ブエルタ・ア・エスパーニャ2010 熱戦を振り返る

Posted on: 2010.09.23

 3週間を走り続けるブエルタもこのあたりが折り返し地点。アントンの山での圧倒的な強さに、今年こそブエルタの総合優勝は彼で決まりなのではないか、とも思われた。ただこの後には、アントンが苦手な個人タイムトライアルが控えている。総合争いは結局、タイムトライアルで有利なニバリと一騎打ちになるだろうとは大方の予想だった。しかし、この対決を前に予想外の展開が起こる。第14ステージのゴール手前6.5kmで集団の先頭を走っていたアントンが落車。本人は路面の小さな穴か何かに引っかかり転んだと言うのだが、結果ヒジを骨折し、マイヨ・ロホを着たまま無念のリタイアとなってしまった。

 これで総合トップはニバリとなり、4秒差の2位にロドリゲスが食らいつく形となった。第16ステージでは、クライマーのロドリゲスが本領を発揮。ニバリを引き離し、再び総合トップに立った。ここでニバリとのタイム差を33秒稼いだロドリゲスは、第17ステージで彼の苦手なタイムトライアルに臨む。しかし結果は、トップから6分12秒遅れの105位に終わり、総合争いから脱落した。一方ニバリはタイムトライアルを無難にこなし、この日総合トップに立った。38秒差でエゼキエル・モスケラ(シャコベオガリシア)がこれに続く。

 最終日前日の第20ステージで、ニバリと2位モスケラの差は50秒。ニバリの総合優勝は磐石かと思われたが、22km続く最後の峠でドラマが待っていた。モスケラが捨て身のアタックをかけ、ニバリを引き離し一気に差は19秒まで開く。沿道には溢れんばかりのスペイン人の観客が詰め掛け、モスケラを激しく応援する。引き離されるニバリの姿に、すわ総合逆転か! と思われた。しかし、ニバリは最後まで諦めなかった。冷静に自分のペースを保って走り続けると、霧が立ちこめる峠の頂上付近でようやくモスケラの姿を前方に捕える。パワーを取り戻したニバリはモスケラに迫り、1秒差でステージ優勝は逃したものの、今年のブエルタ総合優勝を確定させ、翌日マイヨ・ロホを着てマドリードにゴールした。

 イタリアのシチリア島出身のニバリは今年、25歳。09年のツールで総合7位、今年のジロではチームのエース・バッソの優勝に次ぐ総合3位の成績を収めている。実力はとうに認められていたものの、これまでビッグレースでの勝利はほとんどなく、どちらかと言うとあまり目立つことがなかった選手だ。今回もステージは1勝もしておらず、総合タイトルのおかげで彼ははじめてスポットライトを浴びる事ができたといっていい。地味な存在だが、山も上れるうえにタイムトライアルにも強い。オールラウンダーとしてコンスタントに総合を狙えるニバリの走りは、今後大いに期待されるところだろう。来年のツールでは、アルベルト・コンタドールとアンディ・シュレックの対決に、ヴィンチェンツォ・ニバリを加えた三つ巴の戦いが見られるのだろうか。激しい総合争いの末の勝利を経て、ひと皮もふた皮も剥けたに違いないニバリ。新エースの誕生に、大いに沸いた今年のブエルタだった。

Text: Chiho Iwasa
Photo: Yuzuru SUNADA

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