「評価への覚悟」東京五輪自転車競技チームリーダー三瓶将廣 9年間の準備と決意
ついに迎えた東京五輪。大会自体が様々な問題が抱える中、それでも選手やスタッフは来たるべき戦いに備えて準備を重ねてきた。
世界中の注目を集めるオリンピックにおいては「結果がすべて」という言葉もある。ただ、問われるべきは「結果を出すために何をしてきたのか」ということである。
個人として、組織として、何を準備してきたのか。オリンピックの舞台はその評価の舞台でもある。
数ある自転車競技の中でオリンピックの正式競技は全4競技(ロード/MTB/BMX/トラック)。
種目ごとに分けるとさらに細分化され、競技や種目の特性がそれぞれ違うことから強化システムは各競技に委ねられているのが現状だ。
そうした中、日本代表監督としてBMXレーシングの強化を行い、東京五輪では自転車競技のチームリーダーとして参加する三瓶将廣氏(31歳/以下、三瓶)にインタビューを行い、BMXレーシングが歩んできた成長の足跡をたどる共に、今大会への思いを聞いた。
ーーーーーーーーー
三瓶は5歳でBMXレースをはじめ、その後アメリカを拠点にしながら若くしてプロレーサーとなり、14歳で日本人で初めて年代別の世界チャンピオンになった生粋のBMXレーサーだ。
その後、2012年のロンドン五輪出場を目指し世界各地を転戦したものの選考期間中の怪我もあり出場枠を獲得することができなかった。同時に、三瓶は選手として第1線を退き、指導者として裏方の道に進むことを決めた。
当時22歳。選手として次のリオ五輪出場を目指すことができる年齢での決断だった。
三瓶:「ともに出場を目指して戦った長迫吉拓選手(東京五輪日本代表)等のほうが技術的には長けていたのは分かっているなかで、自分が長年世界で戦ってきた経験を伝えることで、彼らが何倍にも成長をするのであれば、そちらのほうが良いと思いました」
と当時のことを振り返る三瓶。同時に、日本としてオリンピックの出場枠獲得を目指すにあたり、強化システムなどの環境面での行き詰まりも感じていた。
その整備を行うためには、自分の経験をフルに活用して、裏方に専念すべきだということも、選手としてトップを目指す選択肢を消した大きな理由だ。
ー■ユース・ジュニア世代の強化システムの構築が未来に繋がる
ロンドン五輪後、三瓶がまず最初に取り組んだのがユース世代の強化だ。
自らが代表をつとめる一般社団法人SYSTEMATIC BMXを活動母体として、ユースアカデミーを立ち上げ、才能ある選手たちを見出してトレーニングや座学などを通じて段階的なレベルアップをはかっていった。
BMXレースは20インチの小径車で行うため自転車競技の中で最もバイクコントロール技術が求められる競技。しかし、その技術習得のためには、幼少期からユース世代にかけて適切なタイミングで身体に染み込ませることが重要だ。
それが三瓶自身が選手時代に世界と勝負する中で痛感したことだった。
ユース世代にしっかりバイクコントロール技術を含む基礎技術を身につけさせ、その後に専門的な分野を徹底させていく。
三瓶自身が身を持って感じた課題を、ユースアカデミーに参加した選手たちに伝えいていった。
また、三瓶がこれまで築いてきた海外との人脈を駆使して、ユースの選手たちに海外遠征を積極的に行わせた。それによりジュニアやエリートに上がり国際大会に出場した際に、海外選手相手に物怖じしないよう準備を整えていく考えだ。
<関連記事:三瓶コラム「オランダ オリンピックナショナルトレーニングセンター遠征>
<関連記事:三瓶コラム「三瓶将廣「自分の位置探し、勝ち上がる強さを学びに」>
並行してエリート勢の強化整備も欠かさなかった。リオ五輪出場にむけて戦略的に海外遠征をスケジューリングし、日本チーム一丸となって国別の出場枠ポイントを稼いでいった。そして、北京大会以来2大会ぶりの出場枠を獲得することにつなげた。
国内選考の結果、長迫吉拓が日本代表としてオリンピック出場を果たしたが、日本チームとして勝ち取った出場枠でもある。
ー■リオで痛感したオリンピックへの意識
長迫が初出場を決めたリオ五輪。BMX日本代表の監督として参加した三瓶にとっても悲願のオリンピック出場となった。
しかし、結果は30位。そこで感じたのは、海外選手とのオリンピックへの意識の差だった。
三瓶:「ロンドンで出場を逃し、なんとか2大会ぶりにリオ五輪に出場した日本チームでしたが、出場が決まった時点でぼくたちのオリンピックは終わってました。
終わってみて感じたことですが、おそらく出場したことに満足していたのかもしれません。やはりオリンピックは結果がすべてでした。
結果を求めてる選手たちが全世界から集まってきてるわけですし、そこで結果を出さなければほとんど注目されません。
もちろんオリンピック出場は夢でしたが、出場するだけでは全く意味がないと痛感しました。」
その後、三瓶はリオで感じた思いを胸に日本自転車競技連盟(以下JCF)のスタッフとして働くこととなった。
ー■BMXレーシングの未来は自転車競技全体の発展あってこそ
