杉浦佳子が500mTTで自身初の銀メダル獲得 2019UCIパラサイクリング トラック世界選レポート

Posted on: 2019.04.10

3月17日までオランダ・アペルドールンで開かれた「2019UCIパラサイクリング トラック世界選手権」。世界36か国から視覚障害クラスのパイロットを含む235名が出場し、パラサイクリングのトラック世界一を競った。

日本勢は女子C3クラスの杉浦佳子(東京・楽天ソシオビジネス株式会社)が大会2日目に行われた500mタイムトライアル(TT)で自己ベストを更新し銀メダルを獲得。ロードで世界チャンピオンに輝いた実績を持つ杉浦が、トラックでは自身初となる世界選手権のメダルをつかんだ。


女子C3クラス500mTT表彰 銀メダル獲得の杉浦

●女子C3クラス500mTT銀 杉浦佳子のコメント
「(大会初日の)3km個人追い抜きが不本意な結果でどんな顔して日本に帰ればいいのか、としか考えられなかった。暗い気持ちで夜を過ごしたが、2日目の朝、監督とコーチから”自己ベスト!”とだけ言われ気持ちを切り替えた。

先に走った藤井美穂選手(女子C2クラス)が自己ベストを出し、”私も続こう”とそれだけ考えてスタートした。結果、自己ベストを出す事ができ、苦手意識のある種目で銀メダルをとれたのでホッとしています」

杉浦は大会初日、本命種目に掲げていた3km個人追い抜きで記録を伸ばせず、予選敗退。この日は発走機のトラブルが相次ぎ、競技スケジュールが大幅に遅延、一部のクラスでは協議の上ホルダーによるスタートとなり、杉浦も少なからず影響を受けた。

シーズン最大の目標とした大会、そのターゲット種目で実力を出し切れなかった落胆やもどかしさは想像に固くない。その中どうにか気持ちの整理を付け臨んだ大会2日目の500mTTだったという。

もともと、ロードを得意とする杉浦は、パラサイクリング挑戦を機にトラック競技にも取り組み、およそ2年。自らは「苦手」と語る短距離種目だが、総合的なフィジカル強化、スタンディングスタートをはじめとするトラック競技特有の技術の向上や加速力の上積みなど、基礎から積んだトレーニングの成果は初日の悔しさもバネに、しっかりと大舞台で発揮された。


2019年よりパラサイクリング日本ナショナルチームはFUJIのバイクを駆っている

杉浦のほか、藤井美穂(女子C2)、木村和平・倉林巧和ペア(男子視覚障害B)がTTで自己ベストを更新。川本翔大(男子C2)もTT、個人追い抜き(IP)ともに自己ベストに迫る記録を出した。

日本から出場した5選手の個人種目結果とコメントを紹介する。なお、各種目10位まで2020年東京パラリンピック参加枠に関わるUCIポイントの獲得対象になっている。

●藤井美穂(東京・楽天ソシオビジネス株式会社)
クラス:女子C2クラス
リザルト:500mTT 6位(47″100)、3kmIP 6位(4’47″410)

「UCIポイントを確実に取る事ができて良かった。500mTTは3周目で少し膨らみ、そこでラインを外していなければ46秒台も出せたと思う。スタンディングスタートやスピードの乗せ方、ライン取りをもっと磨きたい。まだまだタイムを出せる、というイメージが自分の中にはあるのでさらにトレーニングを頑張って行きたい」

●杉浦佳子(東京・楽天ソシオビジネス株式会社)
クラス:女子C3クラス
リザルト:500mTT 2位(41”254)、3kmIP 9位(4’19″283)

「トラックは2回目の世界選手権。自分の力も上がっていると思うが、パラリンピックに向けた海外勢の仕上がりを昨年より感じた。3kmIPは自分では抑えているつもりでも、入りが速すぎて途中で脚が回らなくなってしまった。

来年は3kmIPで世界記録(4’00″026)を狙って挑みたい。練習タイムからしても脚力的には不可能ではないと思うし、そういう気持ちでやって行かないと足りない。まずは全日本で自己ベストを更新し、自信を持って来年のトラック世界選手権に臨みたい」

