ツール・ド・フランス2011 現地便り3 寺尾真紀

Posted on: 2011.07.29

7月11日、待望の休息日。チームの宿泊地はカンタル地方の東の町サン・フルルと西の町オーリアックの間に散らばった。同じ名前を冠したチーズで知られるこの地方の主要産業は酪農。フカフカした焦げ茶色のサレール牛がのんびりと草を食み、濃い緑色に覆われた丘は緩やかに遠くのカンタル連山につながっていく。空はあくまで青く高く、昨日までの悪天候が嘘のよう。
レオパード・トレックのプレス会見が行われたアングラール・ド・サンフルールの村からガラピ橋を越えたところで、ガーミン・サーヴェロの練習走行に行き当たった。湖からの登り坂は狭いつづら折で、選手たちを追い越すことはできない。諦めて後ろを走っていると、昨日トマ・ヴォクレールにマイヨ・ジョーヌを譲ったトル・フースホフトが下がってきて、車の窓枠に掴まった。
いつまでも着ていられるものではないと分かっていたけれど、実際に手放してみるとなんだか気が抜けたような、胸にぽかんと穴が開いたような気分だ、という言葉を前日聞いてちょっと心配していたのだが、その表情は案外明るい。
「……ひと晩寝たらちょっとすっきりした」
最後までポイントを狙い続けるマイヨ・ヴェールと違い、マイヨ・ジョーヌは一度手放したら二度と彼の手には戻ってこない。そして今回のツールにマイヨ・ヴェールという目標はないのだ。
ずっと狙ってきた賞だから、長年の習慣を変えるのは難しい。1歩下がって他の選手がポイントを取っていくのを眺めているのは不思議な気持ちだし、なんだか宙ぶらりんだ、と彼は言う。
「……でも、その分落ち着いてステージを狙っていけるから」
「じゃあ、去年できなかった大逃げをしよう!」
去年アルプスで大エスケープを画策したものの、メカトラブルで日の目を見なかった、という経緯がある。彼は笑顔になったが、何も言わなかった。登り坂が終わり、チームメートははるか前方。彼はニヤッと笑ってメーターを示した。
「とりあえず追いつけるようにスピード上げてくれる?」

コンタドールとリースが痛々しいほどの懸命さで「ツールは終わっていない」ことをアピールし、チーム・カチューシャと同じ宿舎に滞在していたユーロ・スポーツから警察の到着を知らせる電話がかかってきた翌日、オーリヤックの中心部でツール2週目がスタートした。

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Photo by Yuzuru SUNADA

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