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佐藤一朗「フィジカルトレーニングの指標」

Posted on: 2016.10.09
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前回のトレーニングプランの作成の話の中で「現在の状況(競技力)を向上させるためのトレーニングプランを作成」というテーマがありました。恐らく読まれた方の中には「「テーマだけではなく具体的に教えて欲しい!」と思った方も多かったのでは無いでしょうか。案の定クレーム?(貴重なご意見)を承りました。(笑)
 
ここのところは”営業”との絡みが非常に強いのであまり詳しくは書けないのですが、折角のリクエストですので少しお話ししたいと思います。
 
選手の競技力を上げるためには幾つかの方法があると思います。1つは戦術的な長所を生かすためのトレーニング。もう1つは戦術的なウィークポイントを補う為のトレーニング。そして最後に全体のレベルを上げるためのトレーニングです。
 
例えばスプリンター系の選手が勝つためには、ダッシュ力とトップスピードを強化する事で勝利に近づける事が出来ると思います。またエンデュランス系の選手であればさらに持久力を高めることでロングスパートを躊躇無く仕掛けることが出来る様になると思います。
 
ただ問題は、現時点でその選手がどのレベルで戦っている選手なのか?、そして目標は何処にあるのか?そこが強化のポイントを大きく左右してくると思います。
 
例えば、指導している選手が高校生で県大会の1000mT.Tチャンピオンだったとします。そして彼の目標がインターハイで優勝し、やがては競輪選手になって活躍することが目標だったとします。

1000mT.Tのベストタイムは1’07″95。今年のインターハイの優勝タイムは1’05″197です。こういった場合、彼はスプリンターですがダッシュ力とトップスピードトレーニングをしていれば目標に届くでしょうか?
 
例えば、指導している選手が大学生で全日本クラスのロードレースで優勝した経験を持っていたとします。そして彼の目標はヨーロッパのプロチームに行ってグランツールに出場する事です。こういった場合、彼はエンデュランス系の選手ですから、ロードの乗り込みをしっかりやっていれば目標に届くでしょうか?
 
どちらの場合も答えは”NO”ですね。
 
どちらの選手も決して競技力の低い選手では無いと思います。しかし目標の設定に対して現在の競技力ではまだまだ大きな隔たりがあり、「長所を生かす」前に「ベースを拡大」させるべきだと思います。
 
僕は時々競技力を「ピラミッド」に例えて話をします。簡単に言えば三角形の図形をイメージして貰います。底辺が広いピラミッドは完成させるまでに時間はかかりますが、いずれ相当な高さを作り出す事が出来ます。

しかし底辺が狭いピラミッドは比較的早く完成させる事が出来ますがあまり高くすることは出来ません。無理に高くしようとすれば崩れてしまうリスクを伴うことにも繋がります。
 
これを競技力に当てはめると、基礎体力・パワー・持久力と言った競技力の三大要件(フィジカル要素)は、バランス良く強化されるべきですが、目標が高ければ高い程基礎体力の部分を大切にしなければならないと言う事です。
 
選手が目標としている結果を得るために必要な競技力(ピラミッドの高さ)を分析し、それを可能にするためのフィジカル(土台底辺の広さ)を作り上げて行く事を最優先に考えなくてはなりません。
 
だからといって「基礎体力系のトレーニングだけを淡々とやれば良いか?」と聞かれればそれは違います。トレーニング強度を高め効率的にトレーニング効果を求めるためにも様々な刺激を必要に応じて選んでいく事が大切です。
 
そこで重要になってくるのが前回もお話しした現状把握です。
 
前回は「1000mのタイム計測をして。。。」と書きましたが、最近このコラムを読まれ始めた方には良く解らなかったかもしれませんね。僕が普段使用している1000mのラップタイムによる分析の方法を以前紹介していますので、読んだことのない方は是非目を通して見てください。
トレーニングの選択 後編
 
このラップタイムによる分析だけでも、今選手が持っているダッシュ力、トップスピード、エンデュランスがある程度把握できると思います。是非シーズンが終わる前に1度タイム計測をして現状をしっかり把握してみてください。
 
さて、タイムデータの分析である程度ダッシュ力(トルクの大きさ)、トップスピード(パワーの大きさ)、持久力(エンデュランスの能力)が掴めたと思います。ここで出て来た選手個々の特徴に併せてトレーニングプログラムを作成するのですが、その前にもう1つチェックして欲しい事があります。それは「しっかり自転車に力を伝えられているか?」と言う事です。
 