●川本翔大(広島・大和産業株式会社)
クラス:男子C2クラス
リザルト:1kmTT 8位(1’15″651)、3kmIP 10位(3’49″842)、スクラッチ 7位

「しっかり練習してきてタイムを出せると思って臨んだが、思った程出せず、本当に悔しい思いをした。(本命の)3kmIPは入りが想定より遅く2周目以降、ラップを上げようと踏みすぎた。

まだ自分のラップはバラバラ、トップはきっちり刻んでいる。3kmをトータルでしっかり考えて走れないといけないと再認識した。(ロードシーズンへ向けて)ロードレースで昨年3大会連続で4位というのがあった。今年は一歩ステップアップしてメダル争をしたい」

●木村和平(北海道・楽天ソシオビジネス株式会社)
クラス:男子視覚障害クラス
リザルト:4kmIP 9位(4’29″805)、1kmTT 18位(1’05″842)

「4kmIPでベストを出せず悔しい。現地に入ってから体調を崩してしまい、コンディション管理の大切さを改めて学んだ。1kmTTは全力でやるだけと、4kmをひきずらないように切り替えた。

次こそはしっかりタンデムのエンジンになれるようにしたい。ロードシーズンへ向けては、倉林選手と2年目で二人の反応や呼吸もさらに合うようになっている。昨年よりもっと上を目指して勝負にからめるように頑張りたい」

●倉林巧和(群馬・楽天ソシオビジネス株式会社)
クラス:男子視覚障害クラス パイロット

「世界選手権ならではの緊張感はあったが自分のコンディションは良かった。4kmは途中、ラップを目標にしていた15秒台に入れる事ができたがキープ出来なかったのが課題。もっと上積みが要る。

場合によってはトレーニングの見直しも必要かもしれないと感じた。ロードは木村選手と昨シーズン走り、大会ごとに良くなっていく感じがあった。しっかりとその経験を活かして勝負が出来るような走りをしていきたい」

また、今大会には2017年からパラサイクリング日本ナショナルチームにトラック競技の指導を行って来た沼部早紀子コーチが帯同した。沼部コーチは、トラック競技の短距離選手としてナショナルチームで活躍し、引退後、指導者の道に進んだ人物。

2013年から2年間、女子視覚障害クラスのタンデムパイロットを務めた経験もある。これまでは国内の合宿などを中心に指導して来たが、今後は遠征への帯同も含め、より綿密なコーチングにあたるという。


大会前、現地での調整の様子 写真左が沼部コーチ

●沼部早紀子コーチ
「パラサイクリングのトラック競技で世界大会は、1年に一度この世界選手権だけ。結果を出す事が一番の目標だが、今回選手たちには自己ベストの更新をオーダーした。

本来なら順位やメダルを設定するが、自己ベストを更新すればそこに届く状態だったので敢えてそうした。その部分では達成出来たとは言えない。リザルトだけを見ると大差があるクラスもあるが、中から見ると、持っている力を100%出せれば届いた、という悔しさがある。

大会はやって来た事が正しかったかどうかが分かる唯一の機会。そこで自己ベストが更新出来ない、力があるのに出し切れなかった理由を突き詰めて行くのがコーチとしての課題。

来年のトラック世界選手権に向けて狙って行くべき場所は高い。しかし急に特別な事をするのではなく、基礎をトレーニングのベースに、上げられる部分のポテンシャルの底上げを計りたい。

男子に関しては具体的な数値を設定してのプランニングも必要だと感じた。幸い、パラリンピックの前にもう一度トラックの世界選手権がある。今回の結果を全部受け止め、選手たちと向き合ってしっかり考えて行く」

次回のパラサイクリングトラック世界選手権は2020年の1月。2020年東京パラリンピックを迎える前にもう一度、世界大会に挑むチャンスがある。

沼部コーチと選手たちの信頼関係の厚さは大会中随所で感じられた。1年半後に迫ったパラリンピックに向け、より充実した態勢で日本チームは戦いを続ける。

この後パラサイクリングはロードシーズンへ。5月上旬にはロードの世界大会シリーズ戦である「UCIパラサイクリング ロードワールドカップ」が開幕。日本のナショナルチームは5月16日開幕の第2戦・ベルギー大会への出場が予定されている。

photo:JPCF/ayako KOITABASHI
text:ayako KOITABASHI

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