栗村修「宇都宮ブリッツェンのあくなき挑戦」

Posted on: 2016.03.23

先週末は、Jプロツアーの開幕戦となる『宇都宮クリテリウム』の会場へ行ってきました。

今年で3年目の開催(主催者発表で13,000人の観客が集まった)となる同大会ですが、大会全体の実質的な主催者は『宇都宮ブリッツェン』の運営会社である『サイクルスポーツマネージメント社』であり、チームとレースの両面を手掛けるという、ヨーロッパのクラブチームでは標準となっている運営形態をしっかりと実行に移しています。

本当の意味での『発掘』や『育成』というものを考えた場合、『チーム運営よりも、まずはレース開催に力を入れるべき』、という真実は、ある程度物事がみえている人にとっては標準の概念となります。

通常は、どうしても『チーム運営』の方ばかりに注目が集まりがちですが、そもそもチームや選手たちというのは、レースがなければなんの価値も生み出せない存在であることを忘れてはいけません。

私自身、かつて選手や監督だった時代には、そういった意味でいつも自分たちの無力さを強く感じていました。

『ぼくたちは誰かの手のひらの上で”主役風”に踊らされている存在』

ちなみに、『チーム運営』と『レース開催』のどちらが楽かといえば、それは間違いなく『サービスを受ける側』にある『チーム運営』の方が総合的には楽な作業といえます。

選手、監督(チーム運営)、レース主催者と、一通り経験してきた自分が言うのだから、間違いないと思います(笑

サービスを提供する側になり、煩雑な準備業務に追われ、様々なリスクを背負い、苦情を言われることがあっても殆ど賞賛されない、そんなレース開催の業務に手を付けたくない気持ちはよくわかります。

しかし、本来は『チーム運営』と『レース開催』はセットで考えるべきです。

一度でもレース開催を経験すれば、それがいかに大変なことかを理解でき、非常識な発言はできなくなります。一方、レース開催の経験のない人たちというのは、いとも簡単に心ない一言や的はずれな発言をしたりもします…

『宇都宮ブリッツェン』というチームが切り開いている世界は、いまはまだ(競技的側面に於いて)派手さはありませんが、本質的な取り組みを着実に積み上げ続けています。

物事というのは、視点が大きくなれば大きくなるほど、それを理解できる人の数が減っていってしまうという傾向があります。それは、目の前にある小さな視点で思考し、発言し、行動するひとの数の方が圧倒的に多いからなのでしょう。

しっかりとした哲学を持ち、あくなき挑戦を続ける『宇都宮ブリッツェン』をこれからも注目していきたいと思います。

AUTHOR PROFILE

栗村 修 くりむら・おさむ/1971年横浜市出身。15歳から本格的にロードレースをはじめ、高校を中退し単身フランス自転車留学。帰国後シマノレーシングで契約選手となり、1998年ポーランドのプロチーム「ムロズ」と契約。2000年よりミヤタ・スバルレーシングで活躍した後、2002年より同チームで監督としてチームを率いた。2008-09年はシマノレーシングでスポーツディレクター。2010年より宇都宮ブリッツェンにて監督。2014シーズンからは、宇都宮ブリッツェンのテクニカルアドバイザーを務めた。現在は、一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役につき、ツアー・オブ・ジャパン大会副ディレクターとしてレース運営の仕事に就いている。JSPORTSのロードレース解説をはじめ、競技の普及および日本人選手活躍にむけた活動も積極的に行なう。 筆者の公式ブログはこちら

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