自転車という機材を利用して行うスポーツですから、自分の力を自転車に伝える事は、フィジカルのトレーニングを行う事と同じくらい大切な事です。自転車に対して正確に力を伝えられていなければ「速く走れない」のは勿論ですが、自転車を使って負荷をかけたトレーニングを行う上で「トレーニング効果を大幅に減少させてしまう」事にもつながるからです。
 
そこで行って欲しいのは動作解析です。動作解析と言うと少し難しく感じるかも知れませんが、簡単に言えば動画や画像を撮影して動きを見ることです。人間の目はどうしても動いている物をイメージで捉えやすく、意識をしなければ細かいところまで記憶に留めるのは難しい作業です。でも画像に残しておけばゆっくりと1つずつポイントをチェックする事が出来ます。

実は今から1年半前くらいに解析について少し触れているので、良かったらこちらも併せてご覧下さい。

動作解析 低速域ダンシングポジション
低速域ダンシングポジションでは最大トルクをペダルにかけるため反作用をしっかり抑え込むことが重要になります。重心が前後左右に逃げてしまったり、体幹部が捻れてしまったりと様々な”逃がし”の状態を表してきますので、その点をしっかり注意して見て欲しいと思います。
 
動作解析 中速域ダンシングポジション
中速域ダンシングポジションでは、ペダル加重からの抜重のタイミングを上手く取れずにバックを踏んでしまう事が多々見られます。これはスピードの乗りを悪くしてしまうため、ハロンやTTでのタイムに大きく影響します。自転車の重心に対して左右身体を振りすぎない(自転車を振りすぎない)事や、ハンドル加重になりすぎないように浮き上がった身体を如何にコントロールするかがポイントになります。
 
以上の2点は以前からお話ししているので記憶にある方もいらっしゃるかもしれないですね。この2つ以外にもシッティングポジションでの加速期や減速期、ローラーでのペダリングチェックなど様々な解析ポイントはありますが、今回はいちをここまでと言う事で。(笑)
 
少し長くなってしまいましたね。
 
多くの選手はこれからオフシーズンに入ると思います。言い換えれば今の走りは今シーズン作り上げてきたトレーニングの成果が凝縮した走りと言う事になると思います。「大会が終わったからおわり!」ではなく、今シーズンの記録として1度タイム計測と動作解析(画像撮影)をしてみてください。その中から来シーズンに向けてこのオフの期間に何をすれば良いのか改めて考え直してみて欲しいと思います。

<参考>
過去ログを見直すのも大変になって来たので併せて読んで欲しいタイトルを幾つか紹介しておきます。時間のあるときにでも読んで見てください。

[動作解析 低速域ダンシングポジション]
[動作解析 中速域ダンシングポジション]
[パワーアップの為のトレーニング]
[持久力アップの為のトレーニング]
[スピードアップの為のトレーニング]
[リカバリートレーニング]
[トルクアップと持久力のバランス]
[トレーニング各論① ウォーミングアップ]
[トレーニング各論② トルクアップ/ダッシュトレーニング]
[トレーニング各論③ スピードトレーニング]
[トレーニング各論④ エンデュランストレーニング]
[トレーニングの選択]
[トレーニングの選択 後編]
[スタビリティー向上の為のトレーニング]
[改めて考えるペダリングの難しさ]
[中間速度域の加速] 

※佐藤一朗氏のログ一覧はこちからから

こうして振り返って見ると随分書いている様で肝心なことは何一つ書いていないな。と思いつつ「おぬしも悪やのう!」というしてやった気分に浸っています。(謎)


画像はインターカレッジでの一コマ。個人パーシュートのスタート直前の中井彩子選手。ラップを読んでくれるスタッフがいない事に気がつきカメラを構えていた僕にアピール。何時もは寡黙で大人しい中井選手が、最も緊張するこの場面で見せる笑顔に成長の証を見た気がした。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うトレーナーズハウス代表。自らの競技経験に加え鍼灸按摩マッサージ師としての知識を生かした、運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の研究を重ねる。現在は鹿屋体育大学自転車競技部のコーチとして指導を行うと同時に、競輪・ガールズケイリンなどの多数のプロ選手の指導も行う。中央大学卒/競輪学校63期/元日本代表 ■TRAINER'S HOUSE ■TRAINER'S HOUSE FACEBOOK

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