華やかさと深い祈りの中で閉幕したリオパラリンピック 戦い終えた自転車日本代表選手達のコメント
9月18日夜(日本時間19日午前)、リオデジャネイロパラリンピックが終了した。マラカナン競技場で行われた閉会式では、17日の自転車男子個人ロードレースで、転倒事故によって亡くなったイランのバハマン・ゴルバルネジャド選手への追悼も行われ、12日間に亘るリオパラリンピックは熱戦の日々を讃える華やかさと、深い祈りの中で閉幕した。
写真 17日全競技を終えた日本自転車チーム
自転車競技の日本代表、川本翔大(男子運動機能障害C2)、藤田征樹(男子C3)、石井雅史(男子C4)、鹿沼由理恵(女子視覚障害)・田中まい(パイロット)は、16日と17日に行われた個人ロードレースに出場、それぞれ、リオパラリンピックの最終レースに臨んだ。
写真 懸命の追走を見せた藤田征樹
16日には、男子C1-2-3クラス統合の個人ロードレースに川本翔大(C2)と藤田征樹(C3)が出場、川本が31位、藤田は13位だった。レースは39名が出走し、海岸沿いの平坦路にアップダウンのある山間部コースも加わった71.1km。
2015年のパラロード世界選手権で優勝している藤田には上位進出の期待もかかったが、序盤の平坦路、集団内で落車が発生。藤田は回避したが、後続の選手に接触されチェーンが落下し遅れをとった。必死で追走する様子が見られたが、先頭集団に追いつく事は叶わず、トップと2分37秒差の13位。
藤田は「悔しい結果。力は出し切ったが残念」と振り返ったが、山間部では、自ら声をかけ作ったと言う追走集団にあって、登りの殆どを一人で牽く藤田の姿が見られた。トラック3km個人パーシュートで惜敗、そこから立て直してのロードタイムトライアル銀メダル獲得。そしてこの日の意地の追走。世界のトップレベルで戦い続ける、藤田の競技者としての気概がひしひしと伝わるリオでの走りだった。
写真 遅れながらも完走した川本翔大
本格的なロードレースが初挑戦となった川本はトップと37分差の31位。途中棄権の選手も出ていた中、終盤はハンドルを握る力も入らなくなったという程ヘトヘトになりながら、最後の完走者としてフィニッシュにたどり着いた。
山間部の登りではゴールを諦めかけた瞬間もあったというが、「(大きく遅れた)あの時点で根性がないんですけど、これを走り切れなかったらもっと根性ないなって思って走り切ろうと思いました」と川本。
トラックでは1種目で入賞に食い込んだものの、同クラス上位との実力差を目の当たりにした今大会。しかし、パラリンピックの舞台に立つことの重みを口にし続けていた川本は最後まで諦めなかった。
写真 集団内を走る石井雅史
リオパラリンピック自転車競技の最終日となった17日。午前に行われた男子C4-5クラスの個人ロードレースには、リオを最後のパラリンピックとして臨んだ石井雅史(C4)が出場した。
石井本人およびチームスタッフの判断により、山間部の登りまで走った所で途中棄権とした。「自分のなかではやりきった、すごくすっきりとした清々しさがあります」と石井。
2009年、ロードレース中に落車し大怪我を負った石井にとって、今回は、それ以来の出場となったロードレースにして、パラリンピック最後のレース。沿道の観衆の声援を受け「走っていてすごく、選手冥利に尽きる思いでした。最後にリオで本当に良かったなと思います」と感慨深そうだった。
写真 沿道からの声援を受けて走る鹿沼由理恵・田中まい
日本チーム最後のレースは、17日午後、鹿沼由理恵・田中まいペアが出場した女子視覚障害クラスタンデムのロードレースだった。タイム系の種目に照準を絞ってトレーニングを積んで来た鹿沼・田中ペア。ロードレースは決して得意種目ではないが、オリンピックでも選手たちの前に立ちはだかったグルマリの山間部周回を含む69kmを17ペア中10位で完走した。
