栗村修「回復力」

Posted on: 2015.05.01

日曜日に開催された最古参のクラシック『リエージュ~バストーニュ~リエージュ』に於いて、日本期待の新城選手が下り区間で激しくクラッシュし、肩甲骨と肋骨を骨折する大怪我を負ってしまいました。


(photo:Miwa Iijima)
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この結果、当初出場が予定されていた『ツール・ド・ロマンディ』への参加はキャンセルとなり、まずは新城選手の最大の目標である 『ツール・ド・フランス』出場に向けて治療に専念することになりました。

一般人であれば全治2ヶ月と診断されるような重傷なわけですから、開幕まで2ヶ月しかない『ツール・ド・フランス』への出場は普通に考えるとかなり厳しい状況ともいえます。

しかし、新城選手をはじめとするプロ選手たちがみせる回復力というのは常識がまったく当てはまらないパターンが多く、短期間でレースに復帰するどころか、高いパフォーマンスをも備えてカムバックし、すぐに良いリザルトを残すことも珍しくありません。

昨年のブエルタを制したコンタドールも、ツールで右けい骨を骨折した40日後に開幕したブエルタを制するという、にわかに信じがたい快挙を達成しています。私自身も、選手時代や監督時代を通じて、実際に選手たちがみせる驚異的な回復力を数多く目の当たりにしてきました。

なぜ、彼らがこれほどまでに高い回復力を発揮することができるのか?それには主に二つの理由が考えられます。

まず一つ目は、トップ選手たちが元々高い回復力(生命力)を持って生まれてきた、という天性の要素があります。そもそも、長くて激しいレースを走るということは、例え転んでいなくても、身体のなか的には軽い病気や怪我を負った状態に置かれます。

要するに、ステージレースを走るということは、毎日身体を傷めつけ、次の日のスタート時間までにどれだけ回復できるかを競い合っている状況ともいえるのです。

回復力の高い選手というのは、毎朝フレッシュな状態でスタート地点に姿を現し、そして、厳しいレースになっても、その厳しさを良質なトレーニングに変えてしまい、レースを走りながら強い身体を創りあげていってしまうのです。

一方、回復力のない選手(一般の人)というのは、毎レースごとに疲れを溜めていき、ステージレースの最終日にボロボロになってしまうことも珍しくはありません。

ステージレースの初日にはほぼ同じようなパフォーマンスだった選手同士でも、回復力に差があれば、僅か一週間でその走りはに大きな差が生まれてしまうものです。

そして、その様な状態で半年もシーズンを過ごせば、回復力のある選手とそうではない選手との間には、埋められない差がついてしまうことでしょう。

二つ目の理由というのもある意味で同じ内容であり、選手たちは普段からこの『回復力』というキーワードをいかに高められるかに全力で取り組んでいるので、外的な怪我を負った際にも日常の様々な対策がプラスに作用するわけです。

もちろん、怪我の状況によっては回復が長引いてしまうパターンもありますが、プロ選手のなかでも高い回復力を持つ新城選手が、周囲をあっと驚かす復活劇をみせてくれることに期待したいと思います。

AUTHOR PROFILE

栗村 修 くりむら・おさむ/1971年横浜市出身。15歳から本格的にロードレースをはじめ、高校を中退し単身フランス自転車留学。帰国後シマノレーシングで契約選手となり、1998年ポーランドのプロチーム「ムロズ」と契約。2000年よりミヤタ・スバルレーシングで活躍した後、2002年より同チームで監督としてチームを率いた。2008-09年はシマノレーシングでスポーツディレクター。2010年より宇都宮ブリッツェンにて監督。2014シーズンからは、宇都宮ブリッツェンのテクニカルアドバイザーを務めた。現在は、一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役につき、ツアー・オブ・ジャパン大会副ディレクターとしてレース運営の仕事に就いている。JSPORTSのロードレース解説をはじめ、競技の普及および日本人選手活躍にむけた活動も積極的に行なう。 筆者の公式ブログはこちら

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