数ある自転車競技全体を統括しているJCFは、自転車競技の強化の中枢を担っている機関である。しかし、三瓶がスタッフに入る前は、内部にBMXレーシングを知るスタッフが少なく、日本の自転車競技におけるBMXの位置づけはけして高いものではなかった。
自転車競技全体におけるBMXレーシングの可能性は、海外では広く認められ、幼少時代から自転車スキルを身につけるには最適な競技であるとされている。
幼少から遊びとして自転車を楽しみ、レースに触れ、そして自転車の技術を身に付けていく。その後ジュニア世代から脚質などに合わせて他の自転車競技に転向する仕組みが、自転車強豪国では組織的に組み込まれている。
そうした中、日本では他競技と足並みは揃ってはおらず、これまで結果のでなかったBMXレーシングにいたっては強化費も十分なものではなかった。
そんな状況を顧みた三瓶は、JCFではBMXレーシングだけでなく様々な競技と関わりをもつことで競技間の垣根をなくしていこうと働きかけてきた。
そしてBMXレーシングのポテンシャルを他の自転車競技の強化スタッフにも認めてもらうよう積極的にコミュニケーションをとってきた。
結果的に、JCF内部でのBMXレーシングの位置づけは少しずつ高まりをみせ、強化費の配分も認められるようになっていく。それにより、BMXレーシングの強化選手たちの海外遠征などが継続して行える環境を整えていった。
<関連動画:BMXレーシングにおけるアスリート育成パスウェイ>
ー■東京五輪は評価への覚悟を持って挑みたい
2012年のロンドン五輪後、三瓶が育成・強化のために動き始めたユースアカデミー。そこに参加していた選手の中の1人、畠山紗英(22歳)が今回東京オリンピックに出場を果たすことになる。
畠山はユースの頃からジャンプが得意だった。三瓶はその長所をアカデミーで伸ばし、積極的に海外遠征の機会を作っていった。
そして2017年からスイスのワールドサイクリングセンター(WCC)に送り込み、世界トップレベルのコーチと連携をとりながら強化を継続してきた。
それからおよそ4年。畠山は世界トップとの差を縮めていき、ついに今年5月に行われた今シーズンのワールドカップ初戦で3位に入り、日本人初の表彰台にあがった。
9年前、ロンドンオリンピックの出場枠を勝ち取れなかった日本。絶対不可能だと思われたワールドカップ表彰台に、9年間をかけてついに日本人選手が登りつめたのだ。
男子日本代表の長迫も、三瓶がサポートを行って以降、リオ五輪出場だけでなく、世界選手権やワールドカップで日本人初のファイナリストとなり、数々の快挙を成し遂げて今や世界のトップ選手として名が知られる存在となっている。
三瓶:「ロンドンの悔しさがあり、リオの経験があったからこそ今の東京五輪があります。すべてが準備にとっては欠かせないものでした。
ユースから継続して強化をすすめてきて、ようやく畠山選手がワールドカップ表彰台にあがることができましたし、選手たちがやるべきことをやってきたからこそ、今の結果が生まれてきたのだと思っています。
なので、東京五輪では、結果を求めていきたいと思っていますし、そのための準備はずっと行ってきました。」
この数年、BMXレーシングという枠をこえ、自転車競技チームのリーダーとして動き始めた三瓶。そんな彼にとって東京五輪の結果はどのような意味を持つのだろうか。
三瓶:「現在の日本の自転車競技は、強化体制を見直す時期になっていると思っています。東京オリンピックの結果は、なによりも準備が問われるものだと思っています。
『結果がでなかった=準備ができてなかった』ということにもなり、結果がでなければ、強化体制への評価につながります。
それは僕が中心として行ってきたBMXレーシングに対しても同様です。9年かけて準備してきてようやくここまできました。
そして東京五輪で結果を出すことができれば、この9年の経験は、他の競技への転用も効くはずです。ただし、結果がでなければ評価はされません。
そういう意味で今回の東京五輪は、僕にとってはその評価への覚悟をもって挑む大会になります。
今後自転車競技全体が、継続的に勝利を求めていくためには、そういった覚悟をもつことが必要だと思ってます。」
BMXレーシングは29日からスタートする。選手、スタッフは、それぞれの覚悟をもって、すべての準備を整え戦いに挑むことになる。
そして、その準備を行ってきたからこそ、次の未来に繋がる大きな一歩を踏んでいくことになるのだろう。
<東京五輪 BMXレーシング日程>
7/29(木) 男子準々決勝/女子準々決勝 10:00〜12:00
7/30(金) 男子決勝/女子決勝 10:00〜12:20
▷男子準々決勝組み合わせ
https://olympics.com/tokyo-2020/olympic-games/en/results/cycling-bmx-racing/results-men-qfnl-000001-.htm
▷女子準々決勝組み合わせ
https://olympics.com/tokyo-2020/olympic-games/en/results/cycling-bmx-racing/results-women-qfnl-000001-.htm