福島晋一「薄情な世の中」

Posted on: 2014.08.22

最近はマルセイユにいても多忙な日々を送っている。仕事がたまっている。アマチュア選手のレース探しでフランスの県地図を印刷しようとしたがうまくいかない。

ノルマンディーの出発する朝もうまく作動しなかったプリンター。午前中からドライブをインストールしたり、悪戦苦闘をした。紙をうまく飲みん込んでくれない。

リモートサービスは有料だ。最近は何でもそうだ。

めんどくさい電話に応えたくないのは分かるが、オペレーターと話をしにくいシステムになっている。電電公社が電話帳で調べてくれた日々が懐かしい。

世の中はどんどん便利になってきているが、こうやって人を使わない方向、人間味のない方向に流れていく。この先はどこに続いているのだろうか。

その点、今の自分の生活はすべてマニュアルだ。若い選手にレースを探す方法を教えて、自分で決めさせようと思っている。

今の若い選手の滞在先は元鳩小屋だ。その豪華な鳩小屋に3人生活している訳だが、鳩小屋にはプールもついていて、彼らはそこで泳ぐのが日課になっている。

ただ、大家の息子の性格がちょっと曲がっていて、昨日はプールの電気を壊したと言いがかりをつけられて、選手達はプールの利用を禁止されたらしい。

あまりにも理不尽なので、彼らはその後、もう一度彼を尋ねて誤解を解こうとした。連日、フランス語を教えた甲斐があったと言うものだ。

結局、誤解は解けなかったようで、自分が大家のローランに電話してプールは使える事になったが、私は彼らが、まずは自分たちで解決しようとした事を評価したい。

世の中にはいろんな人間がいる。相手がどうであれ、若いうちに自分が周囲の人に受けいられる人間になっておくことが大事だと思う。

世の中には騙そうとする人間もいる。
下手に出ればつきあがる人間もいる。
逆に下手に出てきて、ひょいっと裏切る人間もいる。

この世の中で自分の夢に近づく為には、少々損をしても、利用されても、嫌な思いをしても、その中から、将来の為に学べることは学んで、得るものは得るしたたかさも必要だと思う。そして、義理と人情は失いたくない。

自転車レースはそういった事も自分に教えてくれた。

ビジネスライクな、太いものには巻かれろ的な世の中ではあるが、そういった世の中もうまく渡っていく順応能力を身につけたいものだ。

夕方になって、遂に自分はドライバーを持ってプリンターの分解を試みた。しかし、なんだかヤバそうなのですぐにやめて元に戻して、もう一度原因を確かめようと、懐中電灯で給紙口を覗き込むと何かが見える。

何回、買い替えようかと思ったか分からないが、そのうち、このプリンターにも愛着がわくのであろうか?

AUTHOR PROFILE

福島 晋一 ふくしま しんいち/岡山県出身 1971年生まれ。20歳からロードレースを初め、22歳でオランダに単身自転車武者修行。卒業後、ブリヂストンアンカーに所属し2003年全日本チャンピオンを獲得。2004年ツアー・オブ・ジャパン個人総合優勝、2010年ツールドおきなわ個人総合優勝。2003年から始めたチーム「ボンシャンス」代表に就任。2013年シーズンを最後に引退。JOCのスポーツ指導者育成制度でフランスのコンチネンタルチーム「ラ・ポム・マルセイユ」の監督として2年間の研修を経て、現在はアジアのロードレース普及を目指しアジアサイクリングアカデミーを主宰している。 アジアサイクリングアカデミー筆者の公式ブログはこちら

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