佐藤一朗「大学チームがメルセデス・ベンツのサポートを受ける影響」
今年の春から進められてきた1つのプロジェクトが18日に発表されました。ご存じの方も多いと思いますが「メルセデス・ベンツによる鹿屋体育大学自転車競技部へのサポート」です。
サポートカーのメルセデス・ベンツ「CLAシューティングブレーク」とメルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長,塚越さくら選手,上野みなみ選手,黒川剛監督(写真左から)
昨日から1日色々なサイトでの反響を見ていましたが、予想通り沢山の「驚きの声」が書き込まれていました。一部「羨ましい」的なものや厳しいご指摘の言葉も見られましたが、殆どの方は驚かれていたように感じられました。
確かに世界の一流ブランドからサポートを受けられることはとてもありがたいことです。それは単に高級車に乗れると言うことではありません。
鹿屋体育大学で指導に携わるようになって今年で四年目になりますが、それ以前は母校の中央大学で指導にあたっていました。自転車界では言わずと知れた伝統校です。そこで指導していた人間がライバル校でもある鹿屋体育大学に移ることは様々な軋轢を生むことを覚悟しなくてはならないことでした。
「自転車競技のトレーナー/コーチを仕事として自立していくためには1つの所に留まっていては成長できない」という思いで母校を離れた僕に、会う度に声をかけてくださった黒川監督の熱意に負け鹿屋体育大学にお世話になることになったのですが、その時「鹿屋がインカレ総合優勝するために力を貸してくれ!」と言われたら間違い無く断っていたと思います。
たとえ離れたと言っても僕は中央大学OB会の一員です。母校を倒すことを目標には出来ません。その時黒川監督はこう言いました。
「世界を目指す選手達、そして指導者を育成するために力を貸して欲しい。自転車競技を日本のメジャースポーツにしたい。」と。
黒川監督が僕に投げかけた言葉は、長い間僕自身が目指している目標と寸分の違いもなく同じものでした。
鹿屋体育大学が創部以来20年歩んできた道は、学生自転車界にとって目新しいものばかりでした。いまでこそ珍しく無くなりましたが、ユニフォームにスポンサーのロゴ入れて活動資金を捻出したのもその1つです。
メインスポンサーの1つでもあるキャノンデールの名前は自転車界では世界的に有名で、誰もが知っているブランドだと思います。でも、鹿屋体育大学をサポートしてくれているのはそんな有名なブランドばかりではありません。
「桷志田」は鹿児島特産の黒酢のメーカーです。「寿鶴」はミネラルウォーターのブランドです。なかには「鹿屋市医師会」のように地元の公的な団体も応援してくれています。
鹿児島という地理的にハンディを抱えているチーム故に活動には多くの負担が伴います。大会出場の度に信じられないような長距離移動をしいられ、それだけをとっても活動に必要な金銭的負担は想像に容易いと思います。
そこで、考えられたのが本場ヨーロッパのようなスポンサーによる活動支援です。
とは言っても、当時は無名の弱小自転車競技部に支援してくださるスポンサーがそう簡単に見つかるわけはありません。創部当時はそれは大変な苦労をされたと聞いています。
今回、世界的自動車メーカーのメルセデス・ベンツからスポーツタイプのワゴン車「CLAシューティングブレーク」を提供していただく事になりました。
一般的に「贅沢」「高級車」の形容詞で語られるメルセデス・ベンツを大学チームのチームカーとして使う事は色々なご意見もあると思います。でも、今回サポートして戴くにあたり僕は違った意味でありがたく感じています。
これまで日本ではマイナーなスポーツに類していた自転車競技の大学チームに、世界的メジャーブランドが支援してくれると言うことです。しかも発表されたばかりの新型車、その発表会でサポートについても同時に紹介されたのです。
この事がどれだけのメディアに取り上げられ、話題になり、どれだけの人の目に触れる事でしょう。それはなにも鹿屋体育大学としての事だけではありません。自転車競技というものを知らなかった人たちに少しでも興味を持って貰えるとしたら、それは黒川監督が、そして僕自身が目指している自転車競技のメジャー化に向けて1つのステップになるのでは無いかと思うからです。
話の最後に1つ付け加えておきたいことがあります。今回この大きな支援を受けることになった経緯です。僕はその場に立ち会っていたわけでは無いので伝聞によるものでしかありませんが、お話ししたいと思います。
鹿屋体育大学自転車競技部は、競技活動の他に沢山のボランティア活動、普及活動を行っています。それは創部時の目標の1つでもある自転車のメジャー化に欠かせないものだと考えるからです。もちろん練習の時間を割いて行う活動です。
「無駄」と感じられる事が無いわけではありません。しかし大学チームはプロチームとは違い「教育機関」という一面も有しています。自転車を通しての社会貢献を掲げている以上そういった活動も避けては通れません。
始まりはボランティアスタッフとしてお手伝いしていた大会での出来事です。一般の参加者として大会に参加されていたメルセデス・ベンツ日本の上野社長との出会いです。走行中たまたま伴走した学生の対応に興味を持って頂いたことから話が始まりました。
後日、チーム練習の見学や大会観戦を通して、その活動に共感を覚えて頂いた事が今回のサポートへと繋がったのです。まさに偶然の出会いでした。そして自転車競技のメジャー化という目標に向けてまた1歩進める事が出来た出会いだったと思います。
(写真提供:鹿屋体育大学 黒川剛監督)