栗村修「プロ化とは」

Posted on: 2019.11.02

ワールドカップでの日本代表の活躍により日本中を熱狂の渦に包み込んだラグビー界。2021年秋をめどに現在のトップリーグ(社会人リーグ)とは別に新たなプロリーグ設立を目指すと発表されています。

瞬間最高視聴率53.7%を記録した今回のワールドカップの盛り上がりを考えると最高のタイミングなのかなと感じる人は少なくないと思いますが、各種記事などに目を通してみると、意外にも「状況はなかなか厳しい」という論調が目につきました。

その理由の一つが社会人リーグの安くない年間チーム維持費で、平均的なチームの維持費はすでに15億円ほどに達しているとのことです。

15億円あれば「ツール・ド・フランス」に出場できるワールドチームのメインスポンサーにもなれるので、単純に世界向けのマーケティングだけを考えた場合、費用対効果のコスパは決して良いとは言えないのが現状のようです。

少し話が逸れましたが、要は比較的高いチームの維持費に対して、現状のトップリーグの年間観客動員数を考えると、経営的に「プロリーグ」というものをまわしていけるのかが疑問視されているようです。

また、プロリーグの一般的な収入項目である、入場料収入(グッズ収入)、スポンサー収入、放映権料収入のうち、スポンサーと放映権についてはすでにサッカーやバスケなどの先行スポーツに開拓されてしまっており、今後、各企業やメディアにどれだけの余剰予算が残されているかが課題になってくるのでしょう(余剰がなければ奪いにいくしかない)。

いろいろなメディアの論調をチェックしていて印象に残った表現として「プロリーグの”プロ”というのは自分たちでリーグ経営のすべてをコントロールできてお金をプラスでまわしていけること」という言葉でした。

要するに、「プロリーグ化」というのは、「プロ選手」や「プロチーム」をつくる前に、「プロのリーグ運営者(ある程度大規模な企業経営者)」が存在している必要があるという意味です。そして、ラグビーは無理に”流行りのプロ化”に舵を切るのではなくて、このまま社会人リーグとしてやっていく方が良いのでは?という論調も一部で散見されました。

今年3月にJBCF(全日本実業団自転車競技連盟)でも新リーグ構想というものを発表しましたが、このプロセスの中で当初「プロリーグ」という表現が一部でつかわれていたものの、ステークホルダーなどからの指摘により「新リーグ」という表現に置き換えての発表となっていました。

現状、栗村個人が考える「新リーグ構想」というものは、積極的に「プロリーグ化」を進めるというよりも、まずはJCF(日本自転車競技連盟)内にある各団体の「横並び構造(高体連=学連=実業団=都道府県連盟)」を整理し、「ロードレース」という競技全体での各団体の役割と立ち位置を明確化することにあります。

そして、世界のヒエラルキーの中に於ける日本の位置(実力)というものをせめて関係者間だけでもしっかりと共有し、どういった時間軸で、どこ(なに)を目指していくのかをまずは決めたいと思っています。

具体的に表現するならば、高校生がインターハイを本気で目指すことは良いことだとは思いますが、そのためにジュニア選手が大人顔負けのトレーニングを行うことは止めさせる、大学生がインカレを最大の目標にすることは否定しませんが、ロード選手として最も大切な年代であるU23の時間帯に「世界を知る作業」を必ず取り入れる、JBCFが全国リーグを展開することは良いことだとは思いますが、実力以上のこと(すぐにプロリーグ化)を目指すのではなくて、むしろ底辺を広げる活動を各都道府県車連などと連携しながら進めるといった感じになります。

前回のブログに書いたように、いまの国内ロード界というのは、中小企業の乱立状態でもはや収集がつかない状況になっています(私自身もその中小企業の一つになってしまっています…)。

それぞれがそれぞれの立ち位置で正当性を主張し、それでいて中央で「与党的」な動きをする人が少なく、全体的にみれば明らかに「弱い与党」と「強い野党」といった良くない構造となってしまっています。

私自身は、元々選手や監督出身なので、現場上がりというか、ある意味で野党側にいた人間です。但し、いま思えば、野党側というのはとても気楽な存在だったと反省しています(それなりに好き勝手言ってきたので…)。

しかし、本気でなにかを正常化するためには中央に身を置いて我慢するところは我慢し、人間社会という構造を学び、忍耐のもと、物事を根気よく進めていく必要があると思い、いまは現場を少し離れた「中央付近」に身を置いて活動しています(相変わらず現場の仕事もたくさんやっていますが)。

「サッカーJリーグの様なものを創りたい」と言い始めてかれこれ15年以上の歳月が流れました。この15年間で日本のロードバイクに関連したマーケットは飛躍的に拡大し、何人もの日本人選手がグランツールに出場して完走を果たしています。

しかし、一番欲しいと思っていた「国内のシステム」についてはだいぶ足踏みが続いてしまっています。

そうこうしているうちに多くのスポーツで「プロリーグ化」が進み、プロリーグの原資となる、「スポーツファン」「スポンサー」「メディア(放映権料)」はかなりの部分が食い尽くされてしまっています…。

2回連続同じ結論となってしまいますが、結局のところいま一番必要とされているのは、”与党側の経営者”ということになるのでしょうか。

AUTHOR PROFILE

栗村 修 くりむら・おさむ/1971年横浜市出身。15歳から本格的にロードレースをはじめ、高校を中退し単身フランス自転車留学。帰国後シマノレーシングで契約選手となり、1998年ポーランドのプロチーム「ムロズ」と契約。2000年よりミヤタ・スバルレーシングで活躍した後、2002年より同チームで監督としてチームを率いた。2008-09年はシマノレーシングでスポーツディレクター。2010年より宇都宮ブリッツェンにて監督。2014シーズンからは、宇都宮ブリッツェンのテクニカルアドバイザーを務めた。現在は、一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役につき、ツアー・オブ・ジャパン大会副ディレクターとしてレース運営の仕事に就いている。JSPORTSのロードレース解説をはじめ、競技の普及および日本人選手活躍にむけた活動も積極的に行なう。 筆者の公式ブログはこちら

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