佐藤一朗「自覚のない故障を未然に防ぐために」
Trainer’s HouseのFacebookにトレーニングに付いてコラムを書くようになってから、トレーニング指導に付いての問い合わせが増えて来ました。ありがとうございます。今月もプロ選手の指導やアマチュア選手の合宿など数件のトレーニングプログラムを組んで準備しています。
画像は趣味で作成している壁紙シリーズから。’14 インカレ・ロードレース 徳田優(photo Trainer’s House)
何度か練習を見せさて貰っている選手や、実際に開催や大会等で走っている姿を見ている選手の場合、比較的プログラムが作りやすいのですが、走っているところを見たことがない選手や、会ったことも無い選手の為のプログラムを組むことは至難の業です。
そんな時には少しでもデータや情報を集めて、ある程度の競技力を推測した上で仮のプログラムを組むことになります。あくまで「仮」の物です。
そんな状態で現場に入った場合、最初のコミュニケーションから神経はピリピリモードで、ちょっとした動作や会話の中から選手の競技力を探り出そうとします。
仮に組んできたプログラムをベースにトレーニングについて意見や要望を聞き、まずはウォーミングアップから。その後は殆どの場合選手の競技力や現在の状況把握を兼ねて動作解析の基となる「基礎トレーニング」を行い午前は終了。その時得られたデータを基に、午後のプログラム、合宿の場合2日目以降のプログラムを全面的に変更することも珍しくありません。
一番困るのは選手のコンディションが負荷に耐えられないような状態だったり、自覚のない故障を抱えている場合です。
僕のトレーニング指導を受けた事、見たことがある人なら分かると思うのですが、最初の周回練習時にカメラを片手にバンク中段に座り込んで通り過ぎる選手の後ろ姿を見続けている事があります。
暫くして今度は進行方向に移動して正面から。そして最後はバンクの内側から。一見すると「ただ見ている」だけなのですが、実はとても大切な”儀式”のようなもので、それ以降のトレーニングプログラムだけでなく、その日1日のスケジュールを変更する事にもつながり兼ねない重要な意味を持っています。
自転車に乗るポジションには色々あります。特に競輪選手の場合戦法によって大きく違うことも珍しくありません。しかしそれはどんなときでも「解剖学的」に無理なポジションで乗る事はありません。もちろんそんなポジションになる様なセッティングをする事もありません。
しかし、時としてこのルールを無視するようなポジションやペダリングをしている選手がいます。
そうです。この状況こそ「自覚のない故障」と僕が考えている状態です。選手によって症状やそれに至った理由は様々ですが、「あと少し」「このまま行けば」完全な自覚症状を持った故障に陥る寸前の選手達です。
僕のトレーニングメニューは、シンプルで単純なトレーニングが殆どです。競技のテクニックや戦術的な事よりも、選手個々のフィジカルな部分を強化する事を中心に考えているので、人と競う形で行うメニューより、単走で走るメニューの方が多くプログラムされます。
でもその分身体に対してダイレクトに刺激を入れるので誤魔化しは効きません。当然ですが身体の負荷は高くなっていきます。そんなトレーニングを指導する選手が「自覚はないけれど故障に近い状態」にあった場合、コーチとしては練習させたくても、トレーナーとしては許すことは出来ないのです。
選手の症状が比較的軽度の場合、ウォーミングアップ終了後相談の上その場で対応する事もありますが、重度の場合当たり前の事ですがトレーニングは中止する事になります。トレーニングを休む事は選手にとって大きなマイナスですが、故障して治療を必要とする状態に陥ることは選手生命にも関わりかねない事だからです。
これを読んでくれている選手、もしくは指導者の皆さんも是非「選手の体調」について耳だけではなく眼も配ってみて下さい。特に「選手のサドルがいつもより高く感じたら」要注意です。