福島晋一「素直な偏屈爺さん」
古い車にしつこく乗っている人は頑固者と言うコメントを頂いた。自分が頑固であると言う事は認める。
長い間自転車選手を続けている人間は皆、頑固者である。
だいたい、自転車競技と言うものは頑固なものが勝つ競技である。諦めずに努力を続けて成功した経験は、さらに次の次元の諦めの悪さへといざなってゆく。しかし、自分は自分が素直であると思っている。
状況を認めて諦める能力。これも自転車選手にとって不可欠な能力である。
逃げが行ってしまった。
乗れなかった。
さて、必死に追って差が詰まったらアタックがかかって、また置いていかれてしまった。そして、追っていたらまた行かれて、自分の前に大集団が出来上がると言う事があった。そういう時は諦めて運を天に任せる。
焦って追った選手がいて、差が詰まったら自分だけ追い付けばよい。はたして、この作戦が素直と言るかどうかは別であるが、こうやって勝つ選手は勝ちを重ね。
利用される選手は今日もがっくりうな垂れるのである。
全ての物事には2面性と言うものがあるが、「頑固で素直である」と言う事は存在すると思う。
ただ、素直になるべき時に頑固になって、頑固になるべき時に素直になっている場合も良くある。恋愛にもよくみられる、今更追っかけたって、もう遅いよ…。
もう一つ、例をあげよう。
逃げに乗ったとする。チームからは引くなと言うオーダーが出ていても、逃げに乗っているメンバーからは引くように要求されて、嫌がらせをされる時がある。この逃げが相手に有利であって、自分に不利な場合でも「絶対にひかない」という態度を見せずに中途半端な態度をとると相手も更に要求してくる。
こいつはテコでも動かないなと思わせれば、相手も諦めるのだ。もしくは、ローテーションに入っている事で相手を乱せば「頼むから、後ろで大人しくしていてくれ」と言う話になる。
3人で逃げていて一人が引かない時に、文句を言ってもひかない相手に、自分も引くのをやめるそぶりをすると、引きだしたりするから面白い。
「押してもだめなら、やめてみな」である。
頑固で素直なのは自転車選手共通の性格なのかもしれない。