佐藤一朗「ランドマーク」

Posted on: 2022.05.10

目標に向かってランドマークを作るときのポイントは、できるだけ具体的に到達点(指標)を設定する事です。タイムやパワーの様な数値的な目標、大会での成績など、できるだけ明確な到達点(指標)を設定する事が成功の秘訣です。

そして、ランドマークの設定が出来たらさらにそれを細分化していきます。

例えば高校に入学して自転車部に入り将来は競輪選手になって「KEIRIN GPに出場したい」という夢を持っている選手がいたとします。

まずKEIRIN GP に出場する目標年齢を26歳、いまから10年後に設定したとします。現在の競技歴は自転車競技部に入って1ヶ月。ようやく先輩とのロード練習に混ざることが出来る様になった程度です。

競輪選手養成所の入所試験種目である1kmタイムトライアルも、200mハロンも走った事はありません。それどころかバンクに入った事もありません。そんな状態です。

この状況の選手が競輪選手になって活躍したい、グランプリに出たい。そんな夢だけで頑張ろうとしていても実際に何をどうすれば良いのかわからないと思います。

恐らく日々の練習について行く事に必死で、ただがむしゃらに走っている頃でしょう。

では、KEIRIN GPに出場したいと夢見る選手が、これからどうすれば良いのか高校生の目線で考えてみましょう。

とりあえずどうして良いのか何もわからないので、先輩に聞きかじった情報やネットで調べた情報から10年後にグランプリに出場するために必要な条件や、先輩達の経験からこれからどんなふうに進んで行けば良いか考えてみました。

「最短でデビュー出来るのは4年後の夏。(20歳)
 
それをかなえるために1回の試験で競輪選手養成所に合格したい。」

「競輪選手養成所に合格するために高校三年の秋(18歳)までの目標タイム。
 
 1kmタイムトライアル 1分09秒0
 200mハロン 11秒0(共に競輪用のクロモリフレーム)」

「グランプリに出場するためにはG1のレースで優勝するか賞金で上位に入る必要
 がある。なので23歳~24歳(7~8年後)にはS級1班に上がって活躍できる選手に
 ならなくてはならない。それを考えると遅くても22歳(6年後)までにはS級に上
がりたい。」

競輪選手養成所受験以降の事はそこまで行ってみなければわからないことも多いので当面の目標としては合格の目安と思われるタイムを目指して頑張ることにした。

それ以外の目標としては高校の先輩選手の話を聞いて、今競輪選手として活躍している先輩達の高校時代の競技成績を参考に競技の目標を立てた。

よく先輩に言われる「これくらいの成績が出せなきゃ競輪選手になっても活躍できないよ!」という成績。

「高校二年のインターハイ、全日本トラックジュニアで短距離種目8位入賞する。
 1kmタイムトライアル1分08秒、200mハロン11秒0

(カーボンフレーム+ディスクホイル)」

「高校三年のインターハイ、全日本トラックジュニアで短距離種目3位入賞する。
 1kmタイムトライアル1分06秒、200mハロン10秒6
(カーボンフレーム+ディスクホイル)」

これを見やすく年表にしてみると

▷1年後  インターハイ、全日本トラックジュニア8位入賞
      1kmT.T 1分08秒 200mハロン 11秒0 ※カーボン+ディスク
▷2年後  インターハイ、全日本トラックジュニアで3位入賞
      1kmT.T 1分06秒 200mハロン 10秒6 ※カーボン+ディスク
▷2年半後 競輪選手養成所合格 1kmT.T 1分09秒0 200mハロン 11秒0
▷4年後  競輪選手デビュー A級3班
▷5年後  A級2班 昇班
▷6年後  S級2班 昇級
▷7年後  S級1班 昇班
▷10年後  KERIN GP 出場 (G1優勝)

と言う感じになります。


さて話を戻しましょう。

将来を夢見る多くの選手は自分が現在置かれている状況から、「今年は○○したい」「来年は△△になりたい」「将来は□□になって○○したい」と言った様に将来の夢を語ります。今の延長線上に未来を描いているようです。

夢を描くことはとても素晴らしい事で、そういう選手を見ていると自分が高校生の頃なにも恐れる事はなく夢だけを追いかけていた頃を思い出します。

しかし、いま指導する立場になってわかったことは、「今の延長線上に思い描いた未来は無い」「思い描いた未来を手にしたいのであれば今を変えていく必要がある」といった厳しい現実です。

もちろん素質に溢れ環境に恵まれている一部の選手は今の延長線上に思い描いた未来が待っている場合もありますが、多くの場合それはありません。

さて、またわからないことを言い始めましたね。

読者のこころのつぶやき
少し話を変えましょう。

なぜ「今の延長線上に思い描いた未来は無い」のでしょうか?殆どの選手は夢を叶えた経験はありません。

当然ですよね。これから進んで行く先に夢があるのですから。と言うことは、どの位頑張れば夢や目標が叶うのかは知るよしもありません。

毎日一段ずつ階段を登る努力をしたとして、10年後に目標に到達出来るかどうかわからない。でも今登れる階段は一段だから、毎日頑張って一段登る。

つまり自分の尺度で勝手に「このくらい」という課題を設定してしまう。登り切った経験も無いのに。

残念ながら当然殆どの選手は目標に到達することは出来ないでしょう。

一部の素質に溢れ環境に恵まれている選手とは、今までに強い選手を輩出してきた学校の自転車部に所属していたり、過去にグランプリに出場した事があるような競輪選手が近くにいる環境の選手です。つまり目標に達する事が出来る尺度を持った人が身近にいると言うことです。

本当に夢や目標を達成したいと思うのであれば、今の延長線上に夢を見るのではなく、夢から逆算して今すべきことを考えて行く必要があると言うことです。

たとえそれが苦しく険しい道だとしても、1日に一段しか階段を登れなかったとしても、三段登る必要があるのであれば登らないという選択肢はないのです。


実はランドマークを設定する1番の目的はここにあります。

自分の目標を設定し、その為に必要な条件(出力・タイム・成績など)を把握して、そこに到達するまでのプログラムをできるだけ正確に作成することです。

もちろん競技の世界ですから想像していた通りに運ばない事ばかりです。

設定したランドマークを全てクリアーしたとしても目標に到達出来ない事もあるでしょう。ランドマークの設定そのものが間違っているかもしれません。

それでも何もせず希望的観測の下に努力を続けて行くよりは、目標達成の可能性は高いはずです。

夢を持っている選手は夢を夢のままにしておかないで、しっかりとした目標に変え、1つ1つ実現して是非夢を叶えていって欲しいと願っています。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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