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佐藤一朗「No attack. No chance!」

Posted on: 2015.10.18
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昨日(10月17日)に行われたジャパンカップ・オープン男子1組で鹿屋体育大学の山本大喜選手が優勝しました。ジャパンカップ本番の前座的レースではあるものの、国内の有力選手が顔を揃える一大イベントであることには違いありません。


画像は今年のインカレで序盤からアタックを仕掛ける山本大喜選手。(すいませんジャパンカップには行っていないので‥)
 
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、山本選手と言えばしつこいくらいにアタックを繰り返す選手です。先月行われた和歌山国体でも単独でエスケープを決め、終盤ブリッジをかけてきた窪木選手に優勝を奪われたものの見事2位。9月に行われたツール・ド・北海道でも海外のプロ選手を相手に果敢にアタックを仕掛けていました。
 
僕が走っていた頃のロードレース、と言ってもそれほど高いカテゴリーのレースではありませんが、レース展開はいつも我慢大会の様な感じでした。多少アタックがかかりますが、大抵は集団で推移し力のない選手がこぼれ、残ったメンバーでゴール勝負をする。そんなレースです。大学で指導するようになってもその流れは殆ど変わっていなかったように思います。
 
大学のロードレースが変わりだしたのはここ十年くらいでしょうか。海外のレースを意識しだしたチームが出て来たことや、実業団のチームでトレーニングをする選手が出て来た事がきっかけだったのでしょうか。
 
ヨーロッパのロードレースの多くはチーム単位で戦術を考え、様々な展開を組み立てて来ます。チーム毎にエースとアシストの役割がハッキリと分かれ、エースを勝たせるためにアシストは様々な働きをします。有力選手の逃げを潰すためのチェックから、逃げを追うためのローテーションによる集団の牽引、ゴールスプリントに備えたリードアウト。エースがトラブルに見舞われた時には自ら集団から下がって、エースの集団復帰の手助けをします。
 
自転車競技の最大の敵はライバル選手ではなく「風の抵抗」という事が、こういった戦術の複雑さを生み出しているのかもしれません。しかしこういったチーム単位の戦術を可能にするためには、その前提として選手個々のフィジカルの高さ、走力の高さを全員が持っている事が必要です。
 
大学チームの戦術はヨーロッパのプロチームのように厳格な物ではありません。チェックに入った選手がそのまま逃げを決めた場合、他チームの動き次第ではそのまま逃がす事も珍しくありません。もちろん逃げが吸収されればすぐさまカウンターを仕掛けたり、チェイシンググループにエースが自ら乗って逃げに追いつき、そこから新しい展開を作る準備はしますが、エースが必ずしも勝つ展開に拘ることはありません。
 
一昨年のインターカレッジを1年で優勝した徳田優選手は、本来アシストとしてエースをガードするはずの選手でした。序盤に動いた他校の選手をチェックに行ったところからそのまま逃げに入り、中盤からは単独で逃げ続け見事優勝を飾りました。

本来なら他校が逃げを吸収すべくペースアップするところで脚を貯め、追いつくところでエースがカウンターアタックをする。そんなセオリー通りの展開を描いていたのですが、1年の徳田選手が単独になったところで「保たない」と判断したのか本格的な追走はかからず、そのまま逃げ切らせる作戦に切り替えたのです。
 
この作戦変更を可能にしたのは168kmのロードレースの殆どを逃げ続け、さらにはその半分を単独でも走りきれる走力を徳田選手が持っていたと言う事です。
 
実はこれと同じ事がその年の全日本選手権U-23でもありました。その時は徳田優選手の兄、徳田鍛造選手が序盤から逃げ続けそのまま優勝を飾りましたが、本来そのレースでエースを担っていたのは別の選手でした。
  
僕が鹿屋体育大学で指導する時は男子女子、短中長距離関係なく全ての選手をトラックで指導します。普通に考えればロード選手とトラック短距離の選手が同じメニューでトレーニングする事はあまり無いのですが、「自転車競技の選手にとって必要なフィジカルを強化する」という事を基準に考えるのであれば、決して特別な事ではありません。
 
良く世界を目指すロード選手に話す事があります。「グランツールを目指すのであれば、最低でも4kmチームパーシュートで4分10秒台で走れるスピードとパワーを身につけなければ話にならない。」と。

実は2013年のツール・ド・フランスのチームタイムトライアルで、優勝したオリカグリーンエッジが出したタイムが25分56秒(25km)。平均速度は約57.84km/h。これを4kmのチームパーシュートに単純に置き換えたとすると4分09秒。9名で走るというアドバンテージはあるものの、25kmを一般道で走る事を考えればこのタイムは驚異的というしかありません。

しかしそういった世界に挑もうと言うのであれば、最低でも4分10秒台でチームパーシュートを走る事が出来るパワーを持っていなければ。と言う事です。
 
僕のトレーニングではロード選手であっても当たり前のようにチームパーシュートのメンバーに組み込みます。もちろんトレーニングだけでなく大会本番でも。今回優勝した山本大喜選手は昨年のインカレ・チームパーシュートで4分11秒で走ったメンバーの1人です。徳田優選手や今年ジロ・デ・イタリアに出場した石橋学選手は一昨年の優勝メンバーです。
 
例え単独になっても逃げ続けられる走力。それがあるからこそ果敢にアタックを繰り返す事が出来ます。今の勝敗だけに拘らなければ、レースは走力を高めるために最高のトレーニングです。ノーアタック・ノーチャンス!

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うトレーナーズハウス代表。自らの競技経験に加え鍼灸按摩マッサージ師としての知識を生かした、運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の研究を重ねる。現在は鹿屋体育大学自転車競技部のコーチとして指導を行うと同時に、競輪・ガールズケイリンなどの多数のプロ選手の指導も行う。中央大学卒/競輪学校63期/元日本代表 ■TRAINER'S HOUSE ■TRAINER'S HOUSE FACEBOOK

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