栗村修「UCIが安全性向上に関する新ルールを発表」

Posted on: 2021.02.15

ここ数日、自転車関連メディアやプロ選手たちのSNSなどを中心に、UCIが発表した「安全性向上に関する新ルール」について活発な意見が飛び交っています。

今回はその新ルールの内容と、UCI側の意図、そして、選手たちがなぜ反発しているのかについて考察してみたいと思います。

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■新ルールの内容(特に選手の走りに関連する内容を抜粋)

◯スーパータックと呼ばれるトップチューブ上に座るフォームでの走行禁止

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◯肘をハンドルのフラット部分に置いたフォームでの走行禁止

◯ゴミ捨てエリア以外でのボトル、サコッシュ、ゴミなどの投棄禁止の厳格化(逆にサコッシュなどの受け取り場所についてはルールが緩和されるとのこと)

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■UCIの意図

上記の「走り方」の部分については、選手たちの安全確保という目的のほか、「正しい(決められた)走り方で競う」というスポーツの本質に関するルール改訂と解釈しています。

これらは、例えば陸上競技の「競歩」であれば「地面から足が離れてはいけない」や、水泳の「背泳ぎ」であれば「バサロで泳ぎ続けてはいけない」といった内容に近いのだと思います。

過去にも、「ロードレースでのアタッチメントバーの使用禁止」や「スーパーマンスタイルのTTポジション禁止」など、「定められた形」から外れた走り方についてはその都度規制が行われてきました。

それらは競技の安全性を確保すると共に、「自転車ロードレース」というスポーツの基準を保ち続けるために必要な規制の一つといえます。

また、ゴミ捨てルールの徹底ですが、環境問題など世界全体の流れがある中で、「ゴミをポイポイ捨てるスポーツ」という現状は、競技団体として早急に改善していかなければならない項目であることは疑う余地がありません。更に、「立ちションをするスポーツ」という部分についても近々改善が必要になってくるはずです。

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■選手たちの気持ち

一方、UCIから上記リリースがでた直後からプロ選手たちから不満の声が噴出しています。

◯落車の原因を選手の(走り方)のせいにするのはナンセンスだ

◯スーパータックはそんなに危なくない

◯走り方を規制する前にコースをなんとかしろ

◯安全かどうかは選手が自分自身で判断するもの

正直、「UCIが意図していること」と「選手たちの不満」の論点が若干ずれている様な気がします。

選手たちからすれば「おれたちはプロでありテクニックもあるので問題ない」「それよりもUCIやレース主催者はもっと安全なレース(コース)をつくってくれ」という気持ちが強いのだと思います。

ここで選手たちが若干忘れているのでは?と思うことがあります。

◯トップ選手たちは億単位の年俸をもらっているプロ

◯選手たちが稼ぐために使用している道路は公道であり周辺住民から借りている状態

◯レース主催者はどこも限られた予算の中で必死にレースを用意している

◯審判やコースマーシャルの多くはボランティア

◯自転車ロードレースのコースは専用サーキットではない

◯裸同然の自転車が時速100km/hで下る様に一般道は設計されていない

◯全長200kmの一般道を自転車レース専用のサーキットに仕立てるのは不可能

◯今後は安全なサーキットのみで開催するスポーツに変更していいのか

恐らく、UCIからの発信の仕方が「最近落車が多いのでスーパータックを禁止します。違反したら失格にします」といった乾いた感じなので、選手たちからすれば「えっ?おれたちのせいなの?スーパータックで落車した選手なんて殆どいないんだけど。そんなことよりも他にもっとやることあるだろ!」といった逆ギレ状態を誘発してしまったのだと思います。

どちらかが良い悪いと言うつもりはなく、「規制する側」と「規制される側」で、世の中のあちこちで勃発しているつば競り合いなのだと感じています。

個人的には、「選手の気持ち」も「チームの気持ち」も「主催者の気持ち」も「競技団体の気持ち」も「ファンの気持ち」も「解説者(メディア)」の気持ち」もなんとなく全部わかるので、若干切ない気持ちになってしまう今日この頃です…(すみません、3級審判なので審判の気持ちはまだまだ全部は理解できておりません)。

※一般の方がハンドルから手を離した乗り方をすることは道交法違反であり、更にスーパータックは死ぬ可能性があるので絶対に真似はしないでください

AUTHOR PROFILE

栗村 修 くりむら・おさむ/1971年横浜市出身。15歳から本格的にロードレースをはじめ、高校を中退し単身フランス自転車留学。帰国後シマノレーシングで契約選手となり、1998年ポーランドのプロチーム「ムロズ」と契約。2000年よりミヤタ・スバルレーシングで活躍した後、2002年より同チームで監督としてチームを率いた。2008-09年はシマノレーシングでスポーツディレクター。2010年より宇都宮ブリッツェンにて監督。2014シーズンからは、宇都宮ブリッツェンのテクニカルアドバイザーを務めた。現在は、一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役につき、ツアー・オブ・ジャパン大会副ディレクターとしてレース運営の仕事に就いている。JSPORTSのロードレース解説をはじめ、競技の普及および日本人選手活躍にむけた活動も積極的に行なう。 筆者の公式ブログはこちら

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