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佐藤一朗「スピードアップの為のトレーニング」

Posted on: 2015.05.12
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トレーニング理論の各論最後はスピードアップの為のトレーニングについてです。
 
以前にも書いたようにスピードを上げるためには1歩あたりのトルクを上げるか、ケイデンスを上げる、もしくはその両方を行えばスピードは上がります。高いトルクがあればギアを上げることでスピードは上がりますし、ケイデンスを上げられれば同じギアでもスピードは上がります。簡単な事で誰もが解ることだと思います。
 
しかし問題はここからです。一般的にダッシュ力とは低速や中間速度域から加速する力を表していますが、スピードと言えば「速い速度で走り続ける事」を意味すると僕は思っています。もちろん瞬間的に出せる速さをスピードと言うことも出来ますが、レースに於いて「スピードがある」と言えば一定以上の時間それを維持出来ることと考えています。
 
※ここで前回お話しした持久力の話と繋がってきます。もし読んでいない方がいらっしゃったら、申し訳ありませんが前回の「持久力アップの為のトレーニング」の回をお読み頂いてから続きをお読みください。
  
高い出力を続ける為には1歩あたりのトルクを上げるだけでなく、その際のエネルギー代謝がスムーズであることが求められます。持続的なスピードを維持出来る高いトルクを発生させ続ける為には、速筋を稼働させたために生じたピルビン酸や乳酸を、持久系の遅筋で酸化処理(エネルギーとして消費)する能力も高くなくてはならないと言うことです。(ここまでは前回のおさらいですね)
 
さてここからまた難しい運動生理学の話に入ります。頑張って読んでください。
 
自転車を走らせるパワーは主に股関節の伸展と膝関節の伸展によって生み出されます。もちろんこれらの関節を動かす筋肉は日常の生活でも使われています。

特にスポーツをしていない人の場合、歩いたり、階段を登ったりする時の様に脚力を必要とするときには殆どの場合膝関節を使って動いています。それに対して股関節を動かす筋肉は立ったり座ったりしている時に身体を安定させる為に使う事が主な仕事になっています。

これは何を意味しているかというと、膝関節を動かす太ももの表の筋肉”大腿四頭筋”はトルクを出しやすい速筋線維が発達し、股関節を動かすお尻や太ももの裏の筋肉”大殿筋・ハムストリングス”は持久系の遅筋線維が発達しやすい環境におかれていると言うことです。
 
自転車を走らせるパワーは股関節伸展・膝関節伸展の両方でパワーを発揮しなくてはなりません。しかし日常生活で作られた筋肉は股関節伸展では持久系、膝関節伸展ではトルク系の筋肉が偏って強化されています。つまりレースで戦うために必要なレベルのスピードを手にする為には、まずこの筋肉のバランスを改善する必要があります。
 
さらにもう1つ重要な事があります。日本のトップ、そして世界で戦うことを夢見ている選手には必ず理解して欲しい事です。
 
自転車は脚力で走らせる事が出来ます。何度も書きますが、その力は股関節の伸展と膝関節の伸展によって作り出されます。自転車を走らせるときのポジションは人様々ですが、大きく分けるとダンシングポジションとシッティングポジションの二通りに分けることが出来ます。

問題はここからです。実はダンシングポジションとシッティングポジション、そしてシッティングポジションでもサドルの高さや前後位置によって股関節と膝関節の出力の割合が変わってしまうと言うことです。
 
個別に言うときりがなくなってしまうので大まかな説明をすると、ダンシングポジション時の出力割合は膝関節が殆どで股関節の割合はあまり大きくありません。(膝関節の稼働をアシストするために働いているので使わないと言うことではありません。)

一方でシッティングポジションでは股関節の出力割合が大きく膝関節の出力割合が小さくなります。また同じシッティングポジションでも、サドルが高い場合や、サドルを前方に出し重心を前方に移動した場合膝関節の出力割合が増え、サドルを低めにしたり、重心を後方に下げた場合は股関節の出力割合が増えることになります。
 
少し解りにくくなってしまったので簡単に整理します。
 
・ダンシングポジション   股関節の出力 ≪ 膝関節の出力
・シッティングポジション  股関節の出力 > 膝関節の出力
・シッティングポジション時 
 サドル高い/重心前    股関節の出力 ⤵ 膝関節の出力 ⤴
 サドル低い/重心後ろ   股関節の出力 ⤴ 膝関節の出力 ⤵
  
ここでスピードを出す場合のポジションを考えて見ましょう。

ダンシングポジションではケイデンスを上げた状態で維持する事は難しいので、スピードを出すためにはシッティングポジションで走る事になります。先ほどもお話ししたように、元々持っている筋肉のバランスは膝関節伸展はトルク系、股関節伸展は持久系の筋線維が発達しています。

その為ダッシュ時には膝関節の出力を優位にしたダンシングポジションで走る事で問題はないのですが、スピードを出すためにはシッティングポジションに移行しなくてはなりません。その時中心的に働く股関節伸展の筋肉(大殿筋・ハムストリングス)は持久系が発達していてトルク系の筋力強化が不足しているのです。
 
ここまで細かく説明すれば察しの良い方はもうお解りですよね。そうなんです。スピードを上げるためには股関節を伸展させる大殿筋とハムストリングスのトルク系の強化をしなくてはならないと言うことです。

実は、トラック、ロードに限らず日本の自転車競技選手の最も大きなウィークポイントは、この股関節伸展筋の強化が圧倒的に不足していると言うことなんです。
 
ゴールスプリントで勝てる高いトップスピード、なだらかな坂道をシッティングのまま登っていけるパワー、向かい風や横風に負けない走力、これら全ての力は股関節伸展筋から生み出されています。
 
日本では自転車競技を始める年齢が遅く、多くの人が高校入学以降に始めています。その為、筋肉のバランスがある程度確立してしまっている事が多く見られます。

日常の生活で出来てしまった筋肉のバランスは容易に変更することが出来ません。ただ自転車に乗るのではなく、自分のウィークポイントをしっかりと理解して、それを克服するトレーニングをしっかり行っていきましょう。

画像はスピードが必要とされるトラック種目「チームパーシュート」とロード種目「チームタイムトライアル」です。

チームタイムトライアルの画像の先頭を走るのは、5/9に開幕したジロ・デ・イタリアにNIPPO・ヴィーニファンティーニ・デローザから出場する石橋学選手です。中継もあるようです。ご覧になれる方は是非応援してあけで下さい!!

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うトレーナーズハウス代表。自らの競技経験に加え鍼灸按摩マッサージ師としての知識を生かした、運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の研究を重ねる。現在は鹿屋体育大学自転車競技部のコーチとして指導を行うと同時に、競輪・ガールズケイリンなどの多数のプロ選手の指導も行う。中央大学卒/競輪学校63期/元日本代表 ■TRAINER'S HOUSE ■TRAINER'S HOUSE FACEBOOK

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