも「1日寝たら元気」なんて時もありましたが、ある程度の年齢になるとトレーニング効率を考えなくてはなりません。振り返れば体力のある時にトレーニング効率が解っていればもっと強くなれたのかな?なんて思う事もあります。
レースで戦うために必要な要素は沢山あります。レース感やテクニックも必要でしょうし、現在のレースでは機材も大きな要素になって来ます。
しかし、それらの要素が必要とされるには”フィジカル”(身体的能力)が備わっている事が大前提となります。ロードレースで強くなりたいからと言って、本場ヨーロッパに武者修行に行ったとしてもレースについて行ける走力を持っていなければ勉強にもなりません。
(photo:Trainer’s House)
そもそも自転車にとって必要なフィジカルとはどういう物なのか、僕にとってのコーチとしての勉強はそこから始まりました。ちょっと難しい話になりますが、選手として強くなりたい、コーチになりたいと思っている人には是非理解して欲しい事があります。
人の身体は非常に良くできていて、必要に応じて身体を変化させる事が出来ます。もちろん魚のように水の中で呼吸したり、鳥のように空を飛んだりすることは出来ませんが、日常の生活の中で必要な身体の機能を高めることが出来ます。
重たい物を持てるようになったり、速く走る事が出来たり、長い時間運動し続けられるようになるのは、日常生活を過ごす事に加えて身体に対して刺激(トレーニング)を入れる事で可能になります。
それはもちろん自転車競技でも同じ事が言えます。毎日自転車に乗り続ければ長い距離を走れる様になるでしょうし、沢山山道を走れば登坂も苦にならなくなるかも知れません。全力で走ることを続けていればスピードも上がって来ると思います。自転車に乗ることで何らかの刺激が身体に入り、それを続ける事で身体は変化していきます。
問題はそれを競技として人と競い合う場合、過去の自分より速く走れれば良いのでは無く、競う相手より速くならなければならないと言うことです。その為にはただ漠然と自転車に長く乗っていれば良いと言うわけにはいかないのです。
(photo:Trainer’s House)
レースにおいて人と競うために必要な競技力を簡単に分類すると、パワー・スピード・持久力のフィジカル的要素とテクニック及びメンタルの5つに分けられますが、テクニックとメンタルについては文章にするのは少し難易度が高いのでここではフィジカル的要素だけ取り上げたいと思います。
○パワー
最近ではパワーメーターが普及してきているので言葉としては良く耳にすると思うのですが、自転車の場合ペダルを踏み込む力もしくはクランクを廻す力”トルク”と、回転数(ケイデンス)から計算される出力の事を指しています。
○スピード
スピードはパワーと比例しやすい指標ですが、自転車の場合道具を使うスポーツなのでイコールにはなりにくいところもあります。いずれにしても大きなトルクと高いケイデンスを両立できれば自ずとスピードは増してきます。
○持久力
この持久力という言葉が非常に曖昧なのですが、自転車競技のコーチとして言葉を選ぶなら有酸素能力と言った方が意味が分かりやすいかも知れません。酸素を取り込む能力、そして酸化燃焼する能力が高ければ高いほど持久力は高くなります。
(photo:Trainer’s House)
競技力に必要なフィジカルの三要素を簡単に書いてみましたが、何となくニュアンスは掴めたでしょうか!? これらの三要素を変化(強化)させるためにトレーニングによって身体に刺激を入れるのですが、問題は何をすればそれぞれに必要な刺激が入るのか?と言うことです。それが分からずにトレーニングを行っても期待した結果を得ることは難しいでしょう。
トレーニングの指導やコーチの講習に赴くと、殆どの場合「トレーニングメニュー」について詳しく聞かれます。もちろん尋ねられればいくらでもお答えはするのですが、正直に言うとメニューを幾ら知っても意味がありません。
仮に同じ事をやったとしても効果が無いばかりか、場合によっては身体を壊してしまうかも知れないからです。選手個々の競技力は違いますし、いま何を最優先にトレーニングすべきかは選手によって様々だからです。
本当に強くなりたい、強い選手を育てたいと思われる方は目先のトレーニングではなく、トレーニングで身体に起こる変化について是非一度考えて見てください。