佐藤一朗「コーチも選手も皆同じ。進み続けなければ転びます。」

Posted on: 2016.06.14

このところ月一更新がすっかり定着してしまっています。楽しみにしてくださっている方申し訳ありません。昨年に比べトレーニング関連の仕事が増えてきたため現場に出る機会が多く、なかなかコラムを書く時間が取れないでいます。(完全に言い訳です。)
 
このところ新しくトレーニングをみせて戴く選手の幅が広がり、さまざまな年齢層や競技レベルの選手の指導をさせて頂いています。そんな中で一つ気がついたことがあったので久しぶりに書こうと思います。
 
僕のトレーニング指導の基本は、「現状を把握し、改善点を導き出し、改善方法を提供する。」事です。その為、初めてのトレーニングの際には基礎トレーニングプログラムを組んで動作解析を行うところから全てを始めます。
 
これまでは大学の強豪チームや若手プロ選手を中心にコーチングする事が多く、ある程度基礎が出来ている選手が殆どなので、細かな改善点を指導する事で結果へと繋げる事が出来ていました。
 
しかし最近は年齢層も高校生からマスターズまで広がり、競技歴は初心者レベルから日本代表クラスまでと実に多様な選手の方々をコーチングさせて頂くようになりました。当然これまで見たことのない個性的な乗りかたをする選手や、独特な癖を持った選手達に出会うことになります。
  
トレーニング指導する事を仕事にするようになっても、トレーニングに関する研究は続いています。常に新しいテーマを見つけては、それを改善する為に身体の基本的な動きを一から調べ直したり、過去のデータを掘り返しては新しい推論を立て、それを実践するトレーニングプログラムを取り入れて検証しています。
 
当然と言っては語弊がありますが、時として指導方法や考え方が変わってしまうことも少なくありません。(過去に指導を受け下さった方には申し訳ない気持ちで一杯です。)
 
実はこの新しいテーマのきっかけになりやすいのは、多くの場合「走れている選手」ではなく「走れていない選手」をコーチングしている時です。
 
これまで余り気にしてこなかった、あるいは気がつかなかった問題点が、競技力の向上の為にどうしても改善しなければならないレベルで見つかった場合、「何故こんな踏み方をするのだろう?」「どうしてこんな動き方をするのだろう?」と考え始める事で、頭のスイッチが入ります。
 
最近は個性的な乗り方をする選手が増えたので、頭のスイッチが入りすぎて困りますが。。。。
 
そんな中最近のテーマはダッシュ力の強化ポイントです。ペダルをしっかり踏み込む為に重心ポジションを修正し、必要であればそのポジションを維持する為に必要な筋力強化についても指導します。
 
ここまではどの選手にも分かりやすく、比較的簡単に改善方向に進めることが出来るのですが、問題はここからです。ペダルを全力で踏み込む為には、それ以外の筋肉もかなりの割合で出力する事を求められます。
 
筋肉の出力を高める事は関節を動かすことにつながりますが、一方で関節の動きを固めてしまう事にもなります。大切な事はペダルを踏み込む為に必要な関節に適切な出力を促し、必要のない関節は可能な限り脱力させることです。
 
分かりやすく具体例を上げて見ます。
 
ペダルを踏み込む脚力をイメージしてください。理論上ペダルは上死点を過ぎたところから下死点手前まで踏み込んでクランクを廻すトルクを発生させることが出来ます。時計の針で例えるなら12時を過ぎた所から6時の手前までです。
 
実際にはクランクに対して入力の方向が一定ではなく、3時付近が最も踏み込んだ力とクランクを廻す力に伝達のロスが少なく、12時付近、6時付近に近づけば近づくほど踏み込んだ力はクランクを廻す力にはなりにくくなります。
 
そして1番の問題はペダルを踏み込む力は6時を過ぎた瞬間ブレーキをかける力に変わってしまうことです。つまりペダルを踏み込んで自転車を走らせるためには、12時過ぎのポイントから踏み込んで、6時ではその力をゼロにし、次の踏み込むタイミングのために”引き上げる”(持ち上げる)必要があるのです。
 
如何でしょう?これを読まれている皆さんは、6時の時点で出力をゼロにしてペダルを”引き上げる”事が出来ていますか?たったこれだけの事ですが、この出力の切り替えが出来ているか出来ていないかだけでダッシュ時の加速力は大きく変わってきます。
  
これはとても分かりやすい例えでしたが、実際にはハンドルを握る手からペダルを踏み込む足まで様々な筋肉・関節の動きに全て意味があります。グリップを持つ手の意識を一つ変えるだけでも、巡り巡ってペダルの出力に影響を与える事も少なくありません。
 
そんな新たな気づきのきっかけを作ってくれる個性的な選手達に今日も感謝です。
  

画像はロードバイクとTTバイクのセッティング解析(1枚目)と、そのバイクを使って優勝を飾った全日本学生選手権チームロードタイムトライアル(2枚目)。さて何を解析しているでしょう?

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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