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佐藤一朗「自転車競技のトレーニングを治療家としての視点で見た考察」

Posted on: 2015.02.22
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僕は自転車競技のコーチと同時に、鍼灸マッサージ師として治療を行う治療家でもあります。どちらがメインかと聞かれると答えにくい部分もあるのですが、現在は”両方”頑張っています。

治療院で患者さんを診察する際、最初に行うのは視診と呼ばれる「目で見て症状を把握する」事です。実は患者さんが治療院にいらした時から既に治療は始まっていて、一挙手一投足を目で追って視診を行っています。歩き方、姿勢のような日常動作からちょっとした仕草まで患者さんの行動を追っていくと色々な情報を得ることが出来ます。

次に行うのが問診です。患者さんに直接今の状態や症状の程度を言葉で確認します。どんなときに辛いか、いつ頃から辛くなったか、どういう動きをすると特に辛いかなど、言葉から得られる情報を丁寧に確認していきます。

そして、いよいよ治療室に異動し治療に入ります。まずは視診や問診で得られた情報を基に、実際に触って状況の確認を行い、症状の把握に努めます。これを触診と言います。

それ以外にも必要に応じて検査の様なことを行う時もありますが、実際に治療と並行して行ってしまうことの方が多いかも知れません。治療では筋肉の張りを解し、関節の可動域を回復させたり、動きをスムーズにする事を中心に、状況に応じて手技や鍼治療などを選択して症状の回復を図ります。

後輩の治療家とのカンファレンスや専門学校での勉強会等で良く聞かれるのが、「何処をどうすれば治せるのか、どの位刺激を入れれば良いのか」など治療の方法についての具体的な質問です。

こういった質問をされるとふと思い出すことがあります。それは選手の指導の現場に行った時に聞かれる、「どんな練習をすれば強くなれるのか、どの位の負荷をかけたら良いのか」という質問です。

ちょっと強引な理屈かも知れないのですが、僕は治療とトレーニングは同じベクトルにあると考えています。「人の身体の機能を回復させるのが治療だとすると、それをさらに高めて行くことがトレーニングなのだと。」

つまり、人の身体にどういった刺激を入れるか、どの程度の刺激を入れるかで治療にもなればトレーニングにもなると言うことです。(すみませんかなり強引な理屈なのは自覚しています)

では、治療を行う上で何を基準に治療方針の決定や症状の把握すれば良いのでしょう。治療家として国家資格を取得された方なら誰もが知っている事ですが、それは「解剖学と生理学」に基づいた人の身体のあるべき姿です。

解剖学とは人の身体のパーツの配置や名称等を覚えることです。それに対して生理学は人の身体のパーツのそれぞれの働きや機能について理解する事です。(大雑把で済みません)

この本来あるべき姿を知ってさえいれば、患者さんの症状が何処に原因があるのか、何がおかしいのか把握することが出来ます。この症状、病態を個別に学のが臨床医学各論というもので、正常な状態から病態に変化する様を理解するのが病理学です。

これもまた強引にトレーニングに当てはめてしまいます。結果として得られる成績や記録を病態だとするならば、どんなトレーニングによって刺激を入れるかが、病理学と置き換えられるでしょう。

しかしここで問題が生じます。今の日本では自転車競技において「あるべき姿」が定まっていないのです。いろいろなトレーニング機材が開発され、海外の情報も相まって刺激の入れ方(トレーニング方法)は様々な情報が溢れていますが、そもそも「どういう形が正しいのか」生理学や解剖学に値するベースが見あたらないのです。

随分前になりますが、ロードレースの世界で議論のテーマになったことがあります。「骨盤は前傾させるべきか後傾させるべきか。」

分かりやすく言えば競輪選手の様に前に倒した方が良いのか、後ろ乗りで腰を立てた方が良いのか?という議論です。これは過去の選手達の経験談やヨーロッパの選手のライディングフォームなどから様々な意見が交わされたように覚えています。僕自身も多くの人に聞かれました。

しかし、これほどナンセンスな質問は無いと僕は思っています。骨盤の角度はペダルに対する入力の要求によって変化する物であり、必要に応じて前傾もすれば後傾もする。その選手のスタイルによっても変わって来る。ただそれだけの事だからです。

簡単に言うと、ダッシュ力や大きなトルクを必要とする状況であれば前傾させれば良いし、長い距離を低トルクで走行するのであれば後傾させれば良いだけの話です。なぜなら骨盤の角度で筋肉の出力や稼働する筋肉のバランスが変わってくるからです。

骨格や筋出力のバランス、種目特性が分かっていれば議論する事すら意味のない事です。そんな単純な事でさえ「あるべき姿」を知らない人にとっては興味深く、そして難しい問題になってしまうのです。

実は僕が研究のテーマとして一番最初に取り組んだのは、このあるべき姿の理論体系を構築する事でした。なぜなら「解剖学や生理学を学ばずにして治療を行う事は出来ない」という治療家として当たり前の事を知ってしまったからです。

僕は15才の時に自転車競技を始めてから41才で引退するまで、約27年間競技生活を行ってきましたが、そんな事すら知らずに走り続けていたのです。日本人に最も適した自転車競技のあるべき姿を1日も早く確立しなくては。。。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うトレーナーズハウス代表。自らの競技経験に加え鍼灸按摩マッサージ師としての知識を生かした、運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の研究を重ねる。現在は鹿屋体育大学自転車競技部のコーチとして指導を行うと同時に、競輪・ガールズケイリンなどの多数のプロ選手の指導も行う。中央大学卒/競輪学校63期/元日本代表 ■TRAINER'S HOUSE ■TRAINER'S HOUSE FACEBOOK

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