ツール・ド・フランス2011 現地便り3 寺尾真紀

Posted on: 2011.07.29

最初の試金石はピレネー、が総合優勝候補の合言葉のようだったが、大きな順位変動はなく3連戦の最終戦を迎えた。これが終われば「パンケーキみたいにまっ平らな」(ブライアン・ホルムHTC監督)平坦ステージがあり、2度目の休息日が巡ってくる。HTCハイロードに限って言えば、同時にスポンサー探しのタイムリミットもやってくる訳である。
スカイへの移籍は決定済みであるかのように報道されているカヴェンディッシュだが、彼と運命を共にすることが決まっているホルム監督は謎々のような言葉を残し、アドヴァイザーのエリック・ツァベルは「できれば一緒に行きたいけど」とため息をつく。ハイロードがHTCに代わる大手スポンサーを見つけられた場合には移籍なしのどんでん返しがあるのかないのか、誰に聞いてものらりくらりの答え。誰がどこと既にサインを交わした、その契約書を見た! というまことしやかな噂が、あちこちで耳打ちされては翌日に消えていく。

第14ステージの山頂ゴール、プラトー・ド・ベイユの決戦は総合優勝候補、クライマー、そしてマイヨ・ジョーヌ(ヴォクレール)に絞られた。数々のアタックが繰り返されたが、仕掛けては潰される繰り返しで誰も抜け出すことはできない。不調と思われるコンタドールさえも突き放されることはなかった。新人のヴァネンデールがツール初出場・初優勝を達成する傍らで、新しい合言葉は「本当の決戦はアルプス」に変わった。
「結局来週までお預けだね。総合争いという点では、今週も特に何もなかった!」
レオパード・トレックのナイガード監督は、そう言ってから、思いついて付け足した。
「でも一人も欠けず、全員でここまで来れたね。BMCも同じだけれど」
一方のBMCオショウィッツ監督は、1週目、2週目を振り返ってこう言う。
「カデルにはジョージ(・ヒンカピー)がいて、シュレク兄弟にはオグレディとカンチェッラーラがいる。他の総合優勝候補たちと比べて、そのアドヴァンテージは大きかったと思うよ」
そのスーパー・アシストたちに守られて翌日の『ピレネー・アルプス移動ステージ』を乗り切り、休息日後の最終週に対峙するのだ。

向かい風から追い風、左から右へと突然向きを変える強風が吹き荒れた第15ステージでは、レース終盤、ステージ優勝(+ポイント獲得)を目指してジルベールが残り3kmで飛び出した。しかし1km行かないところで再びHTCのトレインがコントロールを取り戻す。残り200m、無二の信頼を寄せるマーク・レンショーという発射台から飛び出したカヴェンディッシュに、ファラーもペタッキも太刀打ちはできなかった。
「あとは、モンペリエとパリで勝つ」
イギリスから訪ねてくる彼女を過ごす休息日が待ち遠しい、と言っていたカヴェンディッシュは、ラヴォールでの約束の前半をまず実現させた。本当にパリで勝利を飾れば、彼にとっては記念すべきツール通算20勝となる。
「何勝なんて気にしないようにしてる。平地とか山とか関係なく、本当は出場するどのレースも勝ちたい。勝てるだけ勝ちたい」
勝気にそう言い放つと、元気よく会見室を出て行った。

★現地便り4に続く



Photo by Yuzuru SUNADA

寺尾真紀(てらお・まき)/東京生まれ。在日デンマーク大使館勤務の傍ら、ツール・ド・フランス等の自転車ロードレースを取材。英オックスフォード大卒。

NEW ENTRY