佐藤一朗「エンデュランストレーニング・トレーニング各論④」

Posted on: 2015.09.23

トレーニング各論の4回目はエンデュランス(持久力)のトレーニングです。一般的に持久力と言うと「長く走れる力」をイメージするかもしれませんが、レースの世界では「ある一定レベルのスピードやパワーを維持出来る」という前提条件が付きます。その為トレーニングおいても様々な要素を勘案しながら持久力を高めて行かなくてはなりません。

運動生理学的に言うと「持久力と出力はエネルギー代謝のバランス」で成り立っています。出力を高める為にはトルクを発生しやすい速筋繊維を多く稼働させなくてはなりませんが、その際産生されるピルビン酸や乳酸を遅筋線維で上手く代謝出来なくては速筋繊維は稼働し続ける事が出来ません。つまり”高い出力”の持久力を向上させるトレーニングとは、この遅筋線維での代謝能力を高める事を目的にします。
 
遅筋での代謝能力を高めるためのポイントは幾つかあります。

1つは酸素を取り込む能力を高めること。[最大酸素摂取量の向上]
もう1つは血液中に酸素を運ぶ為の細胞を増やすこと。[赤血球/ヘモグロビンの増加]
そして最後に筋細胞に酸素を運ぶ為のルートを増やすこと。[毛細血管の増加]

持久力向上の為のトレーニングは「意図的に酸素が足らない状態に身体を追い込み、身体に生理的な変化を促すこと」を目的に行われます。簡単に言うと「苦しい状態を長く続けるトレーニング」と言う事になります。
 
<レペテーショントレーニング>
レペテーショントレーニングとは休息をはさみながら高負荷の走行を反復するトレーニングです。良く似たトレーニング方法としてインターバルトレーニングがありますが目的と効果の違いからここでは明確に区分します。

レペテーショントレーニング(repetition training)の特徴は、高負荷をかけMaxまで追い込んだ後、完全回復を待ってトレーニングを再開する方法です。

例えば「ウォークアップからの600mを3本」という高負荷なメニューを行うとした場合、1本目を走ってから2本目を行うまでのレスト(休憩)を15分から20分程度とり、ハートレイトを指標に完全回復を待って反復します。

最大パワーを発揮する場合、より高い出力を発揮する速筋繊維を最大限活用するため、筋肉は多量の乳酸等酸性物質に満たされ酸性に大きく傾きます。

この状態を「酸素負債」と表現しますが、回復させる為には大量の酸素を送り込み筋肉のpHを戻さなくてはなりません。その指標となるのがハートレイト(心拍数)です。

ハートレイトは酸素の必要量に応じて上昇し、心拍により血液を送り込む事で酸素を供給します。つまり心拍が平常時(ウォーミングアップ終了後程度)に落ち着くと言う事は、ある程度筋肉のpHが回復したことを意味しています。

もちろんトレーニングによる疲労や筋肉のダメージから、完全に脚力が回復するわけではありません。レペテーショントレーニングは、この酸素負債の状態から素早く身体を回復させようとする力、すなわち大量の酸素を取り込めるよう身体に変化を促すトレーニングと言う事です。
 
○ウォークアップ600m╳3
このトレーニングは、速筋繊維を最大限に動作させる事を目的としているので、無酸素パワー(ATP-CP系 + 解糖系)の限界である約40秒程度の走行時間を目安に、踏み切れる距離と負荷(ギア)を設定します。
 
・ギアの設定:筋肉に与える負荷が大きいため競技力に併せて大きすぎないギアの設定を行う。目安としては500TTや1000mTTで使用するギア、もしくはそれよりもやや低いギアで行う事が多い。
 
・距離の設定:無酸素パワーの限界である40秒程度で走れる距離を設定するので競技力の高い男子選手で600m、女子選手の場合500mで行っても良い。
 
・インターバルの設定:完全回復を待って行う為、15分から20分程度のレストをとる。ただし反復トレーニングとして行う為単発のタイムトライアルの様にそれ以上長いレストは取らない。
 
