佐藤一朗「コーチ = 選手以上に頑張り続けなければいけない仕事」

Posted on: 2015.10.27

先週一週間は久しぶりにハードな時間を過ごしました。3日間の合宿、日帰りの指導、1日治療院での仕事をしてまた2日間の合宿とあまりの忙しさに嬉しい悲鳴を上げつつ、正直に言うとかなり疲れました。

と言うのも指導対象が性別も年齢層も競技歴も違いそれぞれの目的に合わせての指導となるため”頭がフル回転状態”で、帰って来て次の日はさすがに頭が働かず1日ぐったりとしてしまい、やむなく早々に就寝する羽目になりました。
  
選手に対してトレーニングのアドバイスをしていると、教えているつもりなのに気がつくと教わっている事があります。
 
僕も人間なので全ての知識を常に使っていたり、走っている姿から瞬時に全ての事を把握できるわけではありません。トレーニング指導を仕事としている分、普通の人よりもチェックするポイントや、そこで気がついた問題点に対して対応する術は持っているつもりですが、やはり万能ではありません。
 
そんなトレーニングの指導に於いて、指導者として「新しい気づき」と言うようなものは、不思議なことに改善すべき課題の多い選手、もしくは経験の浅い選手を指導しているときに発見する事が多いものです。

僕が普段指導しているチームは全日本チャンピオンや学生チャンピオンが多数在籍している日本でも有数の強豪チームです。選手個々の競技力が高いだけでなく、チームとしてのスキルも高いので新入生が入ってきたとしても普段のトレーニングである程度のレベルまで走れる様になっていくため、僕が指導するポイントは非常に細微な事柄や、理論的な裏付けの説明が主な仕事になります。

当然基本的な事は「出来て当たり前」のような錯覚に陥り、さらに効果的・効率的に強化する為のトレーニングプログラムを考えるのが僕の仕事と思うようになります。

しかし課題を抱えている選手や、経験の浅い普通の選手は「出来て当たり前」と思っていたことが出来ていないので課題があったり、競技力がなかなか高まっていかないのです。
 
文章にして書くと当たり前の事なのですが、実は指導者が一番陥り易い失敗がここでは無いかと感じています。「出来て当たり前の事が出来ない選手 = 才能のない選手・努力の足らない選手」と自分の指導力の無さ、観察力や知識の無さを棚に上げて選手の責任にしてしまうこと。これこそ才能のある選手を埋もれさせてしまう一番の原因だと僕は思っています。
 
今回ある1人の選手に対してアドバイスを行っているとき「どうしてこの選手はこうやって走るのか?」と考え込んでいると、「この方が速く走れると思って。」と驚くほど単純な答えが選手から帰って来ました。
 
この選手に限らないことですが、選手はこれまでの経験や人から聞いた話し(特に経験論からくるアドバイス)を自分なりに解釈し取り入れていることが多く、それが実際の走りと違っていても気がつく術がないので、その走り方が癖となって染みついてしまっている事が多いのです。
 
そこで、走行中を撮影した画像を見せ、参考となる様な他の選手の画像データや動画と比較することで、何を改善しなくてはならないのかを説明して行きます。もちろん理解出来たとしても直ぐに改善出来る訳では無く、改善する為に必要なトレーニングをプログラムして時間をかけて改善して行くことになります。
 
ここで問題なのは、当たり前に出来ると思っていた事が出来ない選手が「何故出来ないのか」を推察する指導者の能力です。今回の選手の様に「この方が速く走れると思って。」と言うような単なる思い込みが原因だったとしても、その思い込みを正し、理想的な走り方を理論的に説明し、改善方法を提案するためには、指導する側が選手の現在の走りの状況を正確に把握していなければなにも出来ないと言う事です。
 
今回1人の選手にアドバイスをするために様々な観点から筋肉の動きや連動を考え、その動きがペダリングに与える影響を説明しました。それと同時にこの事を「新しいチェックポイント」としてこの一週間指導に携わった全ての選手に当てはめてみました。するとほぼ全ての選手が原因や問題の大きさは違いますが、同じ改善点を有している事に気がつきました。
 
今まであまり考えていなかったチェックポイント。新たな改善点。選手を指導する新しいポイントの発見です。それと同時に指導者として至らなかった点がまた1つあらわになりました。少しはまとな指導が出来る様になってきたと自負していましたが、まだまだ勉強が足らない様です。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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