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トラック短距離界の第一人者、渡邉一成が全日本選抜競輪を制し悲願のG1初制覇

Posted on: 2016.02.16
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14日、福岡県久留米競輪場で、今年最初のG1レース、第31回全日本選抜競輪が行われ、自転車トラック競技日本代表の渡邉一成(福島・32歳)が優勝。北京、ロンドンと2度のオリンピック経験を持つ、短距離界の第一人者が悲願のG1タイトルを獲得した。

トラック競技と国内の競輪。同じ自転車の短距離種目でありながら、競輪選手の多くは別の種目と認識している。そこには様々な要因がある。

自転車やバンク、ルールの違い。また、選手たちが競技活動に打ち込むための保証が用意されていないなど、様々な障壁があり、競技と競輪の両立は困難とされている。そのため、オリンピックを視野に入れた競輪選手がけして多くないのが現状だ。

そのような状況の中、渡邉一成は、デビュー当時から一貫して競技と競輪を両立してきた。そこには渡邉が抱き続ける確固たる考えがある。それは「世界一の脚があれば、国内でも勝つことができる」ということだ。

かつて中野浩一が世界選手権で10連覇を果たし、国内競輪を席巻したように、渡邉も自らの考えを信じ、あえて過酷な状況に身を置き、世界に挑戦し続けてきた。


2015全日本選手権でケイリン3連覇を果たした渡邉一成

そして渡邉は、トラック短距離界では、国内第一人者としての地位に登りつめ、日本を代表するスプリンターとして北京とロンドンで2度のオリンピック出場を果たした。しかし、世界で磨きあげられたスピードは国内競輪では他を圧倒するものの、タイトルのかかったビッグレースでは、ことごとく勝利からは見放されてきた。

一方、3度目のオリンピックとなるリオ五輪の出場枠獲得争いが始まるなか、競技でも苦戦を強いられれることなった。2走を務めるチームスプリントでは、タイムが伸び悩み、さらにケイリンでは、勝負どころで消極的なレースが目立ち、思うような結果を残すことのできないまま、重要なトラックシーズンの終盤を迎えることとなってしまった。

失意の中で迎えた2016年国内競輪初レース。その舞台となったのが、G1レース、全日本選抜競輪だった。大会直前、目標としていたリオデジャネイロオリンピック出場の可能性が薄れ、精神的にも厳しい状況の中、渡邉は信頼できる仲間からのある言葉で吹っ切れたという。「今回は、自分の為にわがままに戦ってこい」。日本の為ではなく、競輪界のためでもない。国内最高峰の舞台で、自分のために力を出し切ることに気持ちを切り変えた。

そして、初日から持ち味のスピードを活かしたレースで順調に勝ち上がった渡邉は、今年初レースで自身7度目のG1レース決勝進出を果たす。

決勝戦には、同じくナショナルチームで凌ぎを削る新田祐大(福島・30歳)、脇本雄太(福井・26歳)といったメンバーも顔を揃え、世界を視野に入れたスピードマン達による高速レースが予想された。

レースは残り2周で脇本が先行体制に入り逃げ切りを狙う中、残り1周で後方6番手の位置から新田がペースアップ。そのすぐ後ろに構えた渡邉も新田のスピードに合わせて発進する。

最終2コーナー、一気に脇本の前に出ようとする新田の行く手を阻もうと牽制に入ったのは脇本の2番手にいた稲垣裕之(京都・38歳)。しかし、稲垣はブロックに失敗し落車。後続2車を巻き込むアクシデントが起きる。

その後、落車を回避した新田、渡邉、さらには渡邉の後ろに続く佐藤慎太郎(福島・39歳)が抜け出し、勝負は3人の戦いとなった。そして渡邉はスピードの落ちた新田を3コーナー過ぎに交わすと、そのまま1着でゴールを駆け抜けた。

「ゴールまで遠く感じた」という渡邉。最後は我武者羅に、そして自分の勝利のためにペダルを踏み込み、待望のG1タイトルをつかみとった。レース後、勝因を「自分の信念を貫いて腐らずにやってきたこと」とコメントした渡邉に「ようやく獲れたな」と多くの仲間が祝福した。

これまで長年に亘り国内トラック短距離界の第一人者として競技と競輪に打ち込んで来た渡邉。常に日の丸の重圧とともに、様々なものを背負い、戦いつづけてきた。

アスリートにとって「重圧」は紙一重だ。時に、選手たちのパフォーマンスを萎縮させ本来の力を封じてしまう。一方で、重圧を力に変え、本来の実力を発揮し、時に想像を超えたパフォーマンスを繰り出すこともある。

ここ数年、「勝たなければならない」というプレッシャーは、渡邉の歯車を狂わせていたのかもしれない。そして、今、「勝ちたい」という欲求をバンクで表現することで、のしかかったプレッシャーを力に変え、大きな結果に結びつけた。

G1タイトルホルダーとして歴史に名を刻んだ渡邉。今回の優勝で年末のKEIRINグランプリ出場も決まり、さらなる重圧が彼にかかることになるだろう。それでも、日本代表として、タイトルホルダーとして、大きな重圧を力に変え、さらなる境地にステップアップしてくれるに違いない。そして、そんな渡邉の姿をみた次の世代が、トラック日本代表のレベルをさらに上げてくれることが彼の願いでもあるだろう。

text:Akihiro Tsugimatsu

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