栗村修「”つよくなる”or ”うまくなる”」

Posted on: 2021.01.23

スポーツによって、「競技力を高める」ということを表現する時に使う言葉には若干の違いがあります。

例えばサッカーや野球であれば「うまい」という表現をよく使います。「サッカーがうまい」「野球がうまくなる」といった感じです。

一方、自転車競技の場合は「はやい」や「つよい」といった表現を多用します。「上りがはやい」「シクロクロスに強くなった」などなどです。

逆に、「サッカーがはやい」や「野球がつよい」「ロードレースがうまくなった」などといった表現はあまりしませんね…

しかし個人的には、自転車競技にも「うまい」という表現をもっと採り入れていっても良い気がしています。

というのも、自転車競技の強化を考えた場合、「つよくなる」と「うまくなる」の両面が必要であり、それらをハッキリと区別して認識していくために、「うまい」という表現をもっと積極的に意識していくべきであると考えるからです。

ということで、簡単ではありますが、自転車競技に於ける「つよくなる」と「うまくなる」の具体的な内容を挙げてみたいと思います。

◯つよくなる(目先の速さには繋がりにくいが長期的には上限を押し上げる)
・パワー(出力値/ワット)を上げる
・全身の筋力を向上させる
・ボディバランス(バランス/柔軟性/体の使い方)を高める
・回復力や免疫力を高める
・etc

◯うまくなる(目先の速さに直結しやすい)
・自転車の操作がうまくなる(集団内で省エネ走行ができる)
・ペダリング(効率)がうまくなる
・フォーム(効率/空力)が良くなる
・レースの走り方(位置取り/戦術)がうまくなる
・etc

よく、「パワーは出ているのに実際の速さに反映されない」という声を聞きますが、それは「うまくなる」の項目が大きく抜け落ちているからだと思います。

一方、「あの人はZwiftではそれほどでもないのに実走ではメチャクチャ強い」という選手がいますが、きっと「うまくなる」の項目が長けているのでしょう。

上記を読んで、「えっ?パワー値=速さではないの?」と感じる方もいらっしゃるかとは思いますが、一般的には「Yes」である一方で、高いレベルになってくると「No」にもなり得たりもするのです。

初心者ほど「うまくなる」を意識し、一方で、伸び悩んでいるベテランほど「つよくなる」を再点検すると、新たな伸び代を獲得できるかもしれません。

AUTHOR PROFILE

栗村 修 くりむら・おさむ/1971年横浜市出身。15歳から本格的にロードレースをはじめ、高校を中退し単身フランス自転車留学。帰国後シマノレーシングで契約選手となり、1998年ポーランドのプロチーム「ムロズ」と契約。2000年よりミヤタ・スバルレーシングで活躍した後、2002年より同チームで監督としてチームを率いた。2008-09年はシマノレーシングでスポーツディレクター。2010年より宇都宮ブリッツェンにて監督。2014シーズンからは、宇都宮ブリッツェンのテクニカルアドバイザーを務めた。現在は、一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役につき、ツアー・オブ・ジャパン大会副ディレクターとしてレース運営の仕事に就いている。JSPORTSのロードレース解説をはじめ、競技の普及および日本人選手活躍にむけた活動も積極的に行なう。 筆者の公式ブログはこちら

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