栗村修「新たなルール」

Posted on: 2015.08.04

今年の『ツール・ド・フランス』 期間中のドーピングコントロールについてですが、現状では、第4ステージ終了後の検査で『ベンゾイルエクゴニン(コカイン)』が検出されたパオリーニの件のみとなっています。

一方で、イタリアのプロ・コンチネンタルチームの『アンドローニジョカトリ』に所属する、アッポローニオ(6月14日/EPO)と、タボッレ(6月16日/FG-4592)から相次いでパフォーマンス向上薬が検出(共にAサンプル)され、今年の1月から設定された『12ヶ月でチームから2人以上のドーピングが発覚した場合15~45日の活動停止とする』というUCI(世界自転車競技連合)の新規則に基づき、UCIは『アンドローニジョカトリ』に対して1ヶ月の活動禁止処分を言い渡したと報道されています。

『アンドローニジョカトリ』は元々『MPCC(任意の反ドーピング組合)』に加盟しているので、こちらの出場自粛規則は尊重する様ですが、一方で、UCIの規則に対しては異議申立てを行う模様です。

『UCI』と『MPCC』とも現実的な出場停止期間に大きな違いはないものの、『MPCC』に於ける出場自粛は文字通り『自粛』であり、『チームから複数の違反者を出してしまい申し訳ありません』というあくまで反省の意であるのに対し、『UCI』 からの処分というのは、これまた文字通り『処分』ということであり、これには異議申立てを行うということなのでしょうか…

これまでも『UCI』と『MPCC』のダブルスタンダードについて問題視する声が少なからず挙がっていましたが、今回の件で再び議論が加速する可能性はあります。

とはいえ、UCIがドーピング違反者を出したチームに対してペナルティを与えるルールを設定したことについては、ある意味で『大きな一歩になるかもしれない』という淡い期待が個人的にはあります。

これまではチームからドーピング違反者が多数出たとしても、一定期間周囲から叩かれたあとは(殆ど叩かれないケースもあるが)すぐに何事もなかったようにビッグレースなどに出場し、多くの 『心の広いファン』に応援され、そして賞賛の声をすぐに取り戻してしまっていました。

また、『禁止薬物を使用したのはあくまで選手個人であり、チームはむしろ被害者なのです』という様な空気を漂わせるチーム幹部も少なくありませんでした…

しかし、最近の実社会の傾向と比べてみて、自転車界の対応や制裁の内容には大きな隔たりがあるのは誰もが感じているところでもあります。

今後、明らかな能力向上薬品のドーピング違反者を一定数出したチームに対する厳罰化と、そしてその後のレース参加資格の剥奪など、UCIのルール制度改革には注目していく必要があります。

選手個人が禁止薬物を使用する ⇒ 所属チームに影響が出る ⇒ 所属チームのスポンサーのイメージが毀損する ⇒ 参加していたレースの信用が毀損する ⇒ 参加していたレースのスポンサーが撤退する ⇒ etc

心無い一人の選手がとった行動が、廻り廻って多くの人たちに迷惑をかけていることを、皆がどれだけ理解しているのかはわかりません。

『それでも自転車ロードレースの人気は向上している』という意見もあるかもしれませんが、ただ一つ言いたいことは、ドーピングスキャンダルに嫌気が差して去っていったファンとスポンサーの数は笑えないほどの数に達しているということです。

難しい問題ですが、良い方向へ向かっていくことを望みます。

AUTHOR PROFILE

栗村 修 くりむら・おさむ/1971年横浜市出身。15歳から本格的にロードレースをはじめ、高校を中退し単身フランス自転車留学。帰国後シマノレーシングで契約選手となり、1998年ポーランドのプロチーム「ムロズ」と契約。2000年よりミヤタ・スバルレーシングで活躍した後、2002年より同チームで監督としてチームを率いた。2008-09年はシマノレーシングでスポーツディレクター。2010年より宇都宮ブリッツェンにて監督。2014シーズンからは、宇都宮ブリッツェンのテクニカルアドバイザーを務めた。現在は、一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役につき、ツアー・オブ・ジャパン大会副ディレクターとしてレース運営の仕事に就いている。JSPORTSのロードレース解説をはじめ、競技の普及および日本人選手活躍にむけた活動も積極的に行なう。 筆者の公式ブログはこちら

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