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佐藤一朗「スタビリティー向上の為のトレーニング」

Posted on: 2015.12.06
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さて、このところ抽象的なコラムが続いたので、久しぶりにトレーニングネタを書きたいと思います。
 
僕のトレーニングの話の中に出てくる単語として最も多いのが「パワー」でしょうか?何かにつけて使っているので、きっと一番多いと思います。そして次に多いのがきっと「スタビリティー」では無いかと思っています。日本語に訳すのなら「安定性」と言う事になると思うのですが、僕の中で今ひとつピンとこないので、指導の際にはスタビリティーと表現する事が多くなっています。
 
自転車競技に於いてスタビリティーというと色々な意味に捉える事が出来ると思うのですが、僕が考えているスタビリティーとは、「加重ロスの無いペダリングを支える安定性」もしくは「ペダリングの起点となる骨盤の安定性」と言った事を説明するときに使っています。
 
人が自転車を走らせるとき、唯一推進力となる力を伝える事が出来るのがペダルです。ペダルに伝える力は股関節を伸ばす力と膝関節を伸ばす力で生み出されます。

股関節とは骨盤と大腿骨(太腿の骨)の関節で、膝関節とは大腿骨と脛骨(スネの骨)の関節です。また股関節を伸展させる(広げる)筋肉は大殿筋(お尻の筋肉)とハムストリングス(太腿の裏の筋肉)で、膝関節を伸展させる(広げる)筋肉は大腿四頭筋(太腿の表の筋肉)です。
 
ペダルに対して加重する力を股関節と膝関節の伸展だけで考えるのであれば、単純に大殿筋・ハムストリングス・大腿四頭筋の筋力を高める事だけで強化する事が出来ると思います。

イメージとしては「レッグプレスマシン」でトレーニングする感じでしょうか?でも問題は自転車にはレッグプレスマシンのように背もたれがありません。
 
このコラムを読まれている方の中で、トレーニングジムに通われている方はどの位いらっしゃるでしょうか?マシンを使ったトレーニングやフリーウェイトを使ったトレーニングを行った経験がある方なら分かると思うのですが、バーベルを肩に担いで行うスクワットと、マシンで行うレッグプレスは基本的にどちらも同じ下半身のトレーニングです。

先ほど出てきた、股関節と膝関節を伸展させる筋肉をトレーニングするメニューです。しかし同じ下半身のトレーニングでありながらスクワットとレッグプレスのトレーニングで同じ重さを上げることは出来ないと思います。何故でしょう。

実はその答えが自転車競技におけるスタビリティーを考える上で大きなヒントになります。
 
レッグプレスマシンは、踏み込む(押し上げる)ポイントと背もたれの間に身体を入れ下肢の屈伸を行いますが、基本的にこの動きは一定の軌道から外れることはありません。

殆どの場合踏み込むプレートか、座っているベンチがシャフトの上をスライドするので、よほど自分自身でバランスを崩さない限りその動きは安定しています。しかしスクワットは、バーベールを肩に担ぐため下半身だけで無く上半身も自由に動かすことが出来、言い換えれば非常に不安定な状態で脚の屈伸を行わなくてはなりません。

つまり、レッグプレスでは膝の軌道にさえ注意を払っていれば、ロス無く下半身の力を出力する事が出来ますが、スクワットの場合、肩から足首まで全ての関節をコントロールしなくてはならないため、その中の最も弱い筋力以上の力を出力する事が出来ないのです。
 
この事を踏まえて自転車でのペダリングを考えて見ましょう。軽いギアで一定のケイデンスを保って走った場合、今ここで考えている様な問題は殆ど生じません。問題は大きなトルクを必要とするような場面と、高いケイデンスを必要とする場面です。

例によってここから少し難しくなります。

先ほどもお話ししたように、ペダルに対して力を伝えるのは股関節と膝関節の伸展する力です。しかしこれらの関節は伸展するだけではありません。股関節も膝関節も真っ直ぐに立っている時にはあまり稼働角が広い関節には思えませんが、ペダリング時の様にそれぞれの関節を曲げた状態になると外に開いたり(外転)、捻ったり(内外旋)と驚くほど自由に動かすことが出来る関節だと言う事が分かると思います。

大きな力を発揮しようとしたり、速いスピードで動かそうとした場合、股関節・膝関節、そして足関節まで軌道がブレる事無く、正確に屈伸を繰り返さなくてはなりません。これが僕の言うスタビリティーの第1点です。
 
次に考えなくてはならないのは、ペダルに対して力を加える起点とも言える骨盤の安定です。股関節伸展の力は骨盤が安定していて初めてペダルを踏み込む力になります。骨盤が安定していなければそれこそ背もたれのないレッグプレスと同じで、ペダルを踏み込む力はそのまま骨盤や身体を動かす力となって返ってきます。

そこでスクワット同様上半身や体幹部の力を使って骨盤が安定するようにサポートしなくてはなりません。これがスタビリティーの第2点です。
 
こうして文章にするとそれほど難しく無い事なのですが、実際に自転車に乗ってトレーニング中に意識しようとすると思いの外難しい事に気がつくと思います。

それには幾つかの理由があるのですが、1番大きな理由は日常生活で培った筋バランスと自転車を走らせるときに必要な筋バランスに違いがあるからです。

つまり自転車に必要なスタビリティーを発揮しようと思っても今ある筋力バランスのままでは殆どの人が発揮出来ないと言う事です。
 
ここまでお話しすれば勘の良い方ならもうお気づきだと思います。自転車に乗って出来ないスタビリティー向上の為のトレーニングは、自転車に乗らずに行うしかありません。そしてしっかり時間を費やしてそのトレーニングを行う事が出来るのは、オフシーズンの今と言う事になります。
 
速く走るためには大きなパワーと持久力を発揮出来る脚力が必要です。でもその脚力を発揮するためには動作を支えるスタビリティーが必要です。来シーズン1つ上のステップに上がるために、今からしっかりスタビリティー向上のトレーニングを始めましょう!!


全日本選手権オムニアム/上野みなみ選手

これまで持久系の強いイメージだった上野選手。今年はスタビリティーの強化が実り短距離のタイム系でも記録を伸ばして来ています。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うトレーナーズハウス代表。自らの競技経験に加え鍼灸按摩マッサージ師としての知識を生かした、運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の研究を重ねる。現在は鹿屋体育大学自転車競技部のコーチとして指導を行うと同時に、競輪・ガールズケイリンなどの多数のプロ選手の指導も行う。中央大学卒/競輪学校63期/元日本代表 ■TRAINER'S HOUSE ■TRAINER'S HOUSE FACEBOOK

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