三瓶将廣「BMX日本代表 世界選快進撃の裏側」
毎年7月に開催される世界チャンピオンを決める大会、BMX世界選手権大会。今年はニュージーランドで開催され、日本から45名の代表選手が参加した。
45名!と聞いて驚かれる方がいるかもしれないが、これはBMXレースならではのもので、エリートカテゴリーのトップ選手たちだけでなく、アマチュアクラスの選手たちも世界選手権に出場できるため、BMXの日本代表選手団は毎年大所帯となる。
大会は大きく2つのカテゴリーに分かれている。
1つはチャレンジクラス。下は5歳から、上は45歳オーバークラスまであり、各年齢ごとに世界チャンピオンを決めるという、他の自転車競技ではあまりない、アマチュアクラスのレースが大会前半に行われる。
もう一つのカテゴリーは、大会後半に行われるチャンピオンシップクラスだ。これは他の自転車競技と同様、ジュニアとエリートクラスに分かれ、毎年レインボージャージ獲得を目指して争われる、まさに世界の頂点を決めるレースだ。
僕は8歳で初めて日本代表に選ばれ、それ以来2002年を除く過去14大会でライダーとして世界一を目指して挑戦してきた。しかし、今年は違った。サポートスタッフという立場で参加することになったからだ。
今年の世界選で、初めてスタッフとして挑むこととなった三瓶将廣 (photo「dsk24」)
去年の世界選手権が終わり、活動の方向性をチェンジした。それは、世界大会でサポート側に回ることで、今まで経験してきたノウハウを後輩選手たちに活かしたいというのが目的だった。
そして昨年から、講習会や、ユース強化育成選手の合宿といった後進の育成活動に力を入れているのが認められ、今年の5月、アシスタントマネージャーとして日本代表に参加することが決定した。新しいチャレンジだったこともあり、選手として選ばれるときと同じように嬉しかった。
今年の世界選手権はニュージーランド。アリーナに特設されたインドアコースが舞台となった。去年のバーミンガム大会にも増して、タイトなレイアウトと、ワンミスで大きくスピードが落ちてしまうテクニカルなコースだった。
今年の世界選の舞台はこれまでにないタイトなコースとなった (photo「dsk24」)
チャレンジクラスに用意されたスタートヒルは、高さこそ5mだったが、角度等が世界規格の8mヒルと同じ設計になっていて、スピードや技術といった様々な要素が要求される世界選手権にふさわしいコースだった。
大会前半に行われたチャレンジクラスには出場した日本代表選手は41名。2日間の練習が行われ、その後2日間で各クラスのレースが繰り広げられた。
その中から、13名が準決勝へ。そして8名が決勝進出を果たした。結果、世界チャンピオン1つを含む8つのワールドナンバーを獲得することが出来た。
慣れない世界の舞台に挑戦するKIDSたちにアドバイスする三瓶将廣(photo「dsk24」)
好スタートを決めた日本チームは、大会5日目から始まったチャンピオンシップクラスでも、記録的快挙を成し遂げることとなった。しかし、そこには世界大会ならではの様々な苦労があった。
まずはコース。アリーナのサイズの関係上、今までで1番タイトなコースの中に、8mスタートヒルが設置された。さらにファーストジャンプは前代未聞のシングルジャンプとなり、その後高速で侵入するコーナーは、高度なテクニックがないと曲がり切れないほどタイトなものとなった。まさに世界一決定戦にふさわしい総合的能力が問われるコース設計だった。
ちなみに、チャンピオンクラス初日に行なわれたタイムトライアルでトップにたった選手のタイムは22.5秒。昨年のロンドンオリンピックのコースでのタイムは30秒台後半から40秒台前半だったことを考えると、今回のコースがどれだけショートトラックだったかがうかがえる。(ちなみにコースの全長は最後の最後まで発表されなかった。おそらくこれまで見た中でも最短で300mも無かったかもしれない。)
今回、もう1つ今までの世界選手権とは大きく違ったのが勝ちあがり方式だ。以前まではワールドカップ同様、タイムトライアルでトップ64人が決勝トーナメントに進出する形式だったが、今年からはエントリーの時点で国別ランキングで参加枠が決められ、タイムトライアルでの足切りは無くなった。
日本は昨年度のランキングから、ジュニア男子3名、エリート男子2名、エリート女子1名という配分がされ、ジュニア女子に関しては継続的活動が出来ていないため、参加枠を取ることが出来なかった。
さらにトーナメントの初戦、3本合計で勝ちあがりがきまる予選を、国際ランキングトップ16人は免除という、新たなシード制が採用された。こうして、国際自転車連合UCIの決めるルールには頻繁に変更があり、コースも会場によって千差万別。しかし、決められたものは決められたもの。勝つ人はどんな状況でも勝つというものだ。
