佐藤一朗「シーズンの始動」

Posted on: 2016.02.17

2月に入り国内のあちらこちらで今シーズンのチーム体勢を発表するイベントがあったり、新入生の入学を前にシーズンインの準備をする大学チームがあったりと、今シーズンも本格的なスタートを切ろうとしています。
 
Trainer’s Houseでも2月下旬よりプロ選手の合宿を皮切りに、3月に入ると大学チームの合宿が続き、一般のサイクリストのトレーニング指導を併せると3月は既に半分近くスケジュールが埋まってしまっています。また留守をして治療院の患者さんに怒られる日々が始まります。
 
春先のこの時期は1年のトレーニングの中で最も重要な時期です。オフシーズンのトレーニングで身体の筋バランスが変わったことで、自転車のセッティングやポジショニングを見直さなくてはならない時期だからです。

昨シーズンを戦い自分自身の良いところも悪いところも分かった上で、良いところを伸ばし悪いところを修正していくのがオフシーズンだとするならば、新しいセッティング、新しいポジションに移行しなければオフトレの意味はなくなってしまいます。
 
大学チームの合宿では1年の始まりとも言うべくこの時期に、まず動作解析を行いポジショニングの確認を行います。オフシーズンの間に作り上げたフィジカルを最大限に生かすことが出来るポジショニングが出来ているかどうかの確認です。

筋バランスが変わっていても、筋肉の稼働角が勝手に変わってくれるわけではありません。最初は丁寧に動作を意識しながら手関節、肘関節、肩関節の稼働角を確かめ重心ポジションを整えます。それが確認出来たら次は体幹部や骨盤の高さを調節して股関節、膝関節の稼働角を整えていきます。
 
最も難しいのは肩関節の角度の作り方でしょうか?肩関節は上腕骨と肩甲骨、そして体幹部とのジョイントです。ハンドルを握り肩をハンドルに近づけないように気をつけながら体幹部を引き付けるには意識するポイントがあります。グリップの使い方を一つ間違えてしまうと、肘関節が屈曲し、三角筋や僧帽筋上部繊維が過度に緊張するためハンドルに対して肩が近づいてしまいます。

当然肩関節の屈曲角は小さくなってしまい、ハンドルにしがみつく様なポジションとなり、重心をペダル加重に対して適切なポジションに留めることは出来なくなります。重心がハンドルに乗るようなポジションではペダル加重の反作用で体幹部や骨盤は浮き上がり出力は大幅にロスすることになるでしょう。
 
まずは自分の持っている筋力を最大限生かすことが出来るポジションを作る。そしてその筋バランスや動作を身体に覚え込ませるために、やや軽めの負荷で動作を繰り返していきましょう。

以前は春先にLSDが流行りましたが、理想を言えばもう少しペースを上げエンデュランス系のトレーニング効果を期待できる負荷が良いと思います。そしてある程度動作が身体に馴染んだら、徐々にギア比を上げ負荷を高めて行きます。

通常のトレーニングギアに負荷を上げる頃、もう一度ポジションを確認したらあとはシーズンインに向けて強度を上げたトレーニングを重ねて行くだけです。
 
シーズンの始まりは丁寧に。そしてシーズンが始まったら大胆に、がむしゃらに。オリンピックイヤーでもある今年は色々と話題の多い1年になると思います。皆さんもそれぞれのステージで自転車競技を楽しんで下さい!
 
ポジショニングに関する事は過去ログを参考にして頂ければ幸いです。Trainer’s HouseのFacebook、あるいはシクロチャンネルのCYCLOGに掲載しています。


画像は壁紙シリーズから。昨年のインターカレッジで優勝した男子チームスプリント(先頭から山口大貴・野上竜太・堀航輝)

野上選手、堀選手は高校時代から短距離選手として全国に名を馳せていますが、1走を走った山口選手は大学3年から自転車競技を始めた異色の選手です。

それまで続けてきた陸上競技を怪我で断念するも、何かスポーツで結果を残したいと自転車部に転部してきました。今春大学院を卒業しますが、これまでの四年間に全日本選手権、全日本学生選手権、インターカレッジと全てのタイトルを手にし、卒業後は研究及び指導の道を目指すそうです。きっと素晴らしい選手を育てる指導者になってくれると思います。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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