栗村修「セカンドキャリア」

Posted on: 2017.11.25

毎年、多くのプロ選手たちが「引退」という決断をし、ペダルを踏んで生計を立てるという仕事から卒業していきます。

そんな中、自ら引退を決意し、自転車選手として稼いだお金でその後の人生を悠々自適に暮らしてける選手はほんの一握りしかいません。

大半の選手たちは道半ばで契約を打ち切られ、仕方なく第二の人生を歩みはじめるというのが現実です。

プロスポーツ選手を語る時によく注目されるのはその年俸の高さです。

例えば「年俸5,000万円」という数字を聞くと凄い!と思ってしまいますが、しかし、実際にこの数字を5年間維持できる選手というのは全体でみればそう多くはなく、しかも単年で高額の収入があるため支払わなければならない税金の額も決してバカになりません。また、プロスポーツ選手としての支出も決して少なくないはずです。

ですから、大半のプロスポーツ選手には必ず「セカンドキャリア」というもう一つの課題がつきまとうわけです。

しかし難しいのは、若い時から「セカンドキャリア」を意識して「守りの選手人生」を歩むようでは、プロ選手としての厳しい生存競争に打ち勝つことはできず、結果、どっち付かずの選手人生を送ることになりかねないという部分があります…

そんな中で、私自身が考える「選手たちが持つべきセカンドキャリアに向けた心構え」というのがあります。あくまでも私の主観ですが、若い選手たちに参考にしてもらえれば幸いです。

以下の点を意識&強化していけば「セカンドキャリア」のプラスになります(自転車選手であることが第二の人生に向けた有意義な研修になるという発想)。

◯一般社会のなかで生き抜いていくこととスポーツ選手として成功することの共通点は多い(自己管理・根性・計画性・チームスポーツであれば協調性などなど)

◯多かれ少なかれ海外での活動を経験するので外国での生活や外国人とコミュニケーションをとることに対して敷居が下がる(選手である期間に英語を含めた外国語を習得する)

◯日本人の自転車選手(競輪以外)であれば現状経済的に恵まれていないケースが多いので身の丈にあった(低めの)経済観念が身につき社会に出た時に不満よりも感謝の気持ちの方が大きくなりやすい(第二の人生が楽しくなる)

◯毎日毎日苦しくて厳しい練習(レース)をこなしていると一般社会の労働環境がとても優しく感じる(正直、危険で厳しい自転車選手の労働環境を一つの会社に置き換えると間違いなくブラック企業になってしまうので…)

もちろん、自転車選手であることで得られる多くの幸せもあります(お金や労働環境を除いた)。それは、人間が本来持っているある種の欲求(人や場所との出会い=旅の要素/目標を持って困難な課題に取り組み達成する=自己実現欲など)を満たしてくれるという部分です。

そうでなければ、これだけ多くの自転車選手が世界に存在するわけがありません。また、自転車選手というのは他のスポーツ選手に比べてバイタリティを身に着けやすい様に感じます。

現状、日本に於ける自転車選手(競輪は除く)の地位は決して高くないです。社会的な地位や労働環境が低ければ有能な人材が入ってくるわけもなく、当然このままで良いとは微塵も思っていませんが、しかし、過渡期である現在を乗り切らなくては未来も生み出すことはできません。

これからの時代(社会)に必要とされる能力というのは、間違いなく「自分一人でも渡り歩いていける能力」になります。

正社員であっても一寸先は闇な時代な訳ですから、自転車選手であることを「最高の研修期間」だと思い、いまやれることに全力で取り組めば、きっと有意義な「セカンドキャリア」に繋がっていくはずです。

AUTHOR PROFILE

栗村 修 くりむら・おさむ/1971年横浜市出身。15歳から本格的にロードレースをはじめ、高校を中退し単身フランス自転車留学。帰国後シマノレーシングで契約選手となり、1998年ポーランドのプロチーム「ムロズ」と契約。2000年よりミヤタ・スバルレーシングで活躍した後、2002年より同チームで監督としてチームを率いた。2008-09年はシマノレーシングでスポーツディレクター。2010年より宇都宮ブリッツェンにて監督。2014シーズンからは、宇都宮ブリッツェンのテクニカルアドバイザーを務めた。現在は、一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役につき、ツアー・オブ・ジャパン大会副ディレクターとしてレース運営の仕事に就いている。JSPORTSのロードレース解説をはじめ、競技の普及および日本人選手活躍にむけた活動も積極的に行なう。 筆者の公式ブログはこちら

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