佐藤一朗「代表選考の難しさ」

Posted on: 2016.04.07

4月6日、ブラジル・リオデジャネイロで行われるオリンピックのトラック日本代表候補の選手がJCFから発表されました。先日お伝えしたとおり、男子短距離3名、中距離1名、女子中距離1名の計5名の選手が代表候補として紹介されています。

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4名の選手に関してはある程度予想していたので誰もが納得の選考だったと思います。しかし男子中距離の選考に関しては納得というより「こうきたか」と深くうなずく心境で受け止めました。(上手く表現できずにすいません)


画像は昨年全日本選手権オムニアム、ポイントレースで集団から離れてもなお牽制し合う橋本英也選手と窪木一茂選手。

 
実はここ2年間トラック中距離種目であるオムニアムは、窪木一茂選手と、橋本英也選手が激しく代表の座を争っていました。一昨年の全日本選手権(泉崎)では橋本英也選手が圧勝(中距離4種目制覇)、しかし11月に行われた全日本選手権オムニアムでは窪木一茂選手が優勝し、その勢いをかって昨年4月の全日本選手権(修善寺)では中距離3冠と強さを見せつけました。
 
オリンピック選考も佳境となって来た昨年11月の全日本選手権オムニアムでは、両者が執拗なマーク戦を繰り広げ、橋本選手3位、窪木選手5位と両者とも敗れてしまいます。
  
こういった大きな大会の選手選考になると「選考をせずトライアウト(一発勝負)で決めれば良いのでは?」という意見が聞かれます。選考という見えないところで決めるより、誰の目で見ても優劣が分かる場所で決めた方が良いというのは僕も同意見です。しかし、自転車の場合それが通用しない理由が幾つかあります。
 
1つは国内の競技レベルが高くないこと。誰が選ばれてもメダルが狙えるほどレベルが高ければ、トライアウトで決めても問題は無いと思いますが、日本の場合そう言うわけには行きません。
 
2つ目は自転車競技はライバルと戦うだけでなく空気抵抗と戦わなければならない競技と言う事。ちょっと分かりにくいと思いますが、陸上の100mや200mのようにセパレートコースで走る場合、力勝負で良いと思います。

しかし自転車のようにドラフティングテクニックによって脚力の消耗が違う種目の場合、レースのレベルによって選手の評価は全く違うものになってしまうと言うことです。
 
例えば、ロードレースやポイントレースのように長い距離を走るレースで数名の強い選手がいたとします。その中の1人が優勝候補で、他の有力選手はその選手をマークしています。

当然マークしている選手は殆ど先頭に出ることは無く、レースの大半を優勝候補の選手が先頭でレースを進めます。それ以外の中堅の選手は一発勝負をかけて代わる代わるアタックを仕掛けますが、それを追っていくのは常に優勝候補の選手で、それ以外の選手は誰も追おうとはしません。

しかし優勝候補の選手がアタックを仕掛ければマークしている選手は必死に付いてきます。それ以外の場所で脚を消耗しているためアタックを決めきれずにレースはゴール勝負です。結果としてマークしていた選手が表彰台にのり、優勝候補の選手は結果を出せませんでした。
 
実は僕が現役時代に同じ様なレースを経験しています。正直に言います。絶対に勝てません。もちろんそれでも振り切る力があれば良いのでしょうが、僕にはその力がありませんでした。そしてそのレースの結果でその後の大会の代表選考を外される事になるのです。
 
今回のオリンピック選考では、選考する側のコーチや役員の方もさぞ大変だったと思います。もし僕がその立場だったとするとぞっとします。今言ったように国内大会を参考には出来ず、国際大会は各国1名の出場なので同じシチュエーションで比較が出来ないのですから尚更です。
 
2014-2015シーズンのワールドカップでは橋本選手の方がポイントが高かった様に思います。2015アジア選は窪木選手が出場し4位。2015-2016シーズンのワールドカップでは窪木選手に安定した力を見せました。2016アジア選は橋本選手が出場し優勝。タイム系の種目は短距離系は窪木選手がややリード、4kmIPは橋本選手。
 
問題は何を基準に判断のポイントにするか。実はそこにコーチの手腕がかかっていると思います。今回は窪木選手が代表として選ばれましたが、恐らくこの2人の、いえ、今の日本男子中距離陣の争いはまだまだ続いて行くのだと思います。

そしてその争いの先にこそオリンピックのメダルがあるはずです。選ばれた窪木選手のオリンピックでの活躍を期待すると同時に、惜しくも選ばれなかった橋本選手のこれからのさらなる飛躍を期待したいと思います。
 

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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