とにかく「きつかったです」と鹿沼。田中と二人最後までペダルを踏み、悔し涙も、うれし涙も流した、リオでのラストレースを走り切った。
写真 女子視覚障害クラス ロードレース優勝のポーランドペア
女子視覚障害クラス、優勝したのは、2015年のパラロード世界選手権でロードTTとロードレース2冠の実力者ポーランドのポドコシチェルナとヴチェック。2位アイルランドに1分差をつける独走勝利に、あふれる気持ちを抑えきれない様子でフィニッシュを駆け抜けた。
この日、午前のレースでは、イランのバハマン・ゴルバルネジャド選手が亡くなる、痛ましい事故があった。自転車競技には、危険と紙一重の側面がある。このことを再認識させられた。一方で、過酷な勝負に打ち勝った選手たちの感極まる姿を目にして、この競技のかけがえのなさも、改めて感じさせられた。
◯川本翔大(男子運動機能障害C2/20歳・大和産業株式会社)
<個人成績:トラック 3kmIP 8位/1kmTT 13位 ロード TT 13位/RR 31位>
この大舞台に立つ事が出来たのは本当に自分の中で良い経験だったと思いますし、今後の人生に生かして行けるような大会だったと思います。本当に、もう、自分の練習量が本当にまだまだなんだなってこの大会で学ばせてもらいました。今後の事は、少しずつ今から考えて行きたいです。まずは東京に出る事を目標にして、そこで上位を狙えたらいいなと思います。
◯藤田征樹(男子運動機能障害C3/31歳・日立建機株式会社)
<個人成績:トラック 3kmIP 5位/1kmTT 11位/ロード TT 2位・RR 13位>
泣く日もあれば喜ぶ日もあるっていう、短い間での感情の起伏って言うのがものすごく大きくて。これは4年前も感じましたし、その前の北京でも感じて、これがやっぱりパラリンピックだなと。
いい結果も獲れましたし、惜しい結果もあったその中で、今までの大会よりも、自分の成長をより濃く感じる事が出来ました。こういった(感情の)起伏を乗り越えて、結果を出せたと言うことは、人間としても、選手としてもまだまだ、強くなれるなと言う手応えを感じました。
◯石井雅史(男子運動機能障害C4/43歳・公益財団法人藤沢市みらい創造財団)
<個人成績:トラック 4kmIP 8位・1kmTT 6位/ロード TT 11位/RR DNF>
自分の中ではやりきった感があって、すごくすっきりとした、清々しさが本当にあります。(今後は)権丈理事長(日本パラサイクリング連盟)と発掘事業と強化、そちらに重点を置いて、これからも連盟に携わって行ければと思います。(自転車は)自分を育ててくれたものですから、やっぱり、その自転車で、自分がいい思いをしたって言うのを、今度は後進に伝えて行ければ、それが、自分の役目だと思います。
◯鹿沼由理恵(女子視覚障害/35歳・楽天ソシオビジネス株式会社)
<個人成績:トラック 3kmIP 6位・1kmTT 5位/ロード TT 2位・RR 10位>
悔し涙も流しましたけれど、メダルも獲れて、うれし涙も流せて、本当にこの次に繋がる良い経験が出来たと思っています。現在タンデムは、走れる県が限られていますが、今回の結果を一つの起点として日本でもタンデムが走れる都道府県がもっと増えてタンデムが出られるレースが増えて、2020年にタンデム種目での参加選手が増えてくれれば良いなと思っています。
◯田中まい(パイロット/26歳・ガールズケイリン選手)
一番狙っていたトラック種目の3kmでは、決勝にも上がれず悔しい思いをしたんですけれども、その悔しい思いをロードのタイムトライアルでしっかり、鹿沼さんの夢であるメダル獲得が出来て、ほっとしています。自分は、この3年間挑戦して来たことと、このパラリンピックに挑戦した経験を、また、自分の本業である競輪の方にしっかり繋げていきたいと思います。
<写真・記事 小板橋彩子>