ツール・ド・フランス2011 現地便り 最終回 寺尾真紀

Posted on: 2011.08.08

永遠に続くように思われたツール・ド・フランスにも終わりが来る。パリ、シャンゼリゼでプロトンを迎える最終第21ステージ。去年もそうだったが、この日になるとツール・ド・フランスが遠くの、手の届かないもののような気持ちになる。厳密に言えば、プロトンがパリの周回に入ってくる瞬間、ツール・ド・フランスは隔たりのある、遠い世界の存在に変わってしまうのだ。それはレース会場に集まる、日焼けした肌に宝石を光らせた華やかなゲストたちや、そわそわとチームカーに飛び乗りシャンゼリゼの1周を楽しむスポンサー顧客のせいかもしれないし、それとは全く違う理由のせいかもしれない。チームバスの周囲には、見たことのないくらいたくさんの関係者が溢れている。折りたたみテーブルが出され、使い捨てのグラスでスパークリングワインが供される。なんとなく別の場所に行きたくなって、フェンスの向こう側へと移動した。コンコルド広場沿いの人波の真ん中に立ってみる。誰もが選手の到着を今や遅しと待ち構えている。遠くから地響きのような振動が伝わってきた。プロトンの接近を知らせている音だ。地響きは次第に大きくなり、そのうち大きな歓声に変わる。目の前の肩に阻まれて、選手たちの姿を見ることはできない。それでもはっきりとわかる。3週間の長い戦いを終えた選手たちが今、最終目的地に辿り着いたのだ。

プロトンがパリに辿り着いた瞬間に自分にとってのツールは終わってしまう、と書いたが、それよりひとあし先に自分にとってのツールを「終わらせて」しまった選手もいた。
「うまく説明できないけれど、自分にとってのツールは今日のTTまでだった!」
頑固に言い張るある選手は、チームメートを一人巻き込んで「お祝い」と称し、明け方までワインのボトルを空け続けた。個人成績はともかくとしてチーム順位もあるしあんな調子で飲んでいて大丈夫なのだろうか、とその様子を目撃して心配していたのだが、当の2人とも集団から遅れることなく走行しているようで、少し安心した。自転車から転げ落ちずに乗っていられるだけでも驚異だが、周回に入ったとたん千切れてしまったらと思うとこちらがはらはらしてしまう。

先頭集団が、そしてメイン集団が通り過ぎるたびに歓声が膨らむ。8回目の周回に入り、プロトンは500mのコーナーに飛び込もうとしていた。大きなスクリーンに映し出されたアルカンシェルは、リードアウトを終え、どこか淋しそうに先頭集団から離脱していく。その先のフィニッシュラインを争い、ボアッソン・ハーゲン、グライペル、ファラー、オスが全力でスプリントを切る。マイヨ・ヴェールを身につけたカヴェンディッシュが胸を張り、いちばんにフィニッシュラインを越えた。3年連続で最終ステージのシャンゼリゼを制したカヴェンディッシュは、念願のマイヨ・ヴェールを守りきった。

遠くでポディウム・プレゼンテーションの音楽が鳴っている。スクリーンにはマイヨ・ジョーヌのエヴァンスとアンディ、フランク兄弟の笑顔が映し出された。本当はもっと近くで見られるはずだと思いながら、なぜか、こうやって遠くで見ているほうがいいような気がした。
「毎年最終日はシャンゼリゼを8周回するんだ」
彼らのレースを追いかけながら3週間、フランス中を旅してきたのだと突然言いたくなったが、結局何も言わなかった。いろいろな言葉が頭の中で渦を巻く。最後に、ひとつの言葉だけが残った。

さあ、そろそろ家に帰ろう。



Photo by Yuzuru SUNADA

寺尾真紀(てらお・まき)/東京生まれ。在日デンマーク大使館勤務の傍ら、ツール・ド・フランス等の自転車ロードレースを取材。英オックスフォード大卒。

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