ツール・ド・フランス2011 現地便り 最終回 寺尾真紀

Posted on: 2011.08.08

明日から仕切り直しだというアンディの言葉があったものの、翌日のスタートではすでにゴール地ピネローロに向けての下りについてさまざまな予測がされていた。再び下りでコンタドールはアタックしてくるだろう、そこでまたアンディが遅れるのではないか・・・・・・思わぬ静けさで幕を閉じたピレネー3連戦の反動で、誰もがドラマを求めているのだ。
シャイで物静かな横顔だけにスポットライトが当たるボアッソン・ハーゲンだが、本人も自らが稀に見る負けず嫌いであることを認めている。
「昨日の悔しさだけで達成したとは思わないけれど・・・・・・。昨日逃したチャンスのおかげで、モチベーションが倍増したのはその通りかもしれない」
前日よりもすんなりと決まった逃げには、再びボアッソン・ハーゲンの姿があった。フランス人選手が未だ未達成のステージ優勝を目指しイニシアティブを取ろうとするが、最後のプラマルティーノ峠の頂上を目前にアタックをかけたのは24歳のノルウェー人だった。追走するイヴェール(ソール・ソジャサン)や後続のヴォクレールがコースを外れる中、モレマの猛追にも差を守りきり、リジューでの初優勝に続くツール2勝目を挙げた。
前日と同じように、下見で最後の下りを走った経験がものを言った、という。
「次にどんなコーナーがあるか知っていたから、不安を持たずに攻めていけた」
ゴール地点のプレス・テントでは、プラマルティーノ峠をメイン集団が下る様子を多くのプレスが観戦していた。翌日が休刊日にあたり記事を書かなくて良いはずのベルギー人新聞記者たちも、結局は固唾を飲んでモレマのダウンヒルを見守っている。違うのはメモとペンの代わりにネスレのアイスクリーム・コーン(2ユーロ)が握られていることくらいだ。
誰もが予測したとおり、レース終盤でコンタドールはアタックに出た。下りに入ってからのアグレッシブな加速である。テントの中が活気づいた。
「これはアンディはついてこれないんじゃないか? ほら、遅れた!」
コンタドールと共に先頭を下っていくのは、ダウンヒルの名手、同じスペイン人のサムエル・サンチェス。スペインのラジオ局がこれ以上ないほど活気づき、本国にレース状況を連絡する。
フィニッシュラインに近づいたとき、他の優勝候補たちがすぐ後ろまで迫っていたことをコンタドールは知っていたのだろうか。そこでどんな落胆、無力感を感じたにしろ、その顔から大きな感情の動きを知ることはできなかった。
ブライアン・ナイガード監督はあきれたように首を振った。
「たった数秒のためにあれだけのリスクを犯す意味がわからない。確かに彼には失うものはないかもしれないけれど・・・・・・」
アンディはバスに入る前に振り返り、今日の下りについてコメントを求める記者たちを一瞥した。
「同じ2級山岳でも昨日と今日の下りでは難易度や危険のレベルが全く違う。昨日はそこにたまたま『悪い日』が当たってしまっただけ」

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Photo by Yuzuru SUNADA

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