安藤隼人「自転車の基本と最近のフィッティングサービスについて思う事」
先日の自転車コーチ研修で、トラックナショナルチーム強化スタッフ、BMXトップライダー、現役競輪選手、高校生指導者顧問など40名を越える自転車競技指導者に「自転車を(速く)進ませるための基本は?」と質問し、グループディスカッションの後に発表していただきました。
1班 ・自発的に楽しむ・止まる曲がる・交通安全
2班 ・気持ち・バランス能力
3班 ・体幹でのバランス・大きいギアを速く回す・体力
4班 ・大きいギアを速く回す・気持ち
5班 ・気持ち・知識・安全
6班 ・目標を持つ・ポジションを作る・ペダリングスキル
7班 ・楽しむ・整備、安全・ポジションを合わせる
8班 ・バランス(真っ直ぐ走る)・ギア設定・整備、安全
私自身「バランス能力」がとても重要だと考えておりましたが、1班の「止まる曲がる」、3・4班の大きいギアを速く回す為、6・7班のポジションを作ると言うのも、結局は自分の重心を掴み移動させるというバランスを取る事に繋がります。
このように多くの指導者の共通認識として再確認できましたが、自転車でバランスを取るという事をどう教えるかが難しいので、その為の方法をどのようにしたらうまく伝えることができるか、トップ選手はどのようにしてバランス能力をパフォーマンスに使っているのかなどについても話をさせて頂きました。
一方、巷ではメーカー主導のフィッティングサービスが増え、それに習い個人でサービス展開する方も増えているようです。しかし、上記のように多くの指導者が、自転車の基本は、ハンドルに頼らず、自分自身でバランスを取るという事を認識しているにもかかわらず、主要メーカーのフィッティングシステムは固定されたものです。
マシンは安定していますので、そのマシンの上では、上半身もリラックスすることができ、楽に踏める姿勢を取る事も難しくはありません。しかし以下のシチュエーションではどうでしょうか?
○登り坂の時・・・重心がペダルではなく、サドルへ移動し易くペダルが重く感じます。そのとき同じポジションで漕いでいて、良いのでしょうか?
○横風が吹いて不安定な時・・・・風でハンドルを取られるのでハンドルを押さえたくなります。ハンドルを押さえると上半身の体重がハンドルへかかり、ペダルへの加重が抜け、ペダルが重く感じます。その時も同じポジションで良いんでしょうか?
○下り坂の時・・・フィッティングで上半身を前傾してペダルに体重が乗り易いようにした場合は、下りではもっとハンドルに体重がのります。そのようなポジションは前輪が滑りそうで怖くありませんか?
○集団走行の時・・・隣に人がいると緊張してハンドルに体重を乗せて押さえ、人の後ろでスリップストリームに入っていたとしても脚を使っていませんか?
シミュレーションマシーンにはじき出されたポジションの数値は、平地の無風で安定している姿勢でしかありません。自転車を買ったばかり、間もない方へは、手始めのポジションを決めるためのフィッティングとしてはいいかもしれません。しかし、自転車は上記の様な多様なシチュエーションに対して、瞬時に変化を感じ、身体全体でバランスを変化させながら漕ぎ続けなければなりません。
もちろん、経験豊富なフィッターによっては、様々なシチュエーションに応じて身体を使えるニュートラルなポジションをイメージしてフィッティングしてくれるフィッターもいます。しかし最近、サービスを受けるお客様のリアクション重視、目先の出力アップの為に偏ったフィッティングを助言し、安全性をおろそかにしていると見られるフィッターが散見されます。
ヨーロッパトップで走る日本人選手の乗り方を引き合いに出し、ハンドルに加重しすぎるポジションをフィッティングする事は、体幹で上半身を支えられず応用の効かない初心者・中級者には、フロント加重を助長し、コーナーリングや集団走行では大変危険だと考えます。
スマートコーチングでは、身体の使い方を先に教えて、最後に、自由に身体が使い易いポジションを提案しています。しかも、バランスを取りながら漕ぐ三本ローラーでのフィッティングを基本としています。始めに乗れない方は、その日のうち、もしくは2回目くらいで乗れるように指導しています。
様々な競技暦のお客様がいらっしゃるので、身体の使い方や感じ方は千差万別です。丁寧にカウンセリングしながら指導するので、4時間近くかかる事もあります。しかし、それだけ丁寧にコーチングすることは全てお客様の安全性に繋がると考えています。速くなったけど危なくなった、では本末転倒ではないでしょうか?
自転車業界全体のサービス向上、安全性向上を考えずに、競技や自転車業界の発展はありませんので問題提起させていただきました。もちろん、私の認識違いもあるかもしれませんので、ご意見があれば何なりとお受け致します。
長く続けるためには楽しく。楽しむ為には安全第一です。