・トレーニング方法:ウォークアップ(歩く程度の速さ)でホーム線(もしくはバック線)よりスタートして600m(500m)を全力疾走する。ゴール後は自転車を降り15分~20分程度のレストをはさみ、それを3本行う。
 
<インターバルトレーニング>
インターバルトレーニングとは休息をはさみながら中負荷の走行を反復するトレーニングです。レペテーショントレーニングと混同してしまいがちですが、1番の違いは負荷が中程度であることと、休息時間が短い(低負荷で運動を継続しながら休む)事です。

インターバルトレーニング(Interval training)の特徴は、ハートレイトの回復を待たずに継続的に筋肉に対して負荷を与え続ける事で、遅筋繊維に対して酸素の供給量を増し代謝能力を向上させようと刺激をする事です。

レペテーショントレーニングでは高負荷をかけ速筋繊維を限界まで追い込む事で最大の酸素負債状態を作るのに対して、インターバルトレーニングでは筋肉のpHを運動継続不可能な状態まで追い込まない中程度の負荷で一定の距離もしくは時間追い込んだ後、低負荷の状態で運動を継続して”運動しながら回復させる”事を目的にしています。

運動を継続しながら回復を促す為には十分な酸素の供給はもとより、遅筋繊維での高い酸化燃焼能力が不可欠なため、身体に対しては高い負荷(生理的要求)を入れる事が出来ます。
 
○ローギアハイケイデンス周回20周╳3
このトレーニングは正確なペダリング、動作筋肉の切り替え、スタビリティーの向上等複合的な目的に行うトレーニングですが、インターバル形式で行う事によりより高いトレーニング効果を得ることができます。
 
・ギアの設定:比較的軽めのギア(ウォーミングアップもしくはリカバリー周回と同程度のギア)で行う。※参考シーズンインの頃は49(50)-17T、シーズン中は49(50)-16Tで行う事が多い。
 
・距離の設定:400mバンクで20周(8km~10km程度)
 
・インターバルの設定:10分程度 ※2チーム編成にして交互に行う事が多い。
 
・トレーニング方法:バンク上段からシッティングのまま惰性で入りペース設定に従いやや遅めのペースで周回を開始する。

最初の10周は1周ごとに1秒ペースアップし、次の5周は上がったペースを維持、最後の5周はそこからMaxまで上げていく。選手は1周ごとに先頭を交代するが、所謂イン交代と呼ばれる交代方法で行う。20周終了後バンク退避路で回復の為の周回を続け、10分程度のレストの後次セットに入る。
 
エンデュランス系のトレーニングは一定の条件を満たせば多種多様にメニューを作る事が出来ます。今回はトラックでのトレーニングメニューを紹介しましたが、ロードトレーニングの中でも一定の区間を決めてペースアップしたり、○分走などと時間を決めてアタックを繰り返すようなトレーニングもとても有効となるでしょう。

その際負荷の設定で有効なのが以前も紹介したパワーメーターです。所属するチームがあり脚力が互角か自分以上の選手が複数いるチームでは、敢えて設定をしなくても高い強度のトレーニングが出来ると思いますが、1人でトレーニングを行う場合や、メンバー的にやや強度が不足する場合にパワーメーターは心強いトレーニングパートナーになってくれると思います。
 
大切な事は無酸素パワー(速筋繊維)によって高い出力を出しつつ、短いインターバルで回復を促し、反復して踏み込める持久力を作る事。その為にはMaxまで追い込むレペテーションと、動きながら回復させるインターバルの違いを理解して、しっかり区別したトレーニングを行わなくてはなりません。自分に合った負荷や時間、そして頻度をしっかり把握して効果てきなトレーニングを行って見てください。

画像は今年の夏合宿で行ったローギアハイケイデンス周回。最初の2セットは少人数で行ったが、疲労の見えてきた3セット目は2班を合同させ10名以上で行った。それでもゴールする頃には…

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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