三瓶将廣「すべては自分の力で決まる=自転車#4」
1998年に初出場した世界選手権で、共に出場した弟(貴公)が、3位に入り、僕より先にワールドゼッケンを獲得。それ以降「弟を超える」というモチベーションが僕の世界挑戦を支えていた。その後、2000年の世界選手権アルゼンチン大会で準決勝に進出したものの、またしても「弟を超える」ことができなかった。
BMXを始めて以来、順調に成績を伸ばし、成長していった僕だったが、アルゼンチンでの世界選手権以降、早くも大きな壁にぶつかることとなった。
アルゼンチンからの帰国後、2000年の全日本選手権では、転倒し、骨折を経験した。翌年2001年の世界選手権アメリカ大会では準々決勝で敗退。2002年のブラジル大会はキャンセルし、かわりに挑戦したABAワールドチャンピオンシップでは練習中に骨折。
アメリカ大会で骨折を経験。
さらに国内戦でも勝てなくなった三瓶将廣。人生初のスランプだった。それは2年間にも及び、「弟を超える」という目標は4年が経っても達成できずにいた。
何をやっても上手くいかない時期は、当然BMXを楽しむことができず、他のことに手を出したくなる。そして、スランプの間に、僕の心を動かしたのが「野球」だった。
しかし、BMXの練習があるため、クラブには入れず、家で祖父とキャッチボールをする日々が続いた。そんな僕を間近でみていた父親は、BMXの自転車だけでなく、野球の道具も揃えてくれた。
父親が小さい頃に使っていたグローブを出してきては、昔の思い出がこみ上げたのか、ニヤニヤと楽しそうにしながら「これがイイんだよ!」と僕に薦めた。同時に、道具好きの父親のスイッチが入ることとなった。
いつの間にか、どんどんグローブを買ってきて、気がつけば、ピッチャー用、ファースト用、外野用、内野用、キャッチャー用、さらにはキャッチャーマスクまで。一人しかプレイヤーはいないのに、野球チームでも作ろうと思ったのだろうか・・・。
それでも、たくさんのグローブは大活躍した。学校の友達と放課後に遊んだり、BMXの友達が集まった時も公園で野球をしたり、BMXとは違う、チームスポーツの楽しさを知ることもできた。
実は、僕はもともと肩が脱臼しやすい。父親は、それを知りながら、スランプに陥った僕に快く野球をやらせてくれた。一方で、野球をやらせつつも、BMXの話題も絶やさなかった。いま思えば、「気晴らし」を挟む事の大切さを伝えたかったのだろう。
さらにこの時期、父親は僕に、通常の20インチのBMXではなく、16インチのBMXを与え街中を走らせた。タイヤもギアも小さいため、大きなタイヤのついた自転車に乗る友達についていくためには、より高い回転力とテクニックが必要となった。
今までとは違ったBMXを乗りこなそうとする事自体が楽しかったし、16インチのBMXに慣れたことで、回転力が上がっていたのも実感できた。きっと、これも父親の作戦だったのかもしれない。
最終的に、肩が脱臼しやすいのと、運良くも、早い段階で全く野球のセンスが無いことに気づいた僕。こうして再び、自転車に対する情熱に火がつくこととなっていった。
選手本人のやる気があってこそ、次のステップを目指して練習に取り組むことできる。気分が乗らない時に無理をしてもBMXに対して拒否反応が芽生えて、次第にモチベーションはなくなってしまうだろう。
それを小学校の時期に学ぶことができたのは、その後の選手生活にとって、とても貴重な経験だった。
そして、2002年秋、アメリカナショナル大会に再挑戦した三瓶将廣が好成績を連発し、アメリカのBMXブランド、STAATS BIKESの社長ジェイソンにスカウトされ、夢のファクトリーチームへの移籍も決定した。
STAATSチームに加入後初参加したアメリカナショナルレース。結果を残さなければいけないプレッシャーと戦ったレースでもあった。
さらに、翌2003年の春先、アリゾナで行われたナショナルレースでも、全クラスで決勝進出。中学に入学するころには、大きな自信を身につけ、BMXを最高に楽しんでいた。
その勢いのまま、2003年の世界選手権オーストラリア大会では念願の決勝進出を果たした。弟、貴公が決勝に進出した1998年以来、日本人としては5年ぶりの決勝進出。予選からすべて1位。「とうとう弟を超える日が来た」と確信した。
初のワールドゼッケンをゲットしたオーストラリア大会、佐伯選手と撮影
しかし・・・、肝心の決勝でスタートを失敗。その後、追い上げるものの4位でゴール。その瞬間は、決勝を最後まで走り切れた安堵感がこみ上げた。しかし、同時に弟の記録、世界選手権3位に届いてないことに気づくと、再び悔しさがこみ上げた。
さらに、同じく日本代表として決勝進出を果たした、現CSCのBMXコース担当の佐伯進選手も4位。共に表彰台を逃してしまった。そして、改めて、弟の成績が偉大であることに気付くこととなった。
#5に続く。
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