八王子市が東京五輪のBMX・MTB競技開催地へ立候補。組織委に仮設から常設案を提出「今、必要なことは機運を高めること」
2020年の東京五輪・パラリンピックの会場計画の見直しが行われる中、昨年12月にBMXとMTBの会場誘致を表明した東京都八王子市。開催後に負の遺産を残さず、コースの有効活用を掲げるその思いは、自転車界にとっての願いでもある。都内の常設コース誕生にむけた思いを、市の担当者や現役ライダー達に聞いた。
ー■昨年6月から始まった会場計画見直し
2020年開催の東京オリンピック・パラリンピック開催まで2020日を切り、母国での活躍を誓う若きアスリートたちの士気はますます高まっている。
一方、東京都や五輪組織委員会は、ハード面で大きな課題に取り組んでいる。
大会後の施設遺産問題やコスト削減といった課題解決に向けて、昨年6月に舛添要一都知事が会場計画の見直しを表明。その後、バスケットボール、バドミントン、セーリングの新設会場の建設中止をはじめ、既存施設の利用を模索し、新たな会場候補地探しが急ピッチで行われている。
そうした中、自転車競技会場でも見直しの必要性が問われている。当初の会場計画の中では、自転車競技の五輪種目であるトラック、MTB、BMX、ロードのうち、ロード以外の3種目の会場が、新設を予定し、さらには、トラックとBMXの会場に関しては、有明エリアに仮設の会場が建設され、開催後に取り壊されることが計画されている。
現時点では、自転車競技の会場計画の見直しは発表されていないものの、「果たして、東京五輪・パラリンピック後、自転車競技施設は、有益な遺産を残せるのか?」という問いに対しては、多くの人が疑問を口にする。
ー■会場誘致に名乗りをあげた八王子市「再び感動を体験してもらいたい」
このような状況をうけて、会場候補地として名乗りをあげたのが、東京都八王子市だ。昨年12月、石森孝志市長はMTBとBMXの2種目を市内で開催できるように組織委員会に要望書を提出した。
八王子市は、東京都西部に位置し、高尾山をはじめ自然に囲まれた住宅地。前回1964年に開催された東京五輪では、八王子自転車競技場(大会後解体)でトラック競技が、ロードレースが市内周回コースで行われ「再びその感動を子供達に体験しもらいたい」という願いを込め誘致に至った。
前回の東京五輪ではロードとトラックの両競技が八王子で開催された
また、八王子市は五輪開催後の継続的な施設運営を訴える。「今後のスポーツ環境を整える上で、遊びというのが1つのキーワードになる。現在国内では、オリンピックに代表されるような感動を与えるスポーツが、見るスポーツとして育ってる一方で、それに興味をもった人たちがスポーツを始める環境がないのが現状。いかにして門戸を開くかが重要な部分で、遊べる環境を整え、そして、そこからさらに興味を持った人たちがトップを目指す環境整備が必要。さらには、環境を整えることで地域活性化に活用したい」と市の担当者は語った。
その実現に向けて、八王子市では北西部の川口町などのおよそ5ヘクタールの土地を会場予定地とし、大会終了後、初心者も遊べる施設として市が運営していく意向だ。
ー■常設コース誕生を願う現役ライダー達の思い
八王子を拠点に活動するプロライダー山本和弘(弱虫ペダルシクロクロスチーム)
都内での常設コースの建設は、MTBやBMX関係者にとっての願いでもある。元MTB日本代表で現在シクロクロス日本代表の山本和弘選手は、五輪開催を機に、都内にMTBの常設コースが誕生することで競技の発展を願う。
「MTBの常設コースができる最大のメリットは『MTB競技を身近で見てもらえる』ということだろう。これまでのMTB競技はどうしても人里離れた場所での大会開催が多く、大会を見てもらうという環境ではなかった。
競技を身近に見てもらうことで、MTBを楽しむ裾野が広がり、MTB自体の認知度が上がる。さらには、選手は見てもらうことで意識改革が起こり、MTBをより魅力的なものへと変化させることができると感じている。
