福島晋一「経験ごはん」

Posted on: 2017.01.17

昔レースを勝ったのはいい思い出として、自分の中に残っている。負けたレースも同様で、勝った負けたは特にこの際あまり問題になっていない。

それは、子供のころから今まで食べてきた食物のように自分の細胞の一つをいまでも構成していると信じたい。と同時に、人は常に食べ続けていかないといけないのと同様に経験を積み続けなくてはならないと思う。

一生分生きていくお金を稼げるほど、勝った選手は、果たして経験を積まなくても生きていけるのかというとそうでもないようだ。

経験を積まない生活というのは案外つまらないもので、人は常に経験を求めていて、自分の体でそれがかなわない場合は人の体を使ってでも経験を求めている。

自転車競技における成功とというものはとっても、リーズナブルで、その上に胡坐をかき続けられるほど、頑強なものではない。それはまるで、こぎ続けないと止まってしまう自転車のようだ。

上に上るのはそれなりにこぎ続けないといけないし、下っていくのに力はいらない。下りも追い風のくだりもあれば、向かい風の下りもある。どうせ下るなら、ハイブリッドのように下りながら次ののぼりを上る準備をしたいものだ。

必死に勝ったレースのことすら、今ではすっかり忘れていたりする。

何が忘れさせるかといえば、それはさらに大きな目標であり、その目標がクリアされた時点で、昔の成功は砂浜の上に描いた絵のように忘れ去られていく。

しかし、それは血となり肉となり完全になくなるものでもない。プロとして、居続けるために必要なのは実力だけではない。

向上心、正確さ、自分の実力を正確に把握して有効に使う力、クリーンさ、誠実さ、ネリハリ、実力を維持する力、周りへの気遣い、責任感、計画性などだが、特に自分があげるならMODISTEさだろうか?

日本語に直すと「控えめな」という意味であるが、あえて言うなら「適度な控えめさ」といったものであろうか?外国でやっていくためには「控えめ」だけでは生きていけないからだ。

心の安定性というのも大きな要素であるが、時には心の不安定さを逆に利用して成績に結び付けることができる。プロフェッショナリズムとは非情に奥が深く、これといった正解はいまだに見つけられないが、勝ちつづける為に自分をコントロールする能力といったものか?

AUTHOR PROFILE

福島 晋一 ふくしま しんいち/岡山県出身 1971年生まれ。20歳からロードレースを初め、22歳でオランダに単身自転車武者修行。卒業後、ブリヂストンアンカーに所属し2003年全日本チャンピオンを獲得。2004年ツアー・オブ・ジャパン個人総合優勝、2010年ツールドおきなわ個人総合優勝。2003年から始めたチーム「ボンシャンス」代表に就任。2013年シーズンを最後に引退。JOCのスポーツ指導者育成制度でフランスのコンチネンタルチーム「ラ・ポム・マルセイユ」の監督として2年間の研修を経て、現在はアジアのロードレース普及を目指しアジアサイクリングアカデミーを主宰している。 アジアサイクリングアカデミー筆者の公式ブログはこちら

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