今回、チャンピオンシップクラスに出場した日本代表はジュニア男子2名、エリート男子2名の計4名。そんな中、エリート男子に参加した、現日本チャンピオン、長迫吉拓がタイムトライアルで18位と好調さをアピール。チームジャパンに活気を与えた。
タイムトライアル18位。まずまずのスタートを切った日本王者長迫(photo JBMXF)
しかし、世界は甘くない。予選ではクラッシュ等に巻き込まれて日本人選手が続々敗退していってしまった。
そんな中で、意地をみせたのがやはり長迫吉拓だった。ただ一人予選を勝ち上がると、1/8ファイナルでは、2011年度の覇者、フランスのジョリスに続いて2位でゴールし1/4ファイナルへ進出した。
続く1/4ファイナル。長迫の組には昨年のチャンピオン、サム・ウィロビー(オーストラリア)や、前日のタイムトライアルを制したコナー・フィールズ(アメリカ)といった世界大会では上位常連の強豪ばかり。
これまで、そんなネームバリューに負けてしまうのが、世界トップレベルの経験が浅い日本人選手にとっては弱点の1つだった。
しかし、モノは考え方。どんなに速い選手でも背負っているプレッシャーや、ミスする可能性をもっている。何が起こるかわからないのは全員が同じだ。
僕は長迫に対して「相手が誰でも行けるぞ!吉拓、お前も速いんだからな!」と必死に声をかけた。しかし、今後、このレベルまで勝ち上がった選手達に対して、いかにして自信を持たせてレースに送り出すか。サポートの立場にたった僕も学んでいかなければならないと強く感じた。
勝負の1/4ファイナル。長迫は、集団の真ん中で第1バームに侵入。するとトップのコナー・フィールズが転倒。そこにサムも突っ込み後続も次々と転倒!
長迫も引っかかったが、致命的な転倒は免れ、すぐにレースに復帰。通過順位ギリギリの4位を守りゴール!これで準決勝進出となった。
世界選手権7位。新たなステップに踏み入れた長迫(photo JBMXF)
日本人選手が世界選手権チャンピオンシップクラスで準決勝に進出したのは、史上初めてのこと。誰も踏み入れたことの無いステージに上り詰めた長迫を祝福したい気持ちもあったが、ここで驚いて、満足したらレースは終了だ。気持ちはすぐに準決勝に向けることにした。
長迫本人もけして満足していなかった。決勝をしっかり見据えて戦った準決勝。戦略も走りもバッチリ決まり、決勝進出という快挙を成し遂げた。
自分でも信じられていないのか、はたまた目標のスタートへ立っただけだから驚いないのか、長迫は無表情で戻ってきた。それに応えるように、サポート側も夢のワールドチャンピオンを目指し気持ちを切り替えた。
決勝の興奮は、下に貼り付けたレース映像を見てもらえば伝わるはず。満員の観客が見守る中、臆することなくスタートした長迫。作戦もはまり、第1コーナーでインコースを攻めたものの、残念ながら接触して転倒。結果7位でレースを終えた。
接触なければ・・・表彰台もあったかもしれない。でも、他の7人がいて初めてBMXレース。接触は予想出来ないし、世界が見守るあの舞台で、転倒まで完ぺきなレースをし、日本人の可能性を示してくれた長迫をさすがと褒めるしかない。
今回の世界選手権の結果は、僕自身も目指していたものだし、本当に素晴らしい結果だった思う。チャレンジクラスの快進撃から始まり、長迫の世界7位という快挙。最後の最後まで日本チームの活躍が目立った大会となった。
選手の日々の努力はもちろん、スタッフチームが一丸となったことも、今回の結果を生んだ要因だと思う。各々がしっかりと役割を果たし、選手たちをレースに送り込む。世界に誇る日本のチームワークが大きな力を生んだに違いない。
誰よりも海外を経験した三瓶将廣のチーム内での信頼は高い (photo「dsk24」)
そんな日本代表の各国からの評価も上々だ。「日本のキッズはすごく速いね!」「みんなテクニックあるね!」「ジュニアやエリートでも、これから楽しみだね!」と、数々のお褒めの言葉をもらった。日本チームは今、世界から注目される国になってきていると実感した。
選手たちの才能を無駄にしないために、これまで以上に育成に力を入れて行かなければならない。それが僕の役割だ。来年の開催はオランダ!チャレßンジクラス男女と、ジュニアエリートクラスでの世界チャンピオン輩出を目指して、今回見つけた課題をフィードバックしていこうと思う。
【関連動画】
世界選手権7位の長迫吉拓 レース後インタビュー
三瓶将廣自身が編集した世界選手権日本代表の活躍をまとめた映像
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