また、常設コースを維持していく中で大切なのは、決まった人たちだけが利用する閉鎖的な環境ではなく、多くの一般の方々が利用できる雰囲気作りがとても大切になってくると感じている。
オリンピックで実際に使ったコースが再利用され、そのコースを実際に走れるようになったら、オリンピックの走りをイメージして夢中で走るキッズ達の姿をたくさん見ることができるだろう。」
北海道出身の山本選手は、長年八王子を拠点にプロライダー業を続けている。そうした中、八王子市の自然環境が選手のパフォーマンスをより引き上げる可能性もあると考えている。
「長年八王子に住んできたからわかることだが、都内に比べて気温が5度低いことがMTB候補地として最大の魅力だと思う。MTB競技は最初から最後まで追い込み続ける競技なので少しでも気温の低い環境は選手にとって歓迎すべきことだと思う。
コースも人工的ではなく、自然を活かした起伏を利用できる八王子の地形は、コース建設に適しているし、緑豊かな八王子とMTBのイメージがうまくリンクしていると思う。現在でも、自然を求めて八王子を訪れるサイクリスト達はたくさんいて、もしこのコース設営が実現したらサイクリストの聖地になると感じている。」
現役ながら山梨県北杜市に世界基準のコースを作った栗瀬裕太(MONGOOSE)
一方、BMXレースにとっても常設コースへの思いは変わらない。現在全国に7施設が存在するBMXレースコースだが、都内には1つもないのが現状だ。また国内の既存のレースコースは、世界基準に準じてないために、ワールドカップ等の国際大会の誘致を行うこともできない。
そうした中、世界規格のスタート台やジャンプを有するトレーニング施設「YBP(Yuta’s Bike Park/通称:八ケ岳バイシクルパーク)」を建設したプロBMX/MTBライダーの栗瀬裕太選手は、世界大会を誘致できる常設コースの誕生を期待する。
「BMX日本代表は、自転車競技の中で唯一、ロンドン五輪に出場することができなかった。様々な要因があるものの、世界基準のコースが国内になかったのも大きな要因の1つ。
遊びとして、競技として、様々な要素を併せ持つのがBMXの魅力。開催後もオリンピック開催基準のBMXトラックが取り壊されずに残るという事になれば、UCIのワールドカップが開催される可能性も充分出て来る。
そうした時に、それを見て憧れを抱く子供達が増え、さらに世界を目指し易い環境が整っていくだろう」
ー■土地の再利用を実現して生まれたスケートパーク「プラネットパーク」
八王子の会場建設予定地の近隣には、戸吹スポーツパークがあり、そこはゴミの最終処分場の跡地を有効利用した総合スポーツ施設だ。中でも目玉となっているのが、国内最大級のコンクリートスケートパーク(プラネットパーク)。練習場所を求めるストリート系スポーツを行う人達の場所の提供に大きな役目を担い、現在では全国からスケートボーダーやBMXライダーたちが集まる人気施設となった。
「遊ぶ場所を規制をするだけでなく、遊ぶ場所を提供しないといけない」という市の意思を体現し、所有する土地を有効利用した実績となっている。そして、そのような思いは今回の競技会場誘致へと繋がる。
ー■誘致にむけて重要なのは機運を高めること
会場決定までの道のりには様々なハードルがある。世界一コンパクトな大会を打ち出して開催を手繰り寄せた東京五輪・パラリンピックにおいて、選手村から50kmという八王子までの距離が会場決定にどう影響するか。それ以外にも、会場の立地に関しては、UCI国際自転車競技連盟の承認、組織委員会や日本自転車競技連盟との調整など、様々な課題がある。
そうした中、市の担当者は「今一番必要なのは、八王子市民をはじめ自転車競技愛好家を含む多くの人達の機運を高めること」とし、オリンピック・パラリンピック開催が一過性のものではなく、恒久的な地盤を築くために、多くの人の思いを1つにまとめることが必要となってくる。
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