栗村修「他競技出身者の契約が目立つ今オフ」

Posted on: 2020.12.15

今オフはウインタースポーツ出身アスリートとロードレースプロチームとの契約が目立っています。

ちなみにウインタースポーツ出身者といえばやはりプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)が思い浮かびます。

改めてログリッチの経歴を確認してみましょう。

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2004年(15歳)から2011年(22歳)までスキーのジャンプ選手として活躍。
2007年(18歳)のジュニア世界選手権ではスロベニアチームとして団体優勝を飾る。

しかし、大きな怪我の影響もあってスキー競技を引退し、2012年(23歳)からロードレースに転向し、その後、2013年(24歳)〜2015年(26歳)の3シーズンを地元スロベニアのコンチネンタルチームで走る。

そして、2016年(27歳)から現ユンボ・ヴィズマと契約。現在に至る(2019年・2020年UCIワールドランキング1位)。
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スキー選手時代からロードバイクでトレーニングをしていたとはいえ、24歳から本格的なレース活動をはじめてわずか4年で世界最高峰のUCIワールドチーム入りを果たしています。

ログリッチの事例が示していることは、フィジカルとセンスがあれば3〜4年という期間でワールドチーム入りができるということです。

ちなみに日本の新城幸也選手も本格的にロードレースをはじめて6年でツール・ド・フランスに到達しています。

そして、2021年シーズンに向けてUCIワールドチームのボーラ・ハンスグローエ(ドイツ)とUCIプロチームのアンドローニジョカトリ・シデルメク(イタリア)が契約を結んだ2選手は以下の通りです。

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◯ボーラ・ハンスグローエ(ドイツ)
Anton Palzer(ドイツ/27歳)
山岳スキー競技の世界的選手。ちなみに山岳スキーとはヨーロッパ発祥の競技で、山岳用スキーを駆って斜面を駆け抜け、滑り降り、急斜面では徒歩で高みを獲得する競技。国境警備隊の訓練から生まれたと言うだけあってかなりハードとのこと。パルツァは自転車ロードレースの経歴はなし。フィジカルテストではいくつかの並外れた数値を叩き出している。
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◯アンドローニジョカトリ・シデルメク(イタリア)
Martí Vigo(スペイン/22歳)
ピョンチャン冬季オリンピックスペイン代表(クロスカントリースキー)。ビゴの自転車ロードレース歴は1年(アマチュア)。フィジカルテストでは驚異的な数値を叩き出しているとのこと。
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各チームともコロナ禍の財政難にある中ですが、敢えて未知数の他競技出身者と契約を結ぶのはいったいなぜなのでしょうか。

先日、当ブログで「近年若手の活躍が目立っている要因」について取り上げてみましたが、恐らくその内容と重なる部分が少なからずあるのだと感じています。

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◯本場のトップ選手たちが若齢化している要因
・トレーニングプログラムの体系化(経験が必要なくなってきている)
・ポジションやフォームの体系化(経験が必要なくなってきている)
・レース戦略及び戦術の体系化(経験が必要なくなってきている)
・スポーツ医学の進歩と体系化(オーバートレーニングや怪我が少なくなってきている)
・ドーピングの排除(裏ネットワークが必要なくなってきている)
・総じてワールドチームの運営が体系化されたため若い選手が短期間で活躍するためのデータやノウハウが組織に蓄積されるようになってきている
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要するに、ヨーロッパのトップチームに限っていうと、「自転車に長年乗ってトレーニングをし、たくさんのレースに出場して経験を積むことによって得られるアドバンテージ」というものが年々薄れてきているのだと思います。

そして、自転車ロードレースでの経歴がないということは、低い契約金で高い可能性を買うことができるので、コロナ禍に於いてはむしろ良い選択肢になっているのかもしれません。

AUTHOR PROFILE

栗村 修 くりむら・おさむ/1971年横浜市出身。15歳から本格的にロードレースをはじめ、高校を中退し単身フランス自転車留学。帰国後シマノレーシングで契約選手となり、1998年ポーランドのプロチーム「ムロズ」と契約。2000年よりミヤタ・スバルレーシングで活躍した後、2002年より同チームで監督としてチームを率いた。2008-09年はシマノレーシングでスポーツディレクター。2010年より宇都宮ブリッツェンにて監督。2014シーズンからは、宇都宮ブリッツェンのテクニカルアドバイザーを務めた。現在は、一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役につき、ツアー・オブ・ジャパン大会副ディレクターとしてレース運営の仕事に就いている。JSPORTSのロードレース解説をはじめ、競技の普及および日本人選手活躍にむけた活動も積極的に行なう。 筆者の公式ブログはこちら

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