編集部コラム「取材者の立場として話題の会見を見て感じたこと」
自転車専門動画配信サイト運営者として、このネタを扱うのも違和感を感じるところもありますが、感じたことがあったので書いてみました。
皆さんほとんどの人が知っているとは思いますが、昨日ゴーストライター問題で渦中の佐村河内氏の記者会見が行われました。
私も仕事の合間にチラッとだけ、と興味本位でインターネットの生放送を見てました。自らの行動に対して反省の弁を述べるものの、多くの人を騙し続けてきた共犯者を罵り、非常に見るに耐えない会見だったように感じます。
そんな中で、記者から怒りとも思える質問が投げかけられる場面もありました。ニコニコ生放送では、「記者熱くなりすぎ」といったコメントもちらほら見受けられました。
しかし、そんな怒りをぶつけた記者の気持ちがすこし分かる気がします。
私達が、取材をする上で大事にしていること。それは、取材対象者との「信頼関係」です。伝えていきたい内容・趣旨を理解していただき、良い関係を築くことで、偽りのない姿を映しだし、多くの人に共感してもらえる作品を作ることが理想形です。
とりわけ、ドキュメンタリーの撮影・制作にいたっては、その「信頼関係」は、特に重要かと思います。カメラをもつ取材者である私達にどれだけ心を開いてもらえるか。そこが作品の出来に大きく関わってくるからです。
そうした中、あくまで個人的な考えですが、作品の評価基準として絶対的に大事にしていることは、取材対象者の反応です。いかに多くの人に「良かった」と言って貰えても、取材対象者に「いい作品でした」と言ってもらえなければ、作品としての価値は低いかと思います。
つまり取材対象者に喜んでもらえたということは、本当の姿を伝えられたということだと思っています。
頑張ってる人、苦しんでる人、様々な思いを持つ人たちの代弁者でもある私達の仕事は、物事が正確に伝わるかということが大事です。そして、それらをより効果的に伝えるために、演出や編集といった要素が加わってくるのです。(ここで言う演出というのは偽りを創るのではなく、物事を正確に、魅力的に伝えるための手法です。)
なので、佐村河内氏に誠意を持って取材をしてきた人たちにとっては、その信頼関係が嘘だったこと。偽りのことを伝えてしまったことにより、他の取材者との信頼関係を壊してしまったこと。さらには、ある意味で共犯者にされてしまったことで、怒りへと変わってしまったのではないでしょうか。
取材者が真実を見抜けなかったことに落ち度があったといえば、そうかもしれません。ただ、今回の件に関しては、20年近く世の中全体が嘘を見抜けなかったという、前代未聞の大芝居だったということでそれは置いておきましょう。
今回、改めて映像制作者として、偽りのない人やモノを、より魅力的に伝えていきたいと感じました。そんなときに見たのが下の映像。
この映像の中の登場人物には嘘はありません。アスリート達の勝利を目指すひたむきな姿。これまでの努力や苦しみから解き放たれた表情。何ら偽りのないリアルな姿こそ、多くの人に共感してもらえるのだろうと感じます。よって、やはり求めるべきは「リアルな映像」です。
自転車界にも、ひたむきに努力している人。歯を食いしばって戦ってる人。魅力的な人やモノがたくさんいます。そういった環境で勝負し、信頼を築き、リアルな映像作品を作っていければと願います。
編集長 継松彰宏