ツール・ド・フランス2011 現地便り 最終回 寺尾真紀
『TTで決まるツールは面白くない』。かつてそう語ったアンディ・シュレクだったが、今年の総合優勝の最終決着も、やはり個人タイムトライアルの結果次第、ということになった。
現実的な見方をすれば、TTを得意とするエヴァンスとの57秒差は決して十分なバッファーではない。もともとTTを得意とし、かつドーフィネのTTでグルノーブルのコースを走ったエヴァンスには明らかなアドヴァンテージがある。それに加えて綿密な準備を積んできた。対するアンディはマイヨ・ジョーヌを着て受けた前日のインタビューで、まだコースのビデオしか見ていないことを認め、下見をするかどうかの質問については。多分しない、の答え。
このつかみどころのなさがアンディ・シュレクの難しいところである。何よりも勝つために来た、というこのツール。アルプスでのあれだけ果敢なアタック。情熱をこめてマイヨ・ジョーヌを追い求めている、と口にする一方で、決して得意ではないTTの準備はどこかおざなりな印象。
昨年のロッテルダムプロローグでは車から下見をするよう周囲が勧めたが、レーサー・パンツが見つからず時間がなくなって下見をしそびれた、という伝説が残っている。そしてそのプロローグでは、コンタドールに対して42秒を失った。
「どうしてか、というのは彼にしかわからないよ! 彼なりの理由があるんだろう」
「TTで勝者が決まるのはおかしいから、TTの準備をしないことでその意見を主張しているとか……」
そんなことはないと思うけど、と、レオパード・トレックの広報担当もこの話題になると少し逃げ腰である。
結局アンディはTT当日の午前中に、車でコースの下見を行った。
「いずれにせよエヴァンスとのタイム差は足りないだろう」
下見したことを教えてくれたシュレク兄弟の父の言葉通り、エヴァンスの最初の計測が出た瞬間が、アンディのツール制覇の可能性が消えた瞬間だった。
2007、2008と僅差の2位で終わり、昨年は不運な落車に泣いたオーストラリア人が、5年越しの夢を叶え、ツールのポディウムの頂点へ。共同プレス・インタビューのためにプレスセンターにやってきたエヴァンスを、記者・カメラマンたちの暖かい拍手が迎えた。
「この勝利をアルド・サッシに見せることができたら、どんなに喜んでくれただろう!」
自分が持つ可能性を信じ励まし続けてくれた恩師を思い、エヴァンスはしばらくその先を続けることができなかった。
(次のページへ)
Photo by Yuzuru